第四十一話 五稜郭を守れ
第四十一話 五稜郭を守れ
五月に入り、蝦夷軍の戦況は悪化。 多くの死傷者を抱えた蝦夷軍は、次の作戦を話し合っていた。
「前線に鉄砲部隊を配置して、横から刀の部隊に斬りこませよう」
もう、こんな単純な戦術しか出せなくなっている。
花は、五稜郭の中をウロウロしていた。
(表の門しか出入り口は無い。 後方に砲を撃たれたら終わる……)
敵の進行が早く、圧倒的に不利な状況でも花は諦めていなかった。
その頃、晋太郎は城の外で洗濯をしていた。
そこに、 「洗濯か! 余裕だな」 笑いながら晋太郎に話しかけてくる者がいる。
土方である。
「そんなの、女房にさせればいいだろう……」 土方が呆れたように言うと
「まぁ、そうなんですが……」 晋太郎は浮かない顔をしていた。
「どうした? 浮かない顔をして」
「いえっ、何も……」
(花さんに洗濯を任せたら、何時になっても終わらない……)
晋太郎は思っていた。 花に洗濯を任せたら、長い時間を掛けて、服の匂いを嗅いでいるだろう……と。
晋太郎は洗濯を終え、干していた。
すると、 “キュン ” と、音がして、晋太郎の服に穴が開く。
『敵襲』
晋太郎を狙った鉄砲は外れ、干した服を貫通していった。
「あ~ 僕の服~」 晋太郎は思わず叫ぶと
「服じゃねーだろ! 早く隠れろ!」 土方は晋太郎を抱え、安全な場所まで引っ張っていく。
「すみません……」 晋太郎はショボンとしていると
「君の女房が言っていたのが、解った気がするよ……」 土方は苦笑いをしていた。
そこに “ドンッ ドンッ ” と、音がする。
花が門に隠れながら敵兵を撃っていた。
「本当に凄いな……君の女房は……」
「はははっ……」 晋太郎は、花との格の違いを実感していた。
「まったく、晋太郎さんは危なっかしいな~」 花が息を漏らすと、
「まったくです……」 晋太郎は反省している。
「はははっ……本当に面白い夫婦だな」 土方は笑っていた。
そして、一人の敵兵が門を抜けて入ってくる。
「覚悟―」 敵兵が鉄砲を構える。
「アッチ……アッチにしてー」 花が土方の方を指さす。
「いや、マズいって」 晋太郎が花を制止すると
「なんでよ? 普通にアッチでしょ」
「軍の偉い人を守るのが兵の役目ですから」 晋太郎は花を説得するが
「私の旦那を撃たせる訳にはいかないわ! アイツでいいのよ!」 花の必死の叫びは土方を呆れさせる。
(この娘、本当に凄いな……)
敵兵が、この仲間割れのような光景に撃つのを躊躇していると
“バンッ ” 一発の銃声がし、敵兵が倒れた。
花がドサクサ紛れに拳銃で撃っていたのだ。
(本当に凄いな……)
晋太郎は、敵兵から武器を取り上げ、涼しい場所へ移動させる。
「動かないでくださいね」
そして、自身の衣服を裂き、敵兵の傷口に当てた。
「なるほどな」 土方は、その場から去っていった。
土方が思っていたことは、花にも理解できていた。
(晋太郎さんは優しすぎる……これが戦で強くなれない原因だ)
でも、『これがいい』 とさえ思っている花であった。
そして敵軍が押し寄せてくる。
「晋太郎さん、行くよ」 花は晋太郎と門を出て、市街戦で勝負を賭ける。
そして、戦火のない長屋に向かい鉄砲の弾の補充をしている。
「みんなで使う弾は、残しておかないとね♪」 花は、田口から供給された弾は長屋に保管していた。
「さて、準備も出来たし、栄養も補充しなきゃ♪」
そうして花は、また晋太郎を押し倒す。
二十分ほどして、花は満足そうな顔をしていたが、
「くぅーん……」 晋太郎は骨抜きになっていた。
「ほら、行くよ!」 花は元気になり、戦に出ようとしていた。
「あ、はい……」 まだ余韻に浸りたかった晋太郎が、支度を強いられる。
そして、遂に長屋の方にも大砲が撃ち込まれてきた。
“ドカン ドカン ” と激しい音が響く。
「ここまで来たか……」
花が鉄砲を構え、狙いを定める。
そこに、小田や蝦夷軍の隊が押し寄せてきた。
ここ一帯は、蝦夷軍の長屋が多くあり、兵士が多く居たのだ。
「いけ!」 蝦夷軍は、一気に敵軍に襲い掛かった。
花は、脇に回り大砲を狙った。
“バンッ バンッ ” と、花の撃つ鉄砲は確実に敵兵を仕留めていく。
そして敵軍が下がっていくと
「よっしゃ」 歓喜の声だった。
「花さん!」 小田が駆け寄ると、次々に蝦夷の兵士が花を讃えた。
「みなさん、無事で良かったです」 花が兵士に目をやると
「―晋太郎さん?」
晋太郎は足を負傷していた。
「すみません、花さん……」 晋太郎の足は、鉄砲の弾が かすっていた。
花は衣服を裂き、晋太郎の足の手当てを始める。
「歩ける?」 心配をしている花に、安心させようと晋太郎は笑顔を見せた。
「大丈夫です」 汗をかきながら痛みに耐える晋太郎であった。
中にも負傷をした兵士がいる。
花は次々と手当てをし、長屋で横にさせた。
「小田さん、お願いしますね」 花は後を小田に任せ、戦場に向かっていった。
戦場に向かう途中、後ろから気配を感じると
「さて、今度は俺も入れてもらおうかな」 花の背後から声がする。
「土方さま」 花が驚いていると
「なんで驚く?」
「軍の偉い方は、城でふんぞり返っているものかと……」
花は嫌味を込めて言った。
「面白い女だな……」
「だから、女って辞めてもらえます?」
「あぁ、すまぬ……」 つい言ってしまった土方は反省している。
「いくか!」 土方の言葉に頷いた花は、敵軍に向かっていった。
これは、無謀とも言える突進だった。
敵軍、数万の陣営に 花と土方の二人で突進していったのだ。
「土方さまは後方をお願いします。 私が先陣を……」 花が言いだすと、
「なんで女が先陣を行くんだ。 ここは俺が行く」
『ゴリッ』 土方の頭に冷たいものが当たる。
「お前、また言ったな!」 花は、土方の頭に拳銃を突き付けた。
「す、すまん……」 土方は両手を挙げ、降参していた。
「次に言ったら、土方さまの下をちょん切りますからね」
花が土方に最終警告をする。
そして、敵軍との間合いを詰めて周囲を警戒しながら進んでいく。
●
その少し前の四月上旬、京では作戦会議が行われていた。
「では、物資を送りましょう」
そう言っていたのは、白木であった。
「頼むわね。 村上水軍の末裔」
「はい。 お任せください」
白木と会議をしていたのは、村上水軍の末裔の 金子 俊江である。
村上水軍とは、戦国時代に瀬戸内海を中心に活躍した海賊であり
かつては織田信長とも互角に戦った猛者で、敗戦後に散らばった水軍の末裔が京にいたのである。
「声を掛け、至急に兵を集めます。 白木様は武器をお願いいたします」
「わかりました。 一週間後に伊予にて武器を揃えます」
白木は大量の武器を送る手配をする。
「それで、蝦夷には本当に 『近藤 花』 という女の子がいるのです?」
金子は不思議そうにしていた。
(何故、蝦夷の女の子を救い出すのに白木様が? たった一人の女の子を救う為に……?) 金子は理解できずにいた。
一週間後の伊予。 金子は出発の用意をしている。
「随分と船に積んだな~」 そう言って現れたのは、村田と木田であった。
村田と木田は花に鉄砲を教え、何度も花を救ってきた二人である。
「しかし、これだけの武器をよろしいのでしょうか?」 金子は驚いていた。
「さぁ、行こうぜ」 村田が催促をすると、金子は声をあげた。
「三百年の時を経て、この白波に魂を打ちつけようぞ! 村上水軍、出発!」
こうして金子率いる、村上水軍の末裔たちは蝦夷に向かった。
「花さん……間に合って」 白木は手を合わせ、祈っていた。




