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第五十二話 いつも いつもの花であれ

第 五十二話  いつも いつもの花であれ



半年後、冬になりかけた時に会津にやってきた。


「城が、こんなに……」 咲と雪は、ボロボロになった鶴ヶ城を見て涙を流す。

白木も様変わりした様子に絶句する。



「まず、ウチに行きましょう」 花たちは、雪と暮らした商店に向かう。


すると、「変わってない……」 雪が驚く。

「はい。 偶然にも戦火は免れました」 そこに会津の女性たちが顔を覗かせる。


「あら、みなさん……」 雪は驚いている。

「みんなで綺麗にしておきましたよ♪」 会津の女性たちは笑顔で帰郷を迎えていた。


「これは工藤様も……」

咲も歓迎され、工藤の家に案内される。



「まぁ……」 咲は驚いている。 壊れた自宅が修繕してあったからだ。


「これは困ったわね……」 白木が言い出す。

「??」 花が首を傾げる。


「こんなに綺麗に修復したんじゃ、宿場は建てられないわよ……」

これには納得するしかなかった。



「この庭を使いましょう!」 花が言い出す。

「えっ?」 この提案に全員が驚愕する。


工藤の屋敷は自宅より大きな庭がある。 大きな松の木もあり、立派な庭なのである。


「ちょっと糸、婆様に……」 花は糸を雪に渡し、地面に設計図を書き出す。


「こんなのでどうでしょうか?」 あまり綺麗とは言えない設計図だが、大まかな見取り図が出来上がった。


「残念ですが、晋太郎さんの部屋は壊しましょう!」


すると、花の言葉に反応する咲が

「晋太郎の部屋を壊すの……? 私の思い出が……」


「お母様、もう売った家でございます。 それに晋太郎さんは帰ってきます。 そうなれば私と糸との部屋では狭いですし……」 ここまでの構想は立派であった。 最後まで晋太郎が帰ってくると言い切る花の覚悟に押された咲が、



「そうね。 盛大にやってちょうだい!」 咲は、武士の家に嫁いだ覚悟を見せる。


こうして工事が始まった。 庭の大木を切り、地面を作り直す所からのスタートであった。



花は自宅に戻り、荷物を置く。

「糸、貴女の部屋ですよ」 花が案内した部屋は、元々は花の部屋だった場所だ。


「あなた……」 雪が涙を流す。 受け継がれる部屋に感動したようだ。



それから雪は覚悟が決まったようだ。


「白木様、私は京に戻ります。 そして、今までの様に働かせてください」

雪が言うと、


「えっ? いいの?」 白木は驚いている。


「はい。 母としての役目は終わりました。 こうして孫まで見れて……なんの躊躇ためらいもありません。 こちらでの生活は咲さんに任せたいと思います」



「そう……じゃ、この先『老婆の休日』でも楽しみましょうか♪」 



こうして、数年を掛けて宿場は完成する。


雪は白木と京へ戻り、普段通りの生活をしていく。



そして、宿場のオープンの時に白木と雪がやってくる。

「いよいよ完成ね♪」 白木は満足そうだ。


明治七年、暦が変わり太陽暦を用いた年である。


花は二十二歳、鈴は二十歳になっていた。

「さぁ、白木様……」 咲が白木を宿場の中へ案内すると


「この部屋だけ豪華じゃない?」 白木が不思議そうに見る。

「これは白木様だけの部屋です。 ここは誰も使わせません」 咲が説明すると、「咲さん……」 白木は涙ぐむ。



「この宿場のオーナーですから♪」 咲が微笑み、白木が入ろうとすると


「あ~い♪」 白木を追い抜き、糸が先に入ってしまう。


「糸―っ!」 これには全員が笑ってしまう。




この宿場の名前は『白木園』 会津では有名になっていく。


白木園の女将は咲。 若女将に鈴がなった。

鈴の両親は戦争で行方が分からなくなっていて、家も全焼で跡すらなかった。


長年、花の傍で過ごしたこと……晋太郎を好きでいたことから咲は、鈴を養子として一緒に暮らしていく。



花は実家に戻り、茶屋を再開させる。

雪も一人で花を育て、茶屋を経営していた形を花が受け継ぐ。 こうして新しい会津での暮らしを作っていったのだ。



「はい。 夕食のおかず……」 花が鈴に手渡す。

「ありがとう、花さん。 もうお腹ペコペコだったよ~」 


「そんなに忙しいの?」


「毎日、バタバタだよ~」 鈴は泣きそうな顔をしている。

鈴も二十二歳になり、立派に女将の貫禄が出てきた。 いつ咲から任されてもいいように、たくさん勉強もしていた。



花も二十四歳になり、糸も四歳になった。 生活は細々ながら安定していく。



ある日、花の店に一人の客が現れる。


髪は長く、髭を蓄えた男性であり

「いらっしゃいませ……」 花が男性に声を掛ける。


男性はモジモジしながら注文をする。

「すみません……味噌と油と、縫い糸を…… あっ、何色の糸だか聞くのを忘れちゃいました……」



これを聞き、花の目から涙がこぼれる。


「あの……お求めは、この糸でしょうか?」

花の声は震え、店から赤い糸を取り出し男性の小指に結ぶ。



「ただいま。 花さん……」


「おかえりなさい……晋太郎さん」 花は晋太郎に飛びついた。



「糸……あと、この糸もございます」 花は店の奥に行き、最愛の娘の糸を紹介する。


「この……って?」 

「はい、二人の娘の『糸』でございます……」 花は涙を流し、娘を紹介すると


晋太郎も涙を流して糸を抱きしめた。



慌てて店じまいをし、晋太郎を風呂に入れる。

髪を整え、後ろで縛る。 そして髭を剃った。


「やっぱり男ですね。 しっかり顔が大人になりました」 花は笑顔で晋太郎に抱きつく。



そして三人で『白木園』に向かった。

「ここは……」 晋太郎が驚く。


「はい。 白木様が屋敷を買い取り、宿場となったのです」 花が説明をすると



「いらっしゃいませ……」 玄関に入ると、鈴が玄関までやってくる。


膝をつき、挨拶をして顔をあげると……


「そんな…… お母様――」 鈴は立ち上がり、奥にいる咲を呼ぶ。



慌ただしく咲がやってくると

「晋太郎……なの?」 咲の声が震えている。


「はい。 ただいま帰りました……」 晋太郎が咲に抱きつくと


花と鈴は号泣している。


「花さん……良かったね……」 鈴は花に抱きつく。

「うん……信じて待った甲斐があった……」



こうして家族の再会を済ませ、全員で食事をすることになった。



晋太郎は捕虜となっていた。 しっかり真面目にやっていたので釈放をされたとのこと。



翌日、花は糸を咲に預けて晋太郎と飯盛山に来ていた。

線香を上げ、両手を合わせる二人。 共に戦った事を思い出す。

ここには晋太郎が所属していた白虎隊の墓がある。 戊辰戦争で自刃した仲間が眠っている場所だ。



それから日新館にも立ち寄る。 会津藩はもうなく、日新館は閉館となっていた。


「ならぬことは ならぬものです……」 晋太郎と花は小さく呟く。

出会いから、今までの事が思い出される瞬間だった。



そして時を穏やかにすごしていく。


その後、白木と雪がやってくる。 そこで盛大な結婚の儀が行われた。

糸は五歳になり、しっかり二人の娘として育っていく。




そして時代は進み、

一九一六年(大正五年) 六月。 晋太郎は七十歳。

戊辰戦争終結から五十二年が経っていた。 



「お父様、この季節ですね……」 こう声を掛けたのは工藤 糸。

もちろん花と晋太郎の娘である。 糸は五十八歳になっていた。


糸にも孫が生まれている。



「お爺さま、お久しぶりです……」 静かに頭を下げるのは、糸の息子で光太郎である。 晋太郎の孫だ。


糸は、花や咲から聞いていた晋太郎の兄の名前を息子に付けていた。



「光太郎……久しぶりだね」 晋太郎が小さく頷く。


「また、この花ですか? いつも、この時期はクチナシなんですね……」

光太郎は、仏壇に飾ってある花を見て言うと



「そうだね……この白い花は特別なんだよ。 この時期は飾らないとダメなんだ……」 晋太郎は、仏壇を見て笑う。



その仏壇には、花の写真が飾ってあった。


工藤 花。 旧姓、近藤 花である。


花は六十歳で、この世を去っていた。 この日から十二年が経っている。


仏壇の下には、大きな遺影がある。 

そして飾ってあるクチナシの花の横には鉄砲を持っている花の写真が飾られていた。


「しかし、お婆さんが鉄砲を撃っていたなんてね~」 光太郎が言うと、



「そりゃ、凄かったよ…… 蝦夷では “会津の女鉄砲士 ” と、言われてたんだから…… お爺さんは何回も助けられたよ……」


晋太郎は遠い目をして話す。



「それで同じ花を?」 糸が聞くと、


「これは、お母さんの親友と呼べる人が居てね……佐藤 華さんて方の弔いの花なんだ……それで変わらぬ花を毎年、飾っているんだよ」


晋太郎が説明すると、糸と光太郎が仏壇に手を合わせる。



そこには心地よい風が流れる。

そして風に揺れるクチナシの花……



それは、変わらぬもの……


“ いつも いつもの花 ” であった。


読んでくださいまして、ありがとうございました♪

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