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私のヒーローは悪役令嬢  作者: ウール100%


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13/27

悪役令嬢、学園に転入する3

だが静花は違った。

「ええと、岩水君。私、あんまり運動神経良くなくて迷惑掛けるかもしれないけどよろしくね」

 自信なさげな笑顔。彼女は一法が組んでくれたことに心から感謝しているようだった。相手を見下すような気配はみじんも感じられず、彼は己を恥じた。

 確かに静花のサーブはまったく飛ばなかったり、あさっての方向へ飛んだりした。だが一法は初めて体育の授業を楽しんでいる自分に気がついた。

 以来、教室でもそれなりに話す仲になった。静花はゲーム狂で時間さえあればゲームをやっているような人間だったが、一法が声を掛ければすぐに顔を上げて微笑んでくれた。

 それで一法の方も安心して話せるようになった。

 そんな彼女が困っているというので、コーデリアの居住先も転校も世話をした。静花にはとても感謝されたが、「これくらいたいしたことじゃない」と余裕ぶってみせた。内心、彼女の役に立ててめちゃくちゃ嬉しかった。

 だがこれが彼に大きな問題をもたらすことになる。

 またも体育の授業の時のことである。

「テニスのラリーをやるから二人一組になれー」

 女子の50人に1人は「微妙にカワイイ」と言うかもしれないゴリラ体育教師・若杉が呼びかける。今の一法には恐くない指示だ。

 体育の授業は2組と4組の合同だ。遠くに例の生徒会長・日多木の姿も見える。結構な人数の白いジャージの生徒らわらわらとが動く中、一法は静花の後ろ姿にまっすぐ近づいた。

「井本、一緒に……」

「シズカ、私と組みましょう!」

 コーデリアに先を越された。

「コーデリア……うん、一緒にやろう!」

 静花は口元を抑え、目を潤ませたりなどしていた。おそらくこれまで親しい女友達に誘われるということが無かったのだろう。男友達とはまた違った感動があるのかもしれない。

 そのことを微笑ましく思う気持ちはあれど、一法だって切羽詰まっている。静花の他に彼と組んでくれるようなクラスメイトはいないのだ。

(うかつだった……同じクラスに編入させればこうなることは予測できたはずなのに)

 その時、静花がコーデリアの後方にいた一法の存在に気がつき、「あっ」という顔をした。彼が静花と組もうと近づいていたのに思い当たったのだろう。

「そうだ、岩水君もいるんだった。どうしよう……」

 彼女はすっかり困り顔になってしまう。一法としても彼女を困らせたいわけではないし、第一コーデリアを追いやってまで静花と組むなんてプライドが許さない。ここは「そうか、仕方ないな。じゃあ俺は別の奴を探すよ」と颯爽と去るのが正解である。しかしどういうわけか今の一法にはそれができなかった。


「俺も混ぜろよ!」


 声が体育館に響き渡った。恥ずかしながら半泣きである。他の生徒らは思わず話をやめて彼らの方を見た。

 静花は困り果てた。一緒に組んでくれる人がいるのはすごく嬉しいのにどうしたら良いんだろう、とコーデリアと一法を交互に見る。

 するとコーデリアは、

「あら、それならシズカはカズノリと組めば良いですわ」

とあっさり言った。

「コ、コーデリア?」

 驚く静花。

「大丈夫。私は他の方と組みますわ」

「いやでも、今ここにいるのは欠席者引いて79人だぞ。一人あぶれる……」

 一法もコーデリアを引き留めようとする。この流れで静花の相手を譲られるのはあまりに格好悪い。

 だがコーデリアは、

「問題ありません」

と言うと、二人を置いてつかつかと前方へと歩き出した。

 周囲にわらわらといた生徒らは自然と彼女のために道を空けた。

 彼女は左手を腰に当て、右手の人差し指をぴっと向けて言った。

「あなた……私が組んであげてもよろしくてよ!」

 正面にいたのは、生徒には無礼な態度を許さない四角四面ゴリラ体育教師・若杉だった。彼は口をあんぐりと開けた。

「…………は?」



 この後、本当にコーデリアは若杉と組んだ。そして一方的に相手を打ち負かした(もはやラリーではなかった)。彼は体面を潰され、泣いて体育館を走り去った。

 以来、このクラスの授業で彼が「二人一組になれ」と言うことはなくなり、ひっそり一法は救われた。

 そしてこの一件で一法の予言通り、コーデリアは周囲から一歩距離を置かれることになった。

 「なんか面白いけど関わったら面倒なことになりそうだから離れて見ておこう」というジャンルの人物に振り分けられたのである。


「別に私はかまいません。シズカさえいれば」

「私もコーデリアがいてくれたら、それだけで十分だよー」

「その、あの時は悪かったな……助かった」


 授業が終わり、ロッカーへと向かう静花、コーデリア、一法を、生徒の人波の向こうからひっそり見守る人物がいた。綺麗な黒髪を肩の上できっちり切りそろえた、大人しい風貌の少女。ガラスめいた瞳がじっと彼らを観察している。

 そんな彼女が突撃してきたのは放課後のことであった。

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