第五十話 会津の地
第 五十話 会津の地
花たちは米沢を出て会津に向けて歩いていた。 体力が回復した花も、荷車から降りて歩いていく。
「花さん、もうすぐですね~♪」 鈴はワクワクしていた。
花たちが米沢を出立する頃、金子たちは会津に到着していたが、
「何これ……」 そこには信じられない姿が待ち受けていた。
町の道は荒れていて、倒壊した民家が並ぶ。
そして遠くに見える崩れかけの鶴ヶ城があった。
(これは酷い……京でも戦はあったが、ここまでじゃなかったぞ……)
金子や水軍は息を飲んだ。 しかし、その後ろからは すすり泣きが聞こえてくる。
斗南……いや、会津の女性や子供だった。
「もっと良い町だったのです…… なのに……」
「……」 水軍は掛ける言葉さえ見つからなかった。
そこには敗戦国としての現実があった。 敗戦してから時間が経ったが、修復さえしていない光景に金子たちは唖然とするばかりだ。
そこに女性の悲鳴が聞こえる。
「誰か―」
聞きつけた金子が走る。 そこには会津の女性を追いかける新政府軍の姿だ。
「この野郎……」 金子は自身が持っていた木刀で新政府軍を叩いた。
「何をする―」 痛がる新政府軍の兵士が叫ぶ。
「何をする? 嫌がる女を追い回すハエを叩き落としたんだが?」 金子が兵士を睨む。
「貴様……こんな事をしてタダで済むと思うなよ」 倒れたままの兵士が金子を睨むと
“バンッ―” 金子が兵士の顔の横を力強く踏みつける。
「ひっ―」 兵士が身をすくめる。
それから金子たちは会津の町を歩き回る。
そこには町というものではなく、瓦礫が広がった広場というものであった。
「なんなんだ……おい、みんなの家を教えてくれ。 とにかく体を休められる場所を」
金子が言うと、斗南の女性たちは住んでいた場所を案内するが……
「ここもダメか……」
自宅は全壊、または焼失していた。 金子は悩む。
(これじゃ野宿になってしまう……まだ斗南の方がマシってことか)
「あの……工藤様の屋敷も見てみませんか?」 一人の女性が金子に言う。
「工藤? 誰だ?」
「斗南で言っていた、工藤 晋太郎さんのお宅です」
「そうか! 晋太郎の母親は京にいるしな……帰ってから報告もできそうだ」
こうして金子たちは晋太郎の自宅に向かう。
しかし、「ここもダメか……」 金子は工藤家の中に入っていく。
中に入ると、一部は壊れているものの
「この部屋なら使えそうだ。 みんな! 此処を使う。 入れ!」
金子が言うも、女性たちは躊躇している。
「どうした?」 金子が首を傾げると、
「あの……お武家様の家に入るのは……」 女性が話すと、
「武家は、もうない。 それに、この家の工藤 咲様なら京にいるから安心しろ」 そう言うと、全員が晋太郎の自宅に入った。
「ついでに修理しちゃいましょう」 水軍の兵士の提案で、家の修理が始まる。
それを待っている間、
「そういえば、花の家はどこだ?」 金子は女性たちを見る。
すると、全員がポカンとする。
(どういうことだ? 花のことは誰も知らないのか?)
金子は花の存在を不思議に思う。
「すみません……花さんて……?」
「斗南で拳銃を撃ったヤバい女だよ!」 金子が説明すると、
「あの娘、顔は覚えていますが……姓は分かります?」
女性たちは困っていると、一人の女性が口を開く。
「もしかして、近藤さんの所の……?」
「そんな姓だったかな? よく知らんのだが……茶屋の娘とか言ったかな?」
金子は蝦夷に向かう時に、木田や村田が話していたのを思い出した。
「あ~ 雪さんところの―」 女性たちは思い出した。
「そうだ。 母親は雪さん」 金子が手を叩く。
「それなら、コッチです」 女性たちは花の実家の案内を始める。
しばらく歩くと、「ここです」 一人の女性が手を向ける。
そこには無傷の家があった。
(アイツ、本当に町娘だったんだな……鉄砲を使うし、武家の娘と思っていたが……)
金子は花の自宅に入る。 「多少、傷んでるな。 ここも修理しよう」
そう言って、金子は晋太郎の自宅に戻っていく。
「次に必要なのは食料になるな。 今ある物では、すぐに足りなくなる」
金子が言うと、会津の女性たちが微笑む。
「こっち……会津は山もあり、食料は調達できますよ♪」 女性たちは表に出て、山の方へ向かう。
「これはいけるな……」 女性たちは山菜などを採り、食料になるものを集める。 数人の女性は家から米を集めていく。
「釜戸は使えるわね」 料理をテキパキと始めたりと女性たちは会津に戻ってから元気になっていた。
「故郷が一番♪ 本当にありがとうございます」 女性たちは金子に礼を言い、山菜汁を作っていく。
一丸となって晋太郎の実家の修復を修理していくこと一週間、斗南から戻ってきた女性たちは暮らしに落ち着きを取り戻す。
「これから冬が問題なのよね~」 一人の女性が話すと、女性たちはヒソヒソと相談をしだす。
そして数名の女性たちが外に出て、食料を探しにいくと
「おい、お前たちは何をしている」 大声で叫ぶ新政府の兵士たちがやってきた。
新政府の兵士は十人。 会津の女性たちは震えている。
そこに金子が割って入る。
「この方は会津の人だ。 戦争は終わったのだろ? 何故に脅すような真似をするんだ?」
「貴様……何だ、その言い方は。 儂らに楯突くのか?」 新政府軍の兵士は威圧的な態度で金子に凄むと、
“ドカンッ ”
会津の女性が鍬で兵士を叩いた。
「貴様―」 別の兵士が大声を出すと、
「お前らのせいで、この平和だった会津は滅茶苦茶だ! 女だと思って馬鹿にしやがって!」 会津の女性は鍬を振り回す。
新政府軍の兵士は木の棒で応戦をする。 一般の者、それも女性に鉄砲を使う訳にはいかない。 兵士は木の棒を会津の女性に振り上げた。
「うっ―」 女性は倒れ、頭から血を流していた。
「お前……」 金子は殴った兵士を睨む。
「おい― 何をしている?」 男性の声が聞こえると、一人を除いた全員が声の方を向く。
そして、一人の兵士が
「暴れるからだ。 お前らも、そうなりたくなければ…… うっ―」
叩いた兵士が倒れた。
兵士は首を切られ、体を痙攣させている。
(何が起きたんだ―?) そう思った時、倒れた兵士の横に脇差しを持った女が立っていた。
「花―」 金子は声を出す。
「遅くなりました……こいつらまた……」 花が兵士を睨む。
「貴様……こんな事をして、タダで済むと思うなよ」
新政府軍の兵士は花を囲む。 花が兵士たちを見回している。
「やれ―」 一人の兵士が声を出すと、一斉に花に向かって行くと
“パンッ パンッ ” 二発の銃声が響く。
すると、二人の兵士が倒れた。 周囲は唖然とする。
花が残りの兵士を睨むと
「タダで済まないのは、お前たちだ」 拳銃を向ける。
兵士は恐る恐る倒れた兵士を回収すると、「貴様たちの処分は追って言い渡す」 そう言ったが
「その前に、お前たちを処分してやる……」 花の手に力が入る。
殺気を感じた兵士は、急いで撃たれた仲間を連れて引き上げていった。
そこに拍手や喝采が飛び交う。 隠れていた町民まで出てくる。
すると、新政府軍の上官が走ってきて
「貴様か! 兵を撃ったのは」
「私だ。 会津の民に兵士が乱暴をしている。 これをどう説明する?」
花が頭から血を流している女性を見せると
「貴様、名は何と申す?」
「私は、近藤 花だ」 花は上官を睨む。
「何故、拳銃を持っている?」
「お前たちのような者がいる限り、自分を守らなければならないからな」
ここで花は寂しそうな顔をする。
そこに一人の新政府軍の兵士が上官に耳打ちをする。
「なに……?」 上官は焦った反応をすると
「??」 花が首を傾げる。
すると上官は、
「この件、不問に致す。 感謝しろ」
この言葉に会津の民は盛り上がった。 花が会津の民を救ったのだ。
後に、これは公務員として働いている多田の働きだった。 会津の民と近藤 花には不問と致すとの手紙があったそうだ。
これにより、会津は『藩』としての行動以外は目を瞑ることになる。 これは町の復興に向けた第一歩となっていく。
会津は鶴ヶ城だけが新政府、国の管轄となり、町は民に戻されることになる。
花たちが合流し、会津は徐々に元の姿に戻っていくのであった。
「しかし、お前の強運はどうなってるんだ? 兵士を射殺して不問とか……」
金子と水軍は呆れている。
「どうなっているんでしょう……? それより、晋太郎さんの家の修復ありがとうございます」 花は深々と頭を下げた。
「いえ……みんなで押しかけてしまい、こちらこそ ありがとうございます」
これには会津の女性たちも感謝していた。
「これから皆さんの家も直していきましょう」 花は笑顔だった。 これには金子も嬉しそうな顔をしている。
食事を済ませると、花は晋太郎の部屋にやってきた。
少し壊れ、木の残骸などがある。 これを少しずつ拾っては庭に投げると、
「これは台所の火に使いますね」 会津の女性が木を拾い上げては台所に運んでいく。
「ここは?」 金子が晋太郎の部屋に来る。
「ここは主人の部屋です……瓦礫だらけですが、ここも私にとっては大切な思い出が詰まっています……」 花の目に薄らと涙が溜まっている。
「ここが晋太郎さんの部屋……スーハー」 鈴が入ってきて、大きく深呼吸をする。
「鈴ちゃん……」 花は鈴を抱きしめる。
「花さん……」
「晋太郎さんに会いたいよ……」 花と鈴は、大きな声で泣いていた。
こうして会津の夜が更けていく。




