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第四十五話 夢で逢えたら

第 四十五話   夢で逢えたら



村上水軍の船が蝦夷を離れ、一週間が過ぎたころ


「うげーっ」 花と鈴は船酔いで苦しんでいた。


花の場合は『つわり』もあってか、相当な嘔吐であった。



「俊江様、このままじゃ危ないです。 一度、陸に停めましょう」 

水軍の兵士の提案で、船を仙台で停泊させることにする。



「結構な賑わいだな……」 金子は陸に向かい、仙台の街を眺め 心を踊らせていた。



鈴は陸にあがってから体調を取り戻したが、依然として花は具合が悪そうである。



「おい、花……これ、食べよう」 金子は、串焼きを花に渡すが


「うぅぅ……」 なかなか食事を受け付けない様子であった。


(このままじゃ、身体が弱ってしまう……)



花は身体の線が細い。 そして、ここ数日で また痩せていっている。

言葉にも力がなくなってきていた。



「すみません……貴女は花さんではありませんか?」

声を掛けてきた男性がいた。



(この仙台にも花の知り合いがいるのか?) 水軍は花を見つめる。



「あ~っ!」 鈴が大声をだした。


当然、水軍の全員がビックリする。




「もしかして、斎藤さんですか?」 鈴が男性に近づくと、


『うんっ?』 花は苦しそうな顔で、男性を見る。



「あれ? 本当に斎藤さん?」 花は目を丸くした。


「お久しぶりです。 花さん……」 斎藤が頭を下げると



「生きていたのですね……」 花の目に涙が溢れてきた。



「はい。 白河では、もうダメかと思いましたが……花さんたちが走って逃げてくれたおかげで、私からは目を逸らしたようでした」



「よかった……」 花は涙が止まらず、再会を喜んだ。



「こちらの方々は……?」 斎藤が金子に気づく。


「えっと……なんちゃら水軍って方で……」 鈴が説明するが、かなり曖昧な言い方をすると



「村上水軍の末裔になります。 金子 俊江と申します」 金子が頭を下げる。



「私は、元新選組でした。 斎藤 一と申します」 斎藤は、ニコッとして言う。


(この男が、新選組の斎藤 一……)




「この後、泊まる場所はありますか? よかったら、私の家に来てください」

斎藤は、水軍全員を自宅に案内する。



そして、花の妊娠を知り、斎藤は喜んでいた。


「あの彼の子ですか~ それはめでたい」 斎藤の酒が進む。




「あの、ご存知でしょうか? 私、蝦夷では土方様と一緒に戦っていました」

花が話し出すと、斎藤の酒を飲む手が止まった。



「副長と……? 副長はどうされました?」



「……武士の鏡である、立派な最後でした……」 花は、目に涙を溜めて話す。 




そして斎藤の家に泊まった花の体調は、なんとか回復したように見えた。



「ありがとうございました」

水軍は礼を言い、食料を頂き、船に積んでいく。



「また、お会いしたいですね」 斎藤は花の肩を抱き、耳元で言った。



「はい。 お元気で…… あっ! そうだ」 花は船に乗り込み、荷物を広げる。



そして、 「あった!」 ニコッとする。




船から出てきた花が、

「これ、お借りしていた羽織です」 斎藤に新選組の羽織を差し出すと、



「ふふっ……」 斎藤は笑顔で受け取り、花の肩に掛けた。


「これは、貴女に託した羽織です。 そして、丈夫な子を産んでください」

斎藤は、粋な演出をして花を見送った。




「お前、新選組にまで関わっていたのかよ……」 金子が驚いていると


「たまたまです……」 花は、白河での思い出に浸っていた。 



(会津、白河、蝦夷……みんな良い出会いをしたな~ もし、逢えるなら華さんに会いたい……)


白河での思い出は、やはり華であった。



花は目を閉じて、華とのことを思い出している。




船は進み、 「この辺りはどこですか?」 鈴が聞くと

たいら(現在の福島県いわき市)かな?」 水軍の兵士が答える。



 「なら、その奥が会津……」 花が会話に気づくと、海を眺めていた。

 (白河、会津……ここを通過すると、思い出からも遠くなる……) 花は、時代の移り変わりの早さに困惑している。



船での移動に慣れた頃には、花の つわりも落ち着いてきていた。


「もう吐き気は大丈夫?」 鈴が花の心配をしていると



「うん。 晋太郎さんの服や布団のおかげかな♪」 花が布団にくるまっていると、


「私も入れてよ~」 鈴が布団の端を掴んでいた。



そして、蝦夷を離れて二か月が経とうとした頃

「見えた! 京も近いぞ」



船は、段々と陸に近づいていき


「長旅、ご苦労だったな」 金子が花と鈴を労ると、


 「こちらこそ、ありがとうございました」 花は微笑んで、金子に礼を言った。




 それから数日後、花たちは白木の屋敷に来ていた。



 「白木様、本当にありがとうございました」 花と鈴は、膝をつけて感謝を伝えていると


「いいのよ~ それより、身体は大丈夫? 本当におめでとう♪」

白木は花の妊娠を喜んでいる。



 「それと、京には良い医者せんせいがいるし 安心して出産しなさいね」

白木は医者の手配までしていた。



「そこまで甘える訳には……」 花が困惑していると、



「いいのよ……自分の孫が生まれるようなものだもの……」 白木の楽しそうに話す姿は、本当の親みたいな感覚だった。



「すみません……お世話になります」 花は頭を下げ、白木の家に厄介になることを決める。



この日は、白木の家で身体を休めていた。



翌朝、花が目覚めると

「良い匂い……」 鼻をヒクヒクさせて台所に向かう。



「おはようございます」 花が挨拶をすると、


「おはよう……花……」 そこには、雪が料理をしていた。




「母様……」 花の目に涙が溢れ、雪に抱き着いた。


「よくぞ、無事で帰ってきましたね」 成長した花の姿に、雪も涙を流している。


数秒、二人で抱きしめあっていた頃

“シユウー ” と、音が鳴った。


味噌汁が吹いてしまったようだ。


「キャー」 雪は、慌てて鍋を別の場所に移していく。



そこに、白木がやってきて

「どうだい? ウチのお世話係は気に入ってくれたかい?」

そう言って、ニコニコしていた。



「白木様……これほどまでして頂き、私はどう返したら良いのか……」

白木への感謝は計り知れないものとなっていく。



「良いのよ……雪さんは、私が出している店で働いてもらっているのだから……」 白木は武器の商人であったが、戦争が終わった今、新しい商売を始めていたのである。



「本当に白木様には感謝だわ。 私が会津を離れ、花が紹介してくれた白河に身を寄せていたら、白木さまの使いの人が来て京に案内してくれたのよ」


雪は、白木を見つめて話していた。



「そんな事より……花さんの世話係は二人でやってもらうのよ。 入って!」 


(もう一人? いつから私は姫になったんだ?) 花は首を傾げる。



すると、呼ばれて入ってきた もう一人の世話係は……



「お母さま??」 晋太郎の母親の咲であった。


「花さん、よろしくね♪」 咲の顔は、満面の笑みだった。



こうして二人の世話係が付いた花は、幸せに生活を送っていくこととなる。


ただ、それは最初だけであることを花は知る由もなかった。




「花~ 妊婦だからと言って、何もしないのは良くないわ。 この布で服を作っておきなさい」 雪は大量の反物たんものを花の足元に置くと



「花さん、心を落ち着かせるには生け花が良いわよ~ さぁ、やりましょう」

 咲も負けじと、大量の花を持ってきていた。



 (なんか窮屈だぁ~) 花は三日で、息苦しさを感じてしまう。



 「鈴ちゃん 助けて~」 花は鈴に、すがるように声を出している。



 「もう……花さんだけじゃないんですよ~ 私も、旦那を見つけられるように……って、教養やらを与えられているんです。 見てください! この本の山を……」


鈴が困った顔をして、山のようにある本を見せつけていく。



(これなら戦場に居た方が良かったかも……) 二人の嘆きは、しばらく続いたのであった。



「母様、鈴ちゃんと散歩してきます」 花は鈴を誘い、京の街を散策に出掛けた。


(会津の街は小さかったんだな~) 京の街を歩き、楽しんでいく。



「おはよう~ 花」 金子が声を掛けてきた。


「俊江様……まだ京に残っていたのですか?」

「私は最初から京に居るんだよ」



金子の先祖は村上水軍であるが、未だに瀬戸内海付近に居る訳ではない。

段々と故郷を離れ、散っていったのである。



「花は、このまま京に住むのか?」 


「いえ、会津に戻ろうと思います」

「でも、母親は京に居るだろ? 一緒に帰るつもりか?」 金子は、今後の心配をしていると



「それは母様に任せます。 私は晋太郎さんが帰れる場所を作っておきたいのです」 


花は変わらぬ思いだった。

恐らく晋太郎は、花が京に居る事を知らない。 だから同じ場所、同じ環境で晋太郎の帰りを待ちたいと願っていた。



「それとよ……鈴もだけど、いつかお見合いさせたいな……」

金子の言葉に



“ピコンッ ” 花の耳が立つ。



「それ……ナイスです」 花は親指を立て、興奮気味に食いついた。




話しを聞いた花が頷く。

(これで晋太郎さんに ちょっかいを出す不届者の排除と、鈴ちゃんの幸せをセットで解決できるなんて……)



やはり花は、人間として少し偏った所があった。



「それなら、急ぐしかありませんね♪」 

そう言い残して、花は白木の屋敷に戻って行く。




「……で、ございまして 鈴ちゃんのお見合いを決行したいと思います」

花は高らかに宣言をした。


しかし、この場には鈴の姿が無かった。


そう、花が勝手に進めたのである。




『ポカン……』 白木、雪、咲の三人は開いた口が塞がらなかった。


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