ep.4 揺れる視線
主人公・相川蓮は、ごく普通の高校二年生。
唯一の友人・小田切翔と共に平凡な日々を過ごしていたが、時折「未来を先取りしたような直感」に襲われる。
最初は「偶然の勘」だと思っていたが、やがてその予感は現実の出来事を正確に言い当てていく。
クラスの中でただ一人、蓮の違和感に気づいていたのが篠宮彩花。
彼女は冷静に観察しながら、時折意味深な言葉を投げかける。
そして翔の体調不良や小さな出来事をきっかけに、蓮自身も「これは予知なのか」と自覚し始める。
第四話 揺れる視線
朝の教室
「おはよーっす!」
翔が教室に飛び込んできて、わざと大げさに椅子を引きずって座る。
朝から相変わらずの騒がしさだ。周囲が苦笑しても本人は全く気にしない。
「おい相川、昨日も思ったけど……まだ顔色悪いぞ」
「……大丈夫。寝不足なだけ」
「ほんとに? お前、すぐ倒れそうだからな」
翔が笑いながら肩を叩いたとき、横から別の声が割り込んだ。
「……無理してるように見える」
顔を上げると、篠宮彩花が立っていた。
以前にも声をかけられたことはある。けれど、彼女がこうして会話に割り込むのは珍しい。
周囲も少しざわついていた。
「っ……」
僕は答えられず、曖昧に笑ってごまかすしかなかった。
⸻
午前の授業
数学の時間。先生が黒板に数式を書き連ねている。
隣の席のやつが、机の端に置いた教科書を肘で押し出しそうになった。
(落ちる──)
胸の奥でざわつきが走り、体が勝手に動く。
僕は手を伸ばし、床に落ちる寸前で教科書を支えた。
「……あ、ありがとう」
隣のやつは驚いた顔で礼を言った。
その一部始終を、前の席から彩花がじっと見ていた。
目が合った瞬間、心臓が跳ね、視線を逸らすしかなかった。
⸻
昼休み
机に突っ伏していた僕のところに、静かな影が落ちた。
顔を上げると、彩花が立っていた。
「さっきの、偶然?」
「……え?」
「教科書。落ちる前に動いてたよね」
真剣な瞳に射抜かれて、言葉が詰まる。
「……たまたまだろ」
「そう?」
彩花は小さく笑い、声を落として続けた。
「君って、他の人と少し違う気がする」
「……どういう意味だよ」
「……自分でも気づいてないんだね」
その言葉が胸に深く残り、僕は何も返せなかった。
⸻
帰り道
「おい相川〜〜!」
翔が隣でニヤニヤして肩を叩いてくる。
「篠宮と話してたとき、お前ニヤけてただろ!」
「に、ニヤけてねぇ!」
「絶対ニヤけてた! あれは恋する男子の顔だ!」
「うるせぇ!」
いつもの調子で返したつもりだったが、顔の熱さは隠しきれなかった。
「いいじゃん、相川。篠宮って美人だし、頭いいし、学年でも評判だぞ? 告っとけよ」
「馬鹿言うな。……そんなんじゃねぇ」
口では否定しても、心臓の鼓動はうるさいほど速い。
ふと後ろを振り返ると、少し離れたところに彩花の姿が見えた。
静かに歩くその横顔が、夕焼けに照らされて淡く光っている。
(……違和感なのか、それとも)
胸に残った言葉と視線が、雨のように降り続いていた。




