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第九話  夏祭り(下)

第九話   夏祭り(下)



鶴ヶ城に到着した花は、門で警備の兵に一礼をして城内に入った。


城の門をくぐった所から見物客も多く押しかけ、花は滅多めったに入れない城内をキョロキョロし始めた。



二の門を過ぎたところに中庭があり、今日の演目が行われる場所にたどり着いた。




そして、演武が始まる。



小さな子供たちによる幼少隊ようしょうたいからであり、十歳程度の子供たちが国の為に頑張って訓練されている。


花の子供を見る目は優しく、盛大な拍手を送っていた。



そして演武は進み、白虎隊の順番がきた。



勿論、花にとってメインであり晋太郎を応援する気持ちがふくらむ。

何故か白虎隊の隊士と同じく、花も緊張していた。



そして、晋太郎の刀術の演武がやってきた瞬間に歓声が上がる。



見物客の一角に鈴など友達が集まっていて、歓声はそこからのようだ。


晋太郎は捕り物での武勲ぶくんから、有名になっているので歓声は当たり前であった。



(わかっているけど、おもしろくない……)

花は歓声の方を向いては頬を膨らませていた。



花が左右に首を振る。

右に晋太郎を見れば笑顔になり、左の女子たちを見れば怒った顔に……

なんとも忙しい花であった。



白虎隊の演目も終わり盛大な拍手の中、晋太郎はステージを降りた。



演目は進み、女性の演武も行われた。

刀、薙刀なぎなたなどの演武であり、花は目をキラキラさせ見入る。

(カッコイイなぁ) 花は魅了されていった。



最後に出てきたのは鉄砲隊である。

町娘の花は、初めてみる鉄砲隊の姿に心を奪われた。



そうして城内での披露が全て終わり、花は城の門で晋太郎を待った。



「ん~ 時間がないけど晋太郎さんに『お疲れ様』を言いたいしな~」


花が横をチラッと見ると、声援を上げていた女子たちの姿があった。



(きっと、晋太郎さんを待っているんだろうな……)


「う~~~っ」 花は握りこぶしで震えだす。



その時、晋太郎や白虎隊の隊士が出てきた。

即座に女子たちは、手ぬぐいを推しの人に渡しに行く。



もちろん、花も手ぬぐいは持っていたのだが先を越されてしまった為に、懐に戻した。



(浮気者……) 


心の中で幾度いくどとなく呟きながら花は家の手伝いの為、帰宅し始める。



花が城から家まで歩いている途中、男性二人が話している所を目にした。


一人は細身で長身のひげを生やした男性で、もう一人は背が小さく、体格の良い男性であった。



「あれ? 城で見物していた 二人よね……?」 


普通の男性が何気ない会話をしている姿なのだが、花は少しの違和感を覚えた。



違和感と好奇心から男性二人を尾行し、街はずれの民家まで来ていた。

付近には民家の集落があり、物陰から二人が入っていった民家を見ていた。


 (どんな人なんだろう……) 花は興味を持ってしまった。



しばらく待っていたが男たちは出てこなかった為、民家を離れて帰宅した。





            ●

「―何をやっていたの?」 帰宅早々、待っていたのは 雪からの怒声どせいである。



「す、すみません……」 花は平謝りをした。

(とても知らない男性の後をつけていたなんて言えない……)



祭りの時の忙しさは普段の日の数倍になる為、花を必要としていた。



そこに晋太郎と白虎隊の隊士たちがやってきた。


“打ち上げかな……? ” 花は店の座席を用意して 

お茶、食べ物を出して楽しんでもらった。



(先程の演武と今の顔は違うな……今、こうしている顔はみんな普通の男の子なんだよな~ こんな子供みたいな男の子たちが国を守るって凄いことだよ)


花は演武の時と、今の彼らのギャップに感心していた。



こうして時間は経ち白虎隊の打ち上げも終わり、お店も暇な時間となった。



「お店も暇になったから休憩しなさい。 晋太郎さんと出掛けたいでしょ?」


と、雪が言う。


「ありがとうございます。では、すこしお暇をいただきます」

と言って、花はお店を後にした。



晋太郎は着替えに自宅に戻っていた。


(晋太郎さんは着替えに帰ったし、約束もしていないから暇だな……)



花は城下をブラブラとし、沢山の露店を眺めていた。

そして数ある露店の品で、ひとつ気になる物を見つけた。



金属製で、桜の花の形の飾り物である。


(これ、可愛いな……晋太郎さんは付けてくれるかな?)

そしてストラップを二つ買い、一つは花の着物の帯に付けた。



花の足は段々と城のほうに向いていた。

どうしても先程の演武の興奮が忘れられず、城を見ながら晋太郎の雄姿を思い出していた。




“いったい どれくらいの時間が経ったのだろう…… ”

花は城を見つめ、時間を忘れていたようだ。



花は引き返し、城下を歩き自宅まで戻ろうとしていた。

そこに目に入ったのは、朝の二人の男性であった。



(あの二人が外に……? そうすると、あの民家は留守……)

瞬時しゅんじに判断した花は、尾行した民家まで走った。



“特に怪しい訳でもなく間者の噂もない ”

ただ花が直観的に惹かれた何かがあって、この民家に来てしまった。


完全な好奇心である。



花はキョロキョロと周辺を見渡しながら民家の敷地に入った。



あの二人が帰ってくる前に、戻ってきても見つからないように民家の裏手に回って中が覗ける所を探す。



花が、わずかな隙間から覗きこむ。


「う~ん……よく見えないか……」 そんなことを呟きながら、覗けるところを探していた。



特に覗けるところは無かったが、敷地の裏手には蔵があった。


花は、いけない事と知りながらも躊躇ちゅうちょなく入口を開けてしまう。 



(怪しいものが入っているかも……)

そんな気がしてならない花だが、一番怪しいのは花である。



花は蔵の中に足を踏み入れると、そこには沢山の武器があった。



蔵の奥に行くと床下には川が流れていて、小舟がある。




(これは武器の密輸みつゆ? 私の感じた違和感ってこれだったの?)

花は武器である、銃、刀、薙刀などを眺めていた。



花は晋太郎に知らせようと思い、戻ろうと蔵を出たところに先程の二人組の男性の声が聞こえてきた。



(ヤバい、見つかる……) 花は焦りだした。 

段々と男たちの声が大きくなり、近くまで来ているのが分かった。



(隠れても、見つかったら命がなくなるんだ。 ここは行こう……) 


「あの……」 花は勇気を出して自ら男たちの前に姿を出し、声を掛けた。




            ●

晋太郎は着替えを済ませ、母親の咲を連れて花の店に向かっていた。


咲が『花に火傷の治療をしてもらったお礼を兼ねて、花のお店で食事をしよう』と提案をしてきたのだ。



「まぁ♪ 工藤様、いらっしゃいませ。 手は良くなりました?」

雪は明るく咲に話しかけた。



「えぇ。 花さんの手当てのおかげで良くなりました。 それで花さんは?」

咲は店内をキョロキョロとする。


 

「先程から休憩させていますが、晋太郎さまと ご一緒かと思ったけど……一人で散歩でもしているのかしら……」


雪は困った顔をしていた。



雪は咲にお茶や団子、小料理などを振舞った。

「美味しい♪ 久しぶりの外食もいいわね♪」 咲は満足そうだ。



しばらくして、花が帰宅して客席を見た。



「――晋太郎さん、お母さま♡」 花は、満面の笑みになっていた。



花を交えて楽しい時間を過ごしていた時、一気に花の店のお客さんが増えてきてしまった。


やはり祭りの最中、客入りの時間が普段とは異なっている。



気を利かせた咲は、

「混んできたし、私は帰りますね。 忙しいみたいだし晋太郎を使って頂戴ちょうだい♪」


そう言って咲は一人で帰ってしまった。




空が暗くなり、そして営業が終了した。



「晋太郎さん、ありがとうございます。 本当に助かりました。 お武家様ぶけさまに申し訳なかったわ」

雪は晋太郎にお礼を言った。



「いえいえ。 大した事も出来ずに、申し訳ありません」

晋太郎は頭をペコペコしながら言う。



「では、僕も帰りますね」 晋太郎が挨拶をして帰っていく時、

「晋太郎さん、これ……良かったら……」


そう言うと、花が昼間に買ったストラップを手渡す。



「ありがとうございます。 どこに付けようかな?」 と悩む晋太郎に

「ちょっと待って」 と言い、裁縫道具さいほうどうぐを持ってきた。



花は晋太郎の脇差しにストラップを付け、

「お守りです」


そして、花は笑顔で晋太郎の帰りを見送った。 



その後、晋太郎と入れ違いで昼間の男性二人組が花の店にやってきた。



「いらっしゃいませ……」

と迎え、お酒と小料理を振舞った。



花と男性二人組は仲良くなっていて、会話が弾んだ。


その様子を雪も見ていて、花を呼び寄せる。



「あの方たちは? 知り合いなの?」 雪が尋ねると


「うん。 仲良くなったの♪」 花は軽く返した。


男性たちは食事を済ませ、「じゃ、帰るわ。 ご馳走様さん」

と言って帰っていった。


この夏祭りで、花の人生が少しずつ変わっていくのであった。


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