第五十一話 復興への道
第 五十一話 復興への道
一八七一年 (明治四年) 春。
「なんか、長いこと会津にいるな……」 そう言うのは金子である。
金子と水軍は、会津復興に向けて尽力していた。
一緒に斗南から来た元兵士や家族、共に活動してきた仲間の家を作り直している。
「本当にありがとうございます」 会津の民から礼を言われ、
「なんか、会津に住もうかな……」 なんて言い出す水軍まで出てきた。
花も感謝していた。
「俊江さん、ありがとうございます」 花と鈴が頭を下げる。
「いいんだよ。 給料は白木様から出てるから」 金子が言うと、
「これも白木様が……?」 花は驚く。
(どれだけ恩が貯まるんだ……どう返していこうか……?)
花は、抱えきれないほどの感謝を京の白木に向けて手を合わせていた。
「それとよ、そろそろ京に戻ろうと思うんだが……」 金子が言い出すと、
「このまま会津に居たらいいのに……」
花が言うと、会津の女性たちが頷く。
「ありがとう……でも、そうはいかなくてな」
金子は平に船を置きっぱなしにしていた。 心配もあり、京に戻ることを決めていた。
五月、金子が帰る準備を始めていた頃。
「ごめんください」 一人の高齢の男性が晋太郎の実家にやってくる。
「はい。 どちら様で?」 水軍の兵士が対応する。
「ここに鉄砲を撃っていた女性は居るかな?」 男性の言葉に、鈴がひょこっと顔を出す。
「あの……どちら様ですか?」 鈴も聞き直すと、
「おや、あの時の娘ちゃんじゃないか?」 男性の声が大きくなる。
「??」 鈴は首を傾げる。
「これ……お前さんだろ?」 男性が一枚の写真を出す。
「あーーッ! あの時の!」
鈴の大声に、花と金子がやってくる。
「どうした? 鈴……」 金子が鈴の肩口から写真を見る。
「花さん……あの時の……」 鈴が写真を見せる。
「あっ…… あの、ご無事でしたか。 あの戦の中、避難しなかったので心配していました……」 花は男性の顔を見てホッとしていた。
「君もいたんだね。 生きていたのを知れて良かったよ。 ちょうど、ここで撮ったやつだ……」
写真を出してきた男性に立ち話も悪いと思い、中に招いた。 そして居間で写真を広げると
「これが鶴ヶ城だ…… まだ壊れる前だったね」 男性は写真を寂しそうに見せる。
(これが、あの様になるのか……)
金子は、改めて戦争の凄さを知っていく。
「そして、この戦争で会津を守り抜こうとした娘だよ」 男性が出した写真は、花と晋太郎が映っていた。
「おー 花、鉄砲を持ってるじゃん♪」 金子は興奮している。
その写真は花が胸の前で鉄砲を抱え、無邪気に微笑んでいる写真だった。
「これと、これと……」 男性が写真を数枚、テーブルの上に置いていくと
「あ、これ私だ~」 鈴が一人で映っている写真と、花、鈴、そして晋太郎と三人で映っている写真を見ていた。
「これが晋太郎か?」 金子が聞くと、花は黙って頷く。
「彼は、いないのかい?」 男性が聞くと、全員が黙ってしまった。
「そうか……悪いことを聞いたね。 お詫びに、この写真あげるよ」
男性は写真を置いて立ち上がった。
「いいんですか?」 花が泣きそうな顔をして聞くと、
「そりゃ、この会津を駆け抜けて私たちを守ってくれた人を、無下には出来んよ」 そう言って、男性は家を出て言った。
「鈴ちゃん、分けよう……」 花は写真を選ぶ。
花は自身の写真と、晋太郎と二人で映っている写真を選んだ。
「晋太郎さん……」 花は写真を抱きしめ、大粒の涙を流す。
その時、金子は箱館での光景を思い出していた。
何かに怯えるように長屋の戸を開け、晋太郎を探していた姿である。
(写真でも、顔を見たらそうなるよな……)
その横で、鈴も同じように泣いていた。
「晋太郎さん……」 二人は何度言ったか分からないくらいに晋太郎の名前を声に出している。
翌日、花は自宅に来ていた。 そこには鈴や金子も一緒である。
「これから住めるようにしないと……」 花が気を吐くと、
「お前、京に戻らないのか? 糸ちゃんもいるんだし……」 金子は慌てるように言う。
「はい。 一度は京に戻ります。 糸もいますしね……」 花がニコッとして家の中を見回す。
「ここを糸の部屋にしよう♪」 花は窓を開け、空気の入れ換えを始める。
「俊江さん……花さんちの食事、すごく美味しいんですよ~♪」 鈴が自慢げに話す。
「今度、食べさせてもらうよ」
「違いますよ~ この店だから美味しかったんです~」 こんな会話をしながら金子も掃除を始めた。
そして、金子たち水軍が帰る日がやってくる。
そこには多くの会津の人たちが集まっていた。
「俊江さん、本当にありがとうございます。 私は、少ししたら京に行きますので……」 花が話すと、
「ならん! お前は母親だ。 糸に顔を見せてやれよ」 金子は花の腕を掴む。
これは蝦夷で無理矢理 船に乗せようとした事を思い出させる。
花も、あの時と同じように金子の手を払う。
「また、同じように連れていこうとするんですか?」 花が金子を睨むと、
「今回は勝手が違う。 なっ?」 金子が会津の者にウインクをする。
すると、
「花さん……子供に顔を見せてやりなよ。 この家は、私たちが綺麗にするから」 一人の女性が花に言う。
「だって……」 困っている花に、鈴が
「花さん。 写真、お母様に見せましょう♪」 そう言って、笑顔を見せる。
「仕方ないな……すみません。 頼んでもよろしいでしょうか? すぐに戻ってきますので……」 花は頭を下げた。
そして、花たちは会津を離れて船に向かっていった。
京、白木邸に戻った花。
「ただいま戻りました」 膝をつき、花と鈴は頭を下げる。
「無事でなによりです」 白木と咲が微笑む。 しかし、その横にいる雪は怒っていた。
「母様? どうかした?」 花がキョトンとした顔で聞くと、
「お前……斗南や会津でも拳銃を撃ったらしいじゃないか」
雪の冷たい視線が花に刺さる。
「いや……それは、仕方なし……と言いましょうか」 花の目が泳ぐ。
「こんなの糸が知ったら、どう思うの? 母親が鉄砲や拳銃を人に向けてたなんて言えないわよ!」
雪の言葉に、全員が頷く。
そこへ 「ばぁ ばぁ……」 と、ヨチヨチと歩いてくる。
「糸―っ」 花が駆け寄り、力強く抱きしめる。
「ばぁ ばぁ」 と言いながら、糸は花の顔を叩く。 花は精一杯の笑顔を見せていた。
夜、久しぶりに全員で食事をすることにより、雪や咲が料理を作る。
花も手伝いをし、鈴が糸と遊んでいた。
「花さん、ちょっといいかしら?」 白木が花を呼ぶ。
「はい。 どうかされましたか?」 花は正座をして構えると、
「今後、どうしたいの?」
「……私は会津に戻りたいです。 そして晋太郎さんを待ちたいと思います」
花は気持ちを白木に伝える。 これは偽りなど一切ない言葉だった。
「それで、雪さんや咲さんはどうするの?」
「それは本人に任せたいと思います……母様や、お母様も幸せになってもらいたいし……」
花も悩んでいた。 白木は母の二人を救ってくれた恩がある。 二人を置いて奉公をさせたいのは事実である。
しかし、気持ちが会津にあれば話が合わなくなっていくとさえ考えていた。
夕食の時間、食卓を囲んで全員が食事を始める。
そこで、花が切り出す。
「今後なのですが、どうしたいか聞いてもいいですか?」
この言葉に全員が黙ってしまう。 これには白木に遠慮しての態度である。
全員が会津に戻りたいと言えば、ここには誰も居なくなってしまう。 これでは白木への恩が仇になってしまうからだ。
「あの……」 花が言葉を出すと、
「はっ―」 全員が我にかえる。
しかし、言葉が出てこなかった。
それから数日、白木と咲で話し込んでいることが多くなる。
それを花が見ていた。
そして、夜に白木の店で食事をする。
この日は、咲と雪が店を任されていたからである。
「いただきます」 食事を始めると、白木が口を開く。
「鈴は、どうするの? 彼氏もいるし、京に残る?」
「私、花さんが会津に戻るなら、私も会津に戻りたいです」 鈴は即答する。
「なんで花さん次第なの? 彼氏はいいの?」 白木は心配そうに話す。
「私、前に花さんに話したのです。 もし、晋太郎さんが帰ってこなくても私が花さんの側に居てあげたいと……同じ人を好きになって、その好きな人の子供を花さんが産んで……大きくなるまで側にいてあげたいのです」
この言葉に、花と咲は泣いてしまった。
「……」 白木の目にも涙が溢れる。
「それで、雪さんと咲さんは?」 白木が二人に顔を向ける。
「それは……」 顔を見合わせる二人。
「咲さん、あの屋敷を改装して宿場に出来ないかしら?」 白木が、突然に言い出すと、
「まぁ、私一人ですので構いませんが……」
「なら、決定。 なら、あの場所を売って頂戴」 白木がニコッとする。
これには全員が絶句するが、
「わかりました。 では、一文で! 譲ったとなると、ご先祖に申し訳が立ちません。 ですので、一文で」 実に太っ腹である。
咲の家は武家であり、豪邸とまではいかないが大きさはある。 これには全員が驚く。 実質、一文は現代でいえば四十円程度に換算される。
「咲さん……」 これには白木も驚くが、
「命を救って頂き、こうして孫の面倒まで……これでいかがでしょうか?」
こうして咲は、白木に土地を売った。
「では、全員で会津に行きましょう♪」 白木の提案で、会津に宿場作りに向かうのであった。




