第四十話 命あるもの
第四十話 命あるもの
戦争が激化し、幕府軍は劣勢に立たされていく。
近代的な武器を駆使し、五稜郭を目指し進軍する新政府軍。
迎え撃つ幕府軍の力も底が見え始めていた。
「花さん……」 声を掛けてきたのは幕府軍の鉄砲隊である。
花は鉄砲隊から射撃の腕を買われ、一目置かれるようになっている。
花の名前を知らずとも、 “会津の女鉄砲士 ” とも言われるようになっていた。
「前線は厳しいです。 回り込んで叩きましょう」
いつしか、花は数名の鉄砲隊に指示を出すまでになっていた。
「花さん、僕はどうしたら……?」 何故か晋太郎までもが花の指示を仰いでいる。
「……」 花は言葉が出なかった。
(まぁ、これが晋太郎さんよね)
敵を回り込んで叩きたいが、晋太郎の刀は何の意味も持たない。
うかつに出れば、的になるのが分かっていた。
「晋太郎さんは、私の後ろから離れないこと」 花が言えるのは、それしかなかった。
“バンッ バンッ ” 花の鉄砲が火を吹く。
新政府軍の兵士は、次々と倒れていった。
(凄い……僕は、こんな凄い人と……) 初めてを知った晋太郎は、こんな時でも思い出してしまった。
「……」 何やら不純な気配を感じ取った花は、晋太郎に目を細める。
「スミマセン……」 晋太郎が素直に謝ると
「生きて帰ったら、いっぱいしようね」 花が笑顔で晋太郎に微笑む。
そして、敵軍の先頭を叩くべく鉄砲を構える。
花が合図をし、二手に分かれた鉄砲部隊が奇襲をかけた。
「いけーっ」 花は鉄砲を撃ちながら、前へ前へと進んでいく。
それに続き、鉄砲隊は相手との距離を縮めていった。
その時、晋太郎は自分の無力さに足が止まってしまい
「あっ……」 取り残されてしまった。
段々と遠くに見えてしまい、花と鉄砲隊は どんどんと進んでいく。
(僕は、刀で何をすればいいんだ?) 足が動かなくなった晋太郎は、下を向いてしまった。
「ここに居ては危ないです。 城にお逃げ下さい」 鉄砲隊の一人が晋太郎に言う。
ハッと我にかえった晋太郎は、頷いて城に走っていった。
そして、時間が経ち
「あれ? 晋太郎さん……?」 花は、晋太郎が居なくなっていたのに気づいた。
(また捕まったとか?) 花の頭には、そんな晋太郎の姿しか思いつかなかった。
「ここもダメか……」 晋太郎は城に向かうが、どうしても新政府軍に出くわしてしまう。
何度も迂回しているうちに、どんどんと城から遠ざかってしまった。
「工藤!」 声を掛けてきたのは小田である。 二人しかいない白虎隊の生き残りだ。
「小田さん、ご無事でしたか」
「あぁ、花さんは?」
小田の問いに、晋太郎は下を向いていた。
「工藤?」 小田は晋太郎を覗き込んだ。
晋太郎は違う事を考えていた。
(僕が花さんと……僕が花さんと……僕が花さんと……)
「おい、工藤?」 小田が心配している。
「―はっ!」 晋太郎が現実の世界に戻ってきた。
「何でしょう? あっ、花さんですよね」 晋太郎の挙動に、小田は複雑そうな顔をしていた。
「お前、花さんと何かあったのか?」 小田の言葉に、晋太郎が『ビクッ』とする。
「なるほどな~」 小田が晋太郎の反応を見てニヤニヤとする。
「な、なんで? その……」 アタフタとする晋太郎に
「あれだけ好意があって、その……不思議じゃないだろ?」 何故か、小田も照れていた。
その時
「いたぞー」 と、叫ぶ声と銃声が聞こえる。
“ピュン ピュン ” 音と同時に、晋太郎と小田の横の壁に穴が開く。
(―見つかった)
二人は慌てて、逃げ出す。
そして、なんとか五稜郭まで戻ってきた二人は
「危なかった……」 肝を冷やしていた。
しばらくすると、花と鉄砲部隊も五稜郭に戻ってきた。
「―花さん」 心配していた晋太郎が、花の元に駆け寄る。
「晋太郎さん、何処に行っていたの? 心配したんだから……」
花の声は、どことなく気弱そうな声だった。
「いや、邪魔にならないようにと……」 アタフタと説明する晋太郎を見て
「それで? 私から離れようとしたのね……」 花が晋太郎を睨む。
「そんな事、あるわけ……」
「ある。 晋太郎さんは、身重の私を放置して何処かに行ったじゃない」
花が叫ぶと、周りのヒソヒソ話しが聞こえてくる。
“花さん、身重だったんだ……それなのにアイツ……”
「いや、違いますからね!」 必死に弁解している晋太郎。
「あっ! 動いた!」
「へっ?」
「二人の愛の結晶♡」 花は、頬を赤らめて言う。
「はい?」 晋太郎は、驚いていると
「あー 愛おしい 愛おしい……」 花は大声で叫んだ。
「やめて~」 晋太郎は必死に止めていた。
(花さん、メンヘラ過ぎるよ~)
夜になり、砲撃の音は止まった。
この日は、交代で長屋に戻ることができた。
「久しぶりに全員が集まったな~」 多田もリラックスしていた。
「とにかく全員が無事で良かった♪」 若菜も久しぶりの再会に喜んでいる。
「そういえば、若菜様は田口様の所じゃなくて良かったのですか?」 鈴は、新婚の若菜を心配していた。
「まだ戦争は終わっていないし、私は会津の人間ですから」 若菜は胸を叩いた。
そして、若菜は花と晋太郎の距離感に気づく。
(はは~ん♡)
「これから戦争も、もっと厳しくなるだろうし、命だけは大切にしてね」
若菜は、そう言って食事の用意を始める。
花が料理の手伝いをしに台所まで来ると
「若菜様、鉄砲の弾の補充、ありがとうございます」 花は料理をしながら若菜に感謝を伝えた。
「いいのよ」 若菜は、そう言って周囲をキョロキョロする。
誰も居ないと確認して、若菜が切り出す。
「コッチの弾も補充したのかしら?」 若菜が花の腹部をポンポンと叩く。
「ブーーーッ」 慌てる花が
「ゲホゲホ……な、何を……」 花は、味見をしていた汁を誤嚥していた。
「分かるわよ~ これでも人妻になったのだから……」
「あぁ……」 花の声が小さくなる。
「鶴ヶ城で約束した、「子供十人産みます」の始まりね♡」 若菜はニヤニヤして料理を続けていく。
(そんな事、言ったな……懐かしいな。 お母さま達は元気だろうか……?)
花は思い出に浸ってしまった。
「でも、晋太郎さんは弱いし、運もなく、読みも浅いですから……」
花が、晋太郎の心配をしていると
「確かに、いつも殴られたり、怪我をしてくるものね……」
「そうなんです。 だから心配で……」 そんな会話から主婦的な会話に発展していく。
そこに鈴がやってきた。
「あ~ なんか格上的な話しをしてる~」 茶を入れてくると
「す、鈴ちゃん? 何? 聞いてたの?」 慌てる花に、鈴は目を細める。
「花さん、戦争中に不謹慎な事は辞めてくださいよね」
「あ、はい……」 鈴の言葉に、素直に謝る花であった。
「一番心配なのは花さんです。 最前線に出て鉄砲を撃っていたそうじゃないですか。 もし、花さんが倒れたりしたら晋太郎さんは生きていけませんよ」
鈴の言葉は正しい。
普通なら晋太郎が最前線に行くものである。
ただ、鉄砲を撃てるからと言っても花は女である。 鈴は、そのことを心配しているのだ。
「正直、この戦争に意味があるのかが分からなくなってきているのよね……」
唐突に若菜が切り出す。
そして、部屋から多田の声がすると
「私も、そう思い出してきた。 もう天皇に政権は奏上しているのだし、このまま戦争を続ける意味が無いと思うんだ」
「そうよね……蝦夷軍は、何故に戦うのか……」 全員が、この戦争に意味があるのか疑問に思ってきた。
「武士として悪いことと思うのだが、このまま和議を結んで欲しいものだ」
この言葉で、せっかくの食事も寂しいものになってしまった。
そして夕飯を済ませた会津の若者は、畳の上で横になっているが
(なんか眠れない……) 花が長屋の外に出ていく。
「なんだ、眠れなかったの?」 若菜も眠れずに、長屋の外に出ていた。
「花、どうする? 会津に帰るか?」
「いえ……晋太郎さんも居ますから」 花が下を向いて答える。
「そうだな。 まぁ妊娠したのかも判らないしね」 若菜は笑っていた。
「あはは」
「ただ、言えるのは……生きろ! これは命あるものの努めだ」
若菜がそう言ってから、二人で星空を眺めていた。




