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第五話  幽々自適

第五話   ゆうゆう自適じてき



間者騒ぎも落ち着き、城下には活気が戻ってきた。


しかし、間者騒ぎから日新館は休校したままであり、白虎隊の学友一同は暇を持て余していていた。


そして、真面目な者は個々で学業や武術の鍛錬にいそしんでいる。



「はぁ……学校が無いと退屈です。 自分だけでの勉強や武術だと つい怠けてしまいますね……」


晋太郎は、花の自宅の店で団子とお茶で時間を潰していた。



晋太郎が花の自宅に来ていたのは、晋太郎の母の咲から買い物を言い渡されてきたからである。



学校が休校していて、自宅に居ると母からの用事を無条件で受けなければならない。


そして、渋々と食材を買いに来ていた。



「あら、晋太郎さん?」

花が出先から帰ってきた。



「晋太郎さん、今日は何の御用? あっ! ウチの親に挨拶に来たのね♡」

花は目をキラキラさせ



「式はいつにします? 子供は何人?」


「―はい?」 晋太郎は困っていた。


 「あら~ 本当に可愛い♡」

花は興奮してきて鼻息が荒くなっていた。



(なんか最近、花さん怖いんだよな……でも言えないし……)

晋太郎は肩を落とした。



そこに晋太郎の学友である小田が花の店の前を歩いていた。


晋太郎は小田に気づいたが、よく見ると上の空でボーっとして彷徨っているようにも見えた。



学友の小田は、晋太郎の一歳年上の十七歳。

しかし もっと上にも見えるような、大人びた雰囲気の男の子である。


そして、白虎隊の中でも女性に人気の隊士でもあった。



 そんな小田が、覇気もなく歩いている姿に晋太郎は心配になって声を掛ける。


「小田さん、どうしましたか?」



晋太郎に気づいた小田が

「工藤か……なんでもないよ……」 と返答するが言葉に元気がない。



この言葉でさらに心配になる晋太郎は


「なんか変ですよ。 ちょっとお茶でも飲みながら話しましょう」

と、小田を誘うと



 小田は「まあ、少しだけな。 また勉強小屋に戻るからさ……」

と言って、花の店に入り椅子に腰を掛けた。



花は無言で小田の横にお茶を置くと

小田は無言で頭を下げる。



「小田さん、さっき言っていた勉強小屋って? 自宅じゃないのですか?」



晋太郎は小屋が気になっていた。 普通なら部屋や勉強部屋と言うなら分かるが、勉強小屋と言うのが気になっていた。



小田はお茶を一口飲むと、力の無い声で話しだした。



「俺、兄弟が多くてさ……家も小さいし、うるさくて勉強や鍛錬があまり出来てないんだよ。 だから家から少し離れた場所の小屋でやっているんだよ」



そう話してくれたのだが、晋太郎は

(家が小さい? 兄弟が多いのに別荘的な小屋を持っているのか? 誰かに借りたのかな? 他の隊士と合同とかかな?)

などと頭の中で色々な事を考えだす。



しかし、鈍い晋太郎が考えたところでも無理なので……



「その小屋は誰の所の物です? 誰かと一緒に勉強しているのですか? よかったら僕も入れて欲しいです!」 と、晋太郎は素直に話してみた。



「誰の……う~ん……」 と小田は歯切れの悪い返事で答えた。



 そして花は無言で小田を見つめていたが、


「小田さま。 これから勉強小屋に戻られるのなら、晋太郎さんも連れていったら良くありませんか?」 と、花が言い出した。



それから小田と晋太郎、そして花と三人で小田の言う小屋を目指して歩いていく。




 しばらく歩くと小田が指をさし、

「あの森の中に小屋があるんだ……」 と言い出したが、辺りは森である。



民家も無く、少し怖いような場所であった。



「ここですか? 誰の土地でもないような……誰が与えてくれたのですか?」 晋太郎は心配になり小田に尋ねたが、



「……」 小田は無言のまま小屋へ向かった。



「ここだよ」 小田は小さく笑みを出したが、やはり元気が無い。



晋太郎と花は、小屋を見て驚いた。


“小屋? 納屋? とにかくボロボロだ…… ”



「この小屋は……誰が、小田さんに与えてくれたのですか?」

晋太郎は単刀直入に聞いてみると小田が、


「ここ最近、工藤が活躍して色んな人がお前の所に来て……特に女子は手ぬぐいを渡してきたりするだろ……」 と暗い声で話しだした。



「本当に迷惑しているんですよ~」 花が口を挟む。



「―ちょっと花さん!」 と、話しに口を出してきた花を静止(せいし)する晋太郎。



そして小田が続ける


「そうしたら仲間の俺たちにも女子たちが来たりして、その中に同じように手ぬぐいを渡してきた子がいてさ……」



ふむふむ。と聞き入る晋太郎と花。



しかし花は (まさか? その女子は小田さまを経由して、晋太郎さんに近づこうとして……) と、どうでもいい事まで想像していた。



「それで……その女子が、この小屋を教え与えてくれたのですか?」

と、晋太郎は花のくだらない妄想を余所に聞いた。



「あぁ……少し前に会って、ここに案内してくれて自由に使っていいと言ってくれたんだ」 小田は、そう言って床に腰を下ろした。




「で、今日は……その彼女さんは?」 晋太郎は小田に聞いた。



「はぁ? 彼女? 他の女子に興味あるの? それって浮気じゃない?」


花が いちゃもんを吹っ掛けると、


「花さん……小田さんの大事ですから……」 と花の言葉をさえぎる。



「彼女、恥ずかしがり屋さんみたいでさ……たまに会いにきてくれて、少ししたら帰っちゃうんだよ。 照れ屋さんなのかな……?」



と小田が少し照れたように話すと花は心の中で、 

“照れ屋が手ぬぐいを渡してくるかよ…… ” とツッコミを入れていた。



花は小屋の中を見渡し、外に出ては周辺も見渡している。



しばらくして花が小屋に戻ってきた。



扉を開けた瞬間、小屋の中に陽の光が入った時を花を見逃さなかった。


 「……」

 


そして、花は小屋の中の床に目を向けた数秒後、考えてから小田に口を開く。



「小田さま、ここで勉強と鍛錬をなさっているのですよね?」


花は床を見渡しながら小田に尋ねると

「うん。 ここ最近は、ここで勉強と鍛錬しているんだ」

やはり最初と同じように答えてきた。



「ただ……机も無く、付近には井戸すら無いのです。 水が無ければ墨がれません。 それに……床のホコリですが、小田さまの場所だけホコリが無く、その場所以外はホコリの上に足跡すら無いのですが……」



花は、真面目な顔で小田を見る。



「……」 小田は顔の表情をひとつ変えずに花を見つめる。



「……」 晋太郎はドキドキしながら花と小田の両方を見つめている。



そして花が話しを続ける。

「どう見ても、小田さまが此処で勉強や鍛錬をしているようには見えないのです。 一体、何をなさっているのですか?」


花に質問され、小田は目を泳がし

「いや……勉強を……あれ? 勉強道具が無い……どうなっているんだ? 確かに女子と勉強していたような……」


小田が我にかえった途端に慌てだした。



晋太郎は小刻みに震えだし 

“まさか幽霊……? ” と確かめるように花を見つめた。



小田はうっすら泣いているような、笑っているような複雑な顔を浮かべて話し出す。


「だって仲良くなって一緒に勉強していたんだぜ! これって脈アリだと思うじゃないか!」 語気が強くなった小田の言葉に花が返す。



「小田さま……脈アリどころか、訳アリですよ! 訳アリ物件!」



花の言葉に小田は目に涙を浮かべ 「だとすると、これは呪いだったのか? 俺はどうしたら……」

小田のすがるような言葉に花は小さく笑みを浮かべる。



そして、 「では私が追い払いましょう。 ねっ! 晋太郎さん♪」


晋太郎のキョトンとしている顔を見て花が続ける。



「私は呪いとか信じないけど、幽霊でも女子だと、いつか晋太郎さんにちょっかいを掛けるかも知れないでしょ? 本当は生きている女子の方が怖いって事を教えないとね♪ 霊ごときがっ!」



花の最後の言葉の時、花の目がギラッと赤く光ったように見えて晋太郎の背中に冷たい感覚が走った。



花は小屋を出て、森の中から沢山の葉がついた小枝を集めて紐で結ぶと


「できた♪」

花はホウキを作り、小屋の中の掃除を始めた。



すると、小屋の中はホコリが部屋いっぱいに立ち込めていく。



「小田さま、晋太郎さん、壁を蹴って穴を開けてください」

花の号令と共に、小田と晋太郎は壁を蹴った。



そして数か所の壁に穴が開き、光が入る。

空気が抜けて、ホコリが外へ出ていくのが見えた。

 


待つこと数分、小屋の中の見通しが良くなりハッキリと床が見えてきた。


良くみると、一部分だけ床に不自然な箇所がある。

その箇所は少しだけ板が新しく、ここだけ補修をしたような板になっていた。



花は不自然な床をバンバンと踏みつけた。



しかし身体の細い花の力ではびくともせず、晋太郎と小田が踏みつけると


「さすがに壊せないか……」



晋太郎と小田は、腰につけている木刀を使い叩いて床を壊し始めた。



数分後、「開いた!」 晋太郎が声を上げると、床の下からは白骨が出てきた。

それを見た三人は無言になってしまった。



この時代、辻斬りや山賊が居ても不思議ではない。 

この白骨化した人も犠牲になったのかは定かでないが、なんとも無念な姿であった。



三人は協力して白骨を外に運び、簡単ではあるが土に埋葬して手を合わせた。



これで小田の幽霊騒動が終わったと願うばかりである。



小田は、晋太郎と花に頭を下げて先に帰宅した。


そして、花と晋太郎は小田を見送りながら、ゆっくり歩きだす。



「花さん、今回も大活躍でしたね♪」


晋太郎が花に労いの言葉を言い出すと、花は無言で晋太郎に頭を撫でて欲しそうにする。



晋太郎が花の髪を撫で、感謝を伝えたとき

「ねっ! 生きている人間の方が怖いし、強いのよ♪」 と、話してニコッとする。



「だから晋太郎さんは私から逃げられないのよ~。 もう憑りついているからね~♪」 と両手を前にしてオバケポーズをしてみせた。



(間者も幽霊も追い詰める人に、僕は追い詰められているのか~)

と、晋太郎は苦笑いするのであった。



「んっ? 晋太郎さん何か言った?」 花は晋太郎を覗きこむ。



「―いっ いやっ 何も……」 晋太郎はアタフタするが花は


「ふーん。」 とだけ言い、二人で帰っていくのであった。









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