第三十九話 突破せよ
第三十九話 突破せよ
花と鈴は着替え、新政府軍の待ち構える方に進んでいった。
花は芸者、鈴は見習いの服で向かっていったのである。
「鈴ちゃん……無理しなくていいからね」 花は鈴に気遣っていたが、
「大丈夫です。 花さんに拳銃を向けられてから怖いのが無くなりました」
鈴の言葉に、花が苦笑いをする。
段々と新政府軍が近くに見えてくる。
「いくよ」 花が言うと、鈴は黙って頷いた。
花と鈴は、困った顔をして新政府軍に向かって歩く。
すると 「おい、女……何をしている?」 兵士が花に声を掛けると
(女……カチン) 花の顔は、引きつっていた。
花は我慢して、演じることに集中する。
「すみません……この辺りに遊郭はございますでしょうか? 酒席に呼ばれておりまして……」
花は芸子の設定で、数名の兵士を引き離す作戦であった。
「そんな事は知らん! 早く消えろ!」 兵士は戦の最中であり、花たちに冷たく扱っている。
(これだから男尊女卑は嫌いだ……) 花は、つくづく実感していた。
逃げるフリをして迂回した花は、新政府軍の奥に進んでいく。
(段々と兵が多くなっていく……これを打開する策はあるのかな?)
芸子の恰好をしている花たちは、易々と新政府軍の奥まで来て情報を仕入れていく。
また、少し離れた場所で、おおよその軍勢や武器などを紙に書いていた。
「こんなものか……」 花たちは急ぎ、五稜郭へ戻っていく。
「こちらが仕入れた情報です」 花が書いたメモを土方に渡す。
「そうか……もう、危ない真似は辞めろ」 土方は花を思って言ったことだが、花にはカチンと来るだけである。
「また女だから……ですか?」
「まぁ……そうだな」
どうしても、言葉気に入らなかった花。
そこに大砲の音がする。
“ドンッ ドンッ ” 段々と門に近づいてきていた。
「逃げろ―」 土方が花を突き放す。
「しゃーない……」 花は鈴を連れて長屋に向かった。
「鈴ちゃん、危なかったら田口様の屋敷に逃げてね」
花は鈴を長屋に戻し、再び戦場に戻っていった。
「さて、突破しようじゃない……」
花は、会津で買ったチャイナドレスの姿で芸子を装う。
すると、新政府軍の兵士が花を見つけると
「貴様、この戦争の最中に何をしている?」
「すみません……酒席に呼ばれたのですが、場所が分からなくなってしまいまして……」 花が小さい声で囁くと
「なら、案内してやろう」 新政府軍の兵士はニヤリと笑う。
すると、 「ここは儂が案内しよう」
どうやら、新政府軍の高官らしき男が馬から降りてきた。
「すみません……」 花が頭を下げる。
「ここが良さそうじゃ」 高官らしき男は、近くにある民家の納屋に案内した。
そして、 「早くしろ! 儂は忙しいんじゃ」 と、催促をする。
「な、何をでしょう?」 花は肩を震わせる。
「わかっておろう……」
「近くに兵の方が沢山いらっしゃいます……せめて人払いを」
花が目を潤ませて言うと
「よし!」 高官らしき男は、伝令を出して兵を先に進めさせた。
「もういいじゃろ?」 男の鼻息が荒くなっていく。
「わかりました。 それではコレで舞いはいかがですか……?」
「舞? 要らん!」 男が言った瞬間であった。
“ドンッ ” 一発の銃声が鳴ったが、周辺は銃や大砲の音で誰も気にしていなかった。
『バタッ……』 高官の男は、後ろに倒れた。
花は、男の頭を鉄砲で撃ち抜いていた。
「何でお前に身体を許すんだよ…… この身体は晋太郎さんの物だ」
花は凄い形相で倒れた男を睨んでいる。
そして次のターゲットを探しにいく。
(ただの兵士に弾が勿体ない。 狙うなら大物……)
花はコソコソと動き回り、上官を探した。
民家の庭に隠れ、上官を探す花が驚く。
(なんでココに?)
そこには刀を持った幕府軍の兵士が潜んでいたのだ。
(まさか晋太郎さんも?) 花は慌てて晋太郎を探しにいく。
「ねぇ、刀の部隊は全員来ているのですか?」
花は、潜んでいた兵士に小声で話しかけると
「なんだお前……うっ!?」 兵士は突然、女が話しかけてきた事に立腹したが、花の姿を見て態度を一変させる。
「どうして此処に?」 兵士は、逆に花に質問をしている。
「そんな事はどうでもいいの! 晋太郎さんを探しているんだけど」
花は兵士に顔を近づけた。
「多分、あそこ辺りかと……」 兵士が指さすと、花は動き出すが突然止まり
「おい……人の身体、ジロジロと見るな!」 花は、兵士に忠告して去っていった。
(バレてる……) 兵士は、まだ若かったようだ。
そして、目的の場所に来た花だが
“キョロキョロ……” 晋太郎は居なかった。
すると、「はぁ はぁ……」 と、息を切らして一人の兵士が隠れにきた。
「晋太郎さん……?」 花が目を丸くする。
「花さん? どうして此処に?」 晋太郎も驚いていた。
「どうしてって、晋太郎さんを探しに来たのよ」
「それに……どうして晋太郎さんだけ服がボロボロなのよ……?」
他の兵士と比べて、晋太郎の服だけ汚れていた。
「さっき、捕まってて……なんとか逃げれたんだけど……」
晋太郎は苦笑いをして頭を掻いている。
(なんて弱くて、運が悪い人なのかしら……)
ハッキリ言って、晋太郎はダメダメな男の子であった。 それは花も理解している。
「しっ!」 花が合図をすると
指さす方向には、敵軍の上官らしき者が馬に乗って指揮をしていた。
そして、花がゆっくり鉄砲を構えると
“バンッ ” と、一発の銃声と共に敵軍の上官は馬から落ちていく。
(凄い……どんどん上手になっている……) 晋太郎は唾を飲み込み、花を見ていた。
「どうしたの?」 花が晋太郎を見る目は、普通の女の子になる。
「いや……見惚れちゃって……」 晋太郎の顔が赤くなった。
「もう~ 晋太郎さんたら~」 花が晋太郎の身体を押す。
すると、晋太郎はヨロヨロしながら隠れていた場所から敵軍に見える場所まで出てしまった。
「ここにいるぞー」 敵軍の叫ぶ声が聞こえると
「あわわ……」 晋太郎は、敵軍に追われながら走って行ってしまった。
(これは、流石に申し訳なく感じる……) 花は反省していた。
「―ハッ」 我にかえった花は、慌てて晋太郎を探しに行く。
ようやく晋太郎を見つけると、追っていた新政府軍の兵士の後方から襲い掛かる。
「ぐわっ!」 花の後方からの奇襲に、新政府軍の兵士を壊滅する。
「晋太郎さん……」 花は一安心する。
「コッチ」 晋太郎の手を引く花は、長屋に向かった。
長屋は城を通過して山の方角であり、新政府軍の隊は、まだ長屋には到達していなかったようだ。
「みんな居る?」 花は戸を開け、部屋を見ると誰も居なかった。
(みんな、田口様の所に避難したかな?)
安堵の中、花と晋太郎は身体を休ませる。
「着替えましょう……」 花は、晋太郎の衣服を取り出した。
そして晋太郎が服を脱ぐと……
『クン クン……クンカ クンカ……』 花は習性で、匂いを嗅いでしまった。
(はっ! しまった……) 今更、晋太郎は驚きもしないのに焦る花。
ここで長い緊張感の中、一本の線が切れてしまった。
「晋太郎さん……」 花が上半身が裸の晋太郎の胸に顔をうずめる。
「花さん……」 晋太郎は、花を抱きしめた。
外には銃声、そして胸には心臓の音が強く響いている。
「花さん、僕で本当に良いのでしょうか?」
「ずっと、晋太郎さんを愛していました……」
そして、ついに二人は身体を重ねた。
敵陣を突破するはずの二人は、違う突破をしてしまっていた。
「私の夢が叶いました……」 花の顔は少女であった。
白河、会津、箱館と、勇猛果敢に鉄砲を撃ってきた花の顔とは別人であり
「すみません……本当に、こんな時に、こんな形で……」 晋太郎が花を見ると布団には居なかった。
「えっ? 何してるんですか?」 晋太郎は驚き声を出すと、花は壁に向かって逆立ちをしている。
そして逆立ちしている花の腕がプルプルと震え、ついに崩れた。
「大丈夫ですか? それと、何を……?」
「それは……」 モジモジする花に対し、晋太郎は首を傾げている。
「これで、「ややこ」を待つのみです♪」 花は満足げに話す。
「……」 どうしていいか、どういう顔をして良いか分からない晋太郎であった。
「じゃ、城に戻りましょう」
「もう?」
「当たり前です。 戦争の最中ですよ」 花の顔は元通りになっていた。
(この切り替えの早さよ……) そして、晋太郎も衣服を着替えて城に戻る準備を始める。
長屋の戸を開けると、すぐ近くにまで新政府軍は来ていた。
(ちっ、このまま城には行けないか……) 花が少し考えていると
「何を考えているんですか?」 晋太郎が花に訊ねる。
「男の子が良いか、女の子が良いか……です」
花がケロッとした顔で答えてしまう。
『ズルッ……』 晋太郎は崩れた。
「何故に今……」
「だって、女の子が一番幸せな時なのですよ……」
晋太郎には、花の笑顔が【世界一 可愛い】と思えていた。




