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第八話  夏祭り(上)

第八話   夏祭り(上)



夏が本格的になり城下は夏祭りの準備を始めていた。


楽しみにしているのは町民だけでなく、城内の者たちも楽しみにしていた。



城の者たちも毎年、仮装などをして民と触れ合い 子供たちを楽しませてくれる夏祭りは貴重なもよおしとなっている。



「今年は何をやろうかね……?」 花の母親の雪が悩んでいる。



花の家では現代でいうスーパー、コンビニエンスストアのような商店である。


夏祭りの時は商店も当然だが、それ以外の露店を出して収益にしているのだ。


普段は店前にテーブルと椅子を出して茶屋も営んでいるが、去年の夏祭りでは酒やさかなを出して集客をしていた。



城下では祭りの期間、お店以外の民家などの前を利用して 露店を出して良い事になっていた。


その場所取りには組合の主催による、場所取りのくじ引きがある。


雪は組合に出向き、くじ引きをして場所を確保していた。



「去年通りに酒を店に置くんだけど、くじ引きで違う場所も当たったの。 そこに花が出向いて欲しいのよ……花も売上に協力してね」


雪は手を合わせ、ニコニコして花にお願いをしていた。



「わかったけど……どの場所が当たったの?」

花が聞くと、雪は店から地図を出してきた。



「この場所が当たったのよ。 小さい場所なのだけど、何をするかは……これから決めないとね♪」


そう言って、雪は夏祭りの準備をしていた。



「ここか……」 夕方になり、花は地図で見た場所に来ていたが、


「ここ、人は来るの? いや、来ないでしょ……」



祭りのメイン通りから外れ、日中は普通に通る場所だが夜になると殺風景な場所になる。




花はトボトボと歩き、どんな店にしようか悩んでいた。



          ●

夏祭りが始まり、花の家のお店は昼間から絶好調。


店前の茶屋は食事から酒などで売上が良く、常に満員になっている。 

花も店の手伝いでバタバタと動いていた。



午後になり、少しずつ客も減ってきて花と雪は小休憩になる。

そして、二人で食事を摂っていた。



「そういえば、あの地図の場所どうするの?」

花は食事を進めながら、別の店の事を聞いた。



 「あそこね。良い考えを思いついたのよ!」



食事を済ませ、花と雪はテーブルと椅子を運び、何度も往復した。

そして店の準備が整い、営業開始となる。



花は、母親が持ってきた衣装に着替えたが、


「――何が起こっているの?」



花が着替えた服は、黒い装束で髪や顔を隠し、目の部分だけが出ている怪しい姿となっていた。  



また、テーブルの上には怪しい小道具と何やら得体の知れない生き物の骨などがあった。



母様ははさま…… これは??」


花は動揺を隠せず雪に聞くと、


「これは私が考えた露店。 暗くなるし、ピッタリと思ったのよ♪ 頑張ってね、占い師さん♡」 と、ニッコリと笑った。


 「占い師―?」


花は大体のやり方を聞き、答えはテキトーで良いと言われたので売上の足し程度の感覚で始めた。



「――いやいや来る訳がない。 こんな場所で占いなんて……」

花は言われた通り、椅子に座って客を待った。



空も暗くなり、ロウソクに火をともした。


「暇だな……」


しばらく誰も来ず、諦めかけていた頃に若い男女数名がコチラに向かって歩いてきた。



「すみません。 占いをお願いします……」


花は慌てて営業モードに入ったが、その客をよく見ると

「し、晋太郎さん??」



小さな声で驚くが、晋太郎には聞こえなかったようだ。



何故か晋太郎の隣には知らない女子がいて、花は小刻みに震えだした。



(何? 何、その女……鈴といい、また浮気?)



当然ながら花の怒りや嫉妬は大変なものである。


花は手にしている占いの細い棒を数本持ち、声色を変えた。



「何を占いますか?」



「私たちの相性を占って欲しいのですが……」 と、女子が言うと



【―パキッ】 と音がし、花が手にしていた棒が数本折れた。



(この野郎……どうお仕置きをしてやろうか……)

花は、そんな考えしか出来なくなっていた。



「わ、わかりました。 そちらのお名前は?」

静かに花が聞くと、「工藤 晋太郎です」 と答えた。


すると横の女子から「私は……」と言いかけた瞬間に、


「あっ お一人で結構ですよ!」

 と、花は隣の女子の言葉をさえぎった。



(相性なのだから二人の名前が必要じゃない?) 晋太郎たちは疑問を持つ。



花は数本折ってしまった細い棒を使い、占い(真似)を始めて二秒、


「出ました!」


「――早いっ」 と、晋太郎はビックリする。



占い結果は……

「男性の貴方はしっかりしていて正義感が強く、素敵な男性です」


晋太郎はホッとした。



そう言うと、隣に居る女子から

「じゃ、私は?」


「ただのメスでーす♪」


と、即座に結果が言い渡された。

 


(彼女の占いが雑すぎる……) 晋太郎は苦笑いした。



「ただ、男性の貴方は素敵なのですが浮気は気をつけてください。 水難の相が出ています。女性の貴女も気をつけてください。 貴女のことは遊びです。 目的は身体だけなのです。 やめなさい!」



それだけを伝え晋太郎の占いが終わった。

「ちょっと……」 晋太郎は言いかけたが、止めてしまった。



続けて晋太郎の学友、隊士たちの占いが始まった訳だが、結果は勿論『テキトー』に済まされた。



夜も深まり、人の通りも無くなったので店じまいの片付けをする。


その時、一人の男性が走ってきた。

よく見ると晋太郎である。


「やっぱり、花さんだったのですね……」 晋太郎は、花に笑顔で話しかけた。


 

「さっきは……あの……隊士が女子と仲良くなって、無理矢理、一緒に占いを……だから決して……」 と、言い訳を始めた晋太郎に


『バシャー』 と、おけに入っていた水をかけた。


「えーっ?」 晋太郎は驚きの表情になる。



花はニコッとして

「ほら、水難の相が出てたでしょ♪」

と、占いの結果を強引に当てたのだった。



晋太郎は気まずそうながらも笑顔になっていた。



ずぶ濡れの晋太郎は、無言で花の店じまいの手伝いをし、花の家まで荷物を運ぶ係になっていた。



花の家に到着すると店じまいをしており、店前の露店には二人分の食事が出されていた。



「花、おかえり。 晋太郎さまもご苦労様でした」 

と、雪が待っていた。



「さっ、夕飯ですよ。 晋太郎さまも食べていってね♪」

と優しく声を掛けてくれたのだった。 


花は二人分の食事を用意しているのを見て、


(母様が本物の占い師みたいだ……)

なんて思いながら夕飯を食べ、夜を楽しく過ごしたのだった。




翌朝、夏祭り二日目。

「花~、 店前の掃除お願いね~」 雪の言葉から祭りの準備が始まった。


花は手早く店前の掃除をし、開店の準備を済ませる。



「母様、これから城内に行ってもいい? 今日は城内に入れてお披露目があるんだ。 滅多に入れないからさ……」

そう母にお願いをしてみた。

 


すると、「いいわよ。 いってらっしゃい♪ 昨日の売上は貴女のお小遣いだから遊んでおいで」 

雪は優しく見送った。

 


花は城内に向かう前に、寄りたい場所があった。



「着いた。 お母さまは、良くなったかな?」


着いた場所は工藤家の屋敷、晋太郎の家であった。 



花は咲の火傷を心配し、薬を塗りに来たのであった。




「ごめんください」

花は門から入り玄関から元気よく声を出す。



「はーい。 あっ、近藤さんの……」 咲は、花を迎え入れた。



「これでよし。 お母様、だいぶ良くなりましたね」

そう言って手当を終え、花は咲と二人でお茶を楽しんだ。



「今日は城内で晋太郎さん、白虎隊の演武もありますよね。 私、見に行くのですが……」 

と、花は楽しそうに話すが



しかし、咲は、うつむいて口を開く。



「私の主人と、長男の幸太郎は京に行っているの。 戦もあって、大丈夫なのか毎日が心配で……これで晋太郎まで何かあったら……」


母として、妻としての心配ごとを聞かされた。



(武士の家系とは大変なんだな……私は晋太郎さんが好きで追い回しているけど、武士の晋太郎さんの為に私は何が出来るのだろう……)


そんな事を考えさせられる。



勝手に一部の界隈かいわいではあるが、【許嫁】を名乗ったのだから花は覚悟を持っていこうと思った。



そこに、咲が話題を変える。


「そう言えば、貴女は晋太郎から『花さん』って呼ばれてる?」

「はい……そうですが?」 花はキョトンとした顔で答えた。



「この前、晋太郎がね、『行商で花さんが凄い恰好をしていたんだ~』 って話してくれたのよ~」



咲が晋太郎からの話しを思い出し、切り出した瞬間、


「ブーーーーーーッ」 


と、花が飲んでいたお茶が天井に到達する程の勢いで噴き出す。



花の顔は真っ赤になり、

「―お、お、お母さま、まさか あの場にいらしていたのですか??」



おそらく、人生でこれ以上慌てる事ってないだろう……と言うくらいに花は慌てた。



「私は行かなかったのよ。 ただ晋太郎から聞いて、『凄い服を着てて 一番の拍手や歓声を浴びてた』って言うものだから……私も見たかったわ~♡」


「あははは……」



そんな咲の屈託くったくの無い笑顔に、花は げんなり顔になり


(危ない……もう少しで生き恥をお母さまにさらすとこだった……しかし、まさかしゃべるとは……あのクソガキ……)


恥ずかしいのと、怒りが交差する花であった。



「では、私は城へ向かいます。 お茶、ご馳走様でした」

花は礼をして家を出た。









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