表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来を知る僕と、感情を探す君  作者: ヤナギハラマイ
3/24

ep.3 雨音の中で

ごく普通の高校生活を送っていた相川蓮。

しかし「未来を垣間見るような違和感」に悩まされ始めたとき、隣に現れたのは親友・小田切翔の軽やかな笑い声と、転校生・篠宮彩花の静かな視線だった。


平穏と非日常の境界線が揺らぐ教室で、三人の言葉が交差する。

それは友情か、恋か、それとも――もっと暗いものか。


誰を信じ、誰を疑うのか。

ほんの小さな選択が、未来を決定的に変えていく。


第三話 雨音の中で

朝の教室


 朝から雲は重く垂れこめていた。

 山の稜線はすでに白く煙り、湿った空気が教室の中にまで入り込んでいる。


「今日、午後から大雨らしいぞ」翔がぼやく。

「……またか」

「ほんとタイミング悪いよなー」


 そう言って翔はすぐに隣のやつと笑い合った。

 僕はノートを広げながら、胸の奥に小さなざわつきを覚えていた。



午前の授業


 窓を打つ雨の音はどんどん強くなっていった。

 この学校は山のふもとに建っていて、グラウンドの先はすぐ斜面になっている。

 だから大雨のときは土砂災害への警戒が必要で、過去にも「警戒情報」が出て下校になったことがあった。


 四時間目の途中、校内放送が鳴る。


『生徒の皆さんに連絡します。ただいま土砂災害警戒情報が発令されました。本日は午前で授業を終了し、安全のため全員下校してください』


 教室が一気にざわめいた。

 あちこちで「やったー!」と声が上がり、机を叩いて喜ぶやつもいる。


「……はぁ!? 今日、体育バスケだったのに! 楽しみにしてたのに!」翔が机に突っ伏した。

「休みで残念がるやつ、お前くらいだぞ」

「いやマジで! 体育のために今日来たまであるのに!」

「……ほんとぶれないな」


 翔は本気で悔しそうに頭をかきむしる。

 僕はその横顔を見ながら、胸のざわつきが強まっていくのを抑えられなかった。



下校


 昇降口を出ると、雨はさらに激しさを増していた。

 傘に叩きつける音が重く響き、坂道の側溝には茶色い水が勢いよく流れている。


「なあ相川、帰りコンビニ寄ろうぜ! カップ麺とか!」

「……いや、こんな日に?」


 言いかけて、ふと足が止まった。

 目の前の小道──山のふもとへ続く下り坂が、不自然に見えた。


(ここ、危ない)


 胸の奥で、理由のない警告が鳴る。


「おい、どうした?」翔が怪訝そうに振り返る。

「……やめよう。この道、なんか嫌な感じがする」

「えー、遠回りになるぞ?」

「……頼む」


 自分でも驚くくらい強い声が出た。

 翔は一瞬黙ってから、肩をすくめる。


「……わかったよ」


 その直後。

 ゴロッ、と低い音が背後から響いた。

 さっき通ろうとした小道に、山肌から土と石が崩れ落ちていた。


「……マジかよ」翔が呆然とつぶやく。

 傘の下で、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。



彩花との会話


「……やっぱり、避けたんだ」


 背後から声がして振り返ると、篠宮彩花が傘を差して立っていた。

 どうやら僕たちと同じ方向に帰っていたらしい。

 雨に濡れた髪が頬に貼りつき、静かな瞳がこちらを射抜いている。


「篠宮……」

「家、この先だから。……でも驚いたよ、相川くんが道を変えようって言ったとき」

「……なんとなく、危ない気がしただけ」

「“なんとなく”で人を助けられる人は、そう多くないと思う」


 淡々とした声なのに、なぜか心臓に突き刺さった。

 僕は言葉を失い、ただ鼓動の速さを意識する。



帰り道


「お前、やっぱすげーわ! 命の恩人だな!」翔が笑いながら背中を叩いてくる。

「……大げさだ」

「大げさじゃねーって。もしあのまま行ってたら、俺ぺしゃんこだったぞ」


 翔は笑っているのに、本気で感謝しているようだった。

 でも僕の頭に残っていたのは、彩花の真剣な目だった。

(……見透かされてる気がする。あの視線が胸に残って離れない)


 激しい雨音に紛れ込む心臓の音が言うことを聞かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ