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第四話  嵐の城下町

第四話   嵐の城下町



晋太郎の活躍? により町は活気づく。 遂には時の人となってしまった。


城下や日新館などではヒーロー的な存在になり、道往く人に声を掛けられ少々お疲れ気味になっていた。



「はぁ、毎日がしんどい……本当は僕の手柄じゃないのに……」 


名声とは裏腹に晋太郎は気持ちを落とし、いつもの河原でたたずんでいた。



「これ、そこの青年! 何を神妙な顔をしているのじゃね?」


と高齢の人のような声がして、晋太郎は振り向く。


 


「なんてね♡ 晋太郎さん、み~つけた♡」

そこには明るく、笑顔の花が立っていた。



しかし、今の晋太郎には花の笑顔が切なく感じていた。



(手柄は花さんのもので、僕の手柄ではない……)

そんな思いが晋太郎の頭を駆け巡っていった。



「確かに、男の子は見栄も大事だけどさ~」


花の諭すような口調から始まる。



「そこは済んだ事だし、素直に受けとれば良いじゃない? それで納得いかないなら、私を此処で抱きしめて♡ あんなことや、こんなことして~。 それで良いのですよ~♡」


と、花がニッコリ笑う。



晋太郎は唖然あぜんとした。



「あっ! 今日はさ、コレを渡そうと思って晋太郎さんを探していたの!」

と、花は着物の胸もとから紙を出して晋太郎に渡す。



「これは……似顔絵?」

誰だか分からない似顔絵に晋太郎は困惑している。



花は腕を組み、晋太郎に似顔絵の説明を始めた。



「この前、間者を捕らえ時、聞いたのよ。 間者は彼一人じゃないみたい……それで特徴を聞いて、もう一人の間者の似顔絵を描いたの!」


そう説明して、花が微笑んだ。

 


(花さん何者なの? 間者を捕まえて、そこから仲間まで吐かせたの?)


晋太郎から微妙な空気が流れた。



「……で、探してきなよ」

晋太郎はボーっとして、花の最初の言葉を聞きそびれていた。



「聞いてる?」 花が晋太郎の顔を覗きこむと、


 「はい、聞いてます。 行ってきますね!」

 晋太郎は城下に駆け出し、似顔絵の男を探しに向かった。




……しかし似顔絵だけでは簡単に見つかる訳もなく、途方に暮れる晋太郎であった。



「晋太郎さん、み~つけた♡」 と、言って花が現れると



「晋太郎さん、間者は見つかった?」 


「いえ……まだ……」 


「晋太郎さん、ちゃんと探してるの?」


「はい。似顔絵を頼りに道往く人を確認しています」

晋太郎は真面目な顔で答えると



 「はぁ……」

花はため息をついて晋太郎を睨む。



「あのさ、間者がその辺をウロウロと普通に歩いてると思う? 前の間者から尋問とかしてないの? 情報は? もしかして要領悪い? ふんどし頂戴♡」


と、たたみ掛けるように言葉が出てきた。



(一番最後のが解らない……) と、苦笑いする晋太郎であった。



「そんなことより晋太郎さん。 間者って、どんな目的でやるのかしら?」


花が質問する。



「そりゃ、国の様子を探ったり……?」

晋太郎は腕を組みながら答えると



「そっか……そうね。 じゃ頑張ってね」

花が晋太郎に言い残し、去っていく。



晋太郎は、花の言葉の意味を考えながら城下を歩いては似顔絵と町民を見比べていた。


(どんな国や人……) 

「――はっ!」  晋太郎は駆けだした。



晋太郎が向かった先には小高い山があり、ここなら町の様子などが伺える所であった。


晋太郎が到着すると、周辺を確認しだす。



すると、 「よっ! 名探偵♪」 

ひょっこり出てきた花が、晋太郎をたたえた。


 「花さん……」



「すごーい。よく思いついたね。 さすが私の未来の旦那様♡」

花は拍手をした。 



「晋太郎さん、コッチコッチ。」 と花が案内すると、一見 見落としそうな場所には小屋があった。



「なかなか来ない場所だし、町からじゃ気付かなかった……ここは何の小屋なんだろう……」


そして小屋の入口のドアを開けてみると、そこには二人の男性が縄で縛られている状態で横たわっていた。



「――誰だ?」

晋太郎が二人の男性の顔を覗きこむと、



「あっ! この人、似顔絵の……」

晋太郎が驚きを隠せない顔になった。



「晋太郎さんが頑張っているので、花も協力しちゃいました~♡」


と満面の笑みで晋太郎に言った。 



「なんで? なんで花さん……」

晋太郎は、恐怖とさえ感じるほどの顔で花に詰め寄る。



「う~ん……この前、間者を捕まえた時に少し聞いていたのよね~ 私。

 だから、この辺りとヤマを張って探していました。 それに……晋太郎さん苦戦していたから、つい……」


と、乙女のように身体を捻じらせながら答えた。



(こんなに凄い事をやってのけて、今更こんな女の子を出されても……)



晋太郎は、ただ茫然と花を見つめるしかできなかった。



           ●

晋太郎は、花の指示通りに二人の間者を城まで連行し、引き渡した。


またしても晋太郎の? 活躍により、また一段と有名となってしまう。



しかし、予想外の事に、それが花自身を困らせる事となっていった。


 

「いかんいかんいかんいかん…… これはいかん……」


なにやらブツブツと困った顔で城下を歩く花。



その先にはヒーローとなり、沢山の人に囲まれている晋太郎の姿があった。



“時の人と仲良くしよう” また、 “一度は会ってみたい ” という人の群れが出来ていたのである。



“工藤様” “晋太郎様” などと、女子が晋太郎のもとに駆け付ける。



「じぃぃぃぃ……」 花は物陰から晋太郎の様子を伺っていた。



そこに群がる女の子たちの中で見覚えのある子がいた。


「前に晋太郎さんに手ぬぐいを渡してきた…… ―確かすずだ! あのリンリン娘、また私の晋太郎にちょっかいを出して……なんなのよ、あの女!」



花の不機嫌が頂点に達してきた。

 


晋太郎はニコニコしながら女の子に対応していると 


“ゴゴゴゴゴゴッ ”


と、怒りのオーラをまとった花が晋太郎の後ろから出てきて



「うしろの正面、だ~~~あれ~~~っ」


 晋太郎の背後から音も立てずに現れた。



「うわーっ」 「キャーッ」


と、晋太郎と女子たちは悲鳴をあげる。



花は強引な笑顔を作り、女子たちに話だした。


「晋太郎さんはお疲れですよ。 そんなに皆さんで騒いだら晋太郎さんの体は休まりませんよ。 なにかあれば許嫁の私まで……」


そう言った後、花は晋太郎を睨んだ。



「浮気ですか? ダメですよ、旦那様」


と低い声で晋太郎に話すと

(えっ? 旦那様?) 晋太郎が目を丸くしていた。



 そして花は無表情になり、女の子たちに無言の圧をかける。



「―し、失礼しますっ!」  


女子たちは逃げていったが途中で鈴だけが足を停めて振り返り、晋太郎を見つめ会釈をして去っていったのであった。



もちろん花も見逃す訳もなく、当然ながら危険人物としてインプットしたのである。

 


 「ふぅ……」 花はため息をついた。



「花さん助かりました。 本当に困っていて……」

と、晋太郎は申し訳なさそうに花に話しかける。



「はぁ? ずいぶんと楽しそうでしたけど?」

花の目尻がヒクヒクと動く。



「こんなに鼻の下を伸ばして、ニコニコしながら笑顔を振りまいて……立派な浮気になりますね。 これはお仕置きが必要ですね」


花はじっと晋太郎を見つめる。



(いや、花さんが一方的に許嫁とか旦那さんとか言い出して……でも怖いから言えない……)


実に晋太郎は優しい青年であった。




場所を移動して河原へ。



縄で縛られた晋太郎は、川の中で立たされていた。


「花さん? これは……?」 晋太郎はビクビクしながら花に尋ねる。


「晋太郎さんに問題~♡」 花は元気よく、明るい声になっていた。



「―いやっ、ちょっと待って! どうして縛られて川に立たされて……って問題?」



花は晋太郎の質問を無視し、問題を出す。



河童かっぱは何分間、息つぎ無しで川に潜っていられるでしょうか?」



「???」

晋太郎は回答に苦しんでいた。



「しょうがないな~ 愛しの旦那様だから、三回まで質問していいよ♡」

花はニコニコしながら質問を待つ。



 「いや、なんでこんな場所で? 質問?」

 晋太郎は釈然とせず、ただ困った顔をしていた。




「この川って前に河童が出たって話しなのよ。 だからね……」


「はい。 一つ目終了~♪」  

「えーーっ??」 晋太郎はビックリしていた。



「これも質問だったのですか? これは質問じゃないんじゃ……?」  



晋太郎の疑問に、

「それは質問でしたよ。 はい二つ目終了~♡」

と、メジャーリーグのピッチクロック並みのテンポで進む。



「あわわわ……」 晋太郎は あたふたしている。




「じゃ 最後の質問は…… 私の好きな人は誰ですか?」 と、花は質問する。



「いや僕は……」 晋太郎は “僕は、どうしてこんな目に? ”

と聞きたかったのだが、 


「いや僕は……」 の瞬間に花が


「せいか~い♪ 私の好きな人は晋太郎さんでした~♡ さすが晋太郎さんね♡」



ホッとする晋太郎。 (なんで花さんは、こんなに機嫌が悪いんだっけ?)

と、悩んだりする。



すると「さすが晋太郎さん♡」

と花は言い、晋太郎の元に向かって川の中に入る。


そして、ゴソゴソと帯の中に手を入れた。



すると一枚の皿を取り出し、その皿を晋太郎の頭に乗せて目をキラキラさせた。


「さすが晋太郎さん。 さて最初の問題ね。 河童は何分間、息継ぎなしで川に潜っていられるでしょうか?」



……無言の数秒後、



「残念、晋太郎さん。 五分間でした♪」

「じゃ、少し河童になって試してね♪」

ニコニコしながら話すが、最後の言葉に恐怖を感じた。



「この浮気野郎……」


ギラっと睨んだ後、またニコっとして晋太郎の足に花の足を掛けて転ばせた。

 


「―うわっ! ゴボゴボ……」



「ふぅ……」 花は満足して川から出てきた。



晋太郎は、しばらくして花に川から出してもらい家に帰る。


「はっくしょん」 


晋太郎は何度もくしゃみをしながら、よろよろと歩いて帰ったのであった。




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