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第三十八話 星形の要塞

第三十八話    星形の要塞ようさい



一八六九年 四月

蝦夷の地に新政府軍が次々と押し寄せてくる。


ついに軍艦までもが到着し、陸や海までもが戦場になる準備が整っていた。



そして箱館も、 “蝦夷えぞ共和国きょうわこく ” という名を用いて新政府軍を迎え撃つこととなっていく。



「今日から、城での生活が長くなります……みなさん、とにかくご無事で」

小田は婦人隊に頭を下げ、出立しゅったつに備えた。



「はい。 みなさん……しっかり働きくださいませ」 婦人隊は最高の笑顔で見送りの言葉を出していく。


そして、晋太郎も覚悟を持って準備をしていると


「あれ? 花さんも?」 晋太郎は驚いていたが、もちろん花も準備をしていた。



「当たり前でしょ? 晋太郎さんの行く所に、花は居ますから……」

花がニコッと笑う。



「いいなぁ……私も行きたいです……」 鈴が子供のように拗ねていると



「鈴……胸の大きさだけでは、戦には勝てないんだよ」

若菜の言葉に、会津の長屋は笑いが弾けていく。



「行こうか……」 多田の言葉で、全員が立ち上がる。




長屋から城までの道に会話も無かった。


晋太郎は落ち着かず、花の顔を見る。

しかし、花は意気込む様子もなく、散歩にでも行くかのように涼しい顔をしていた。



そして、城に到着する。


色々な国の猛者たちが集結した五稜郭では、雰囲気は張りつめていた。



各部隊に分かれ、作戦会議が行われる。


多田は大砲、晋太郎と小田は刀の部隊に移動していく。



そして、会議が始まったのだが……


各方面をウロウロしている女子がいた。 花である……



この箱館には女子の部隊が無い。

花は女子であるため、仲間に入れてもらえなかったのだ。




(すごい形状の城だな……これなら、色々な場所に目が届くってことか……)


花は感心しながら敷地をウロウロしていると



“おぉー ” 周囲から大きな声がする。


花が振り返ると、そこに大きな軍艦が現れた。



「これは凄い……会津には海が無いから初めて見るけど……」

花は目をキラキラさせている。



「おい、近藤さん……」 土方の声がすると


「はい。 どうされましたか? 土方さま」



「鉄砲隊は向こうだぞ」 土方が鉄砲隊を指さす。

「いえ……女子はダメだそうで……」 花は首を振った。



「そうか……仕方ないか」


「鉄砲隊には入れませんでしたが、弾や武器の調達ならお任せください」

花が自身の胸を叩く。



「ほう……では、早速行こうか」 土方は鉄砲隊の上官を呼び、弾や武器の仕入れに向かった。




そして、田口の屋敷にて


「ここにあるだけ、城まで運びましょう……」

交渉は成立し、田口は武器を大量に五稜郭まで運ぶようにする。



(よかった……田口様が敵ではなくて……) 花はホッとしていた。



「どうして、ここの武器屋を知っていたのだ?」 土方は、花の行動を不思議がっていると



「色々と ございまして……」 花は言葉を濁す。


「色々か……」 土方は、に落ちない表情をしていた。




そして用意を済ませ、決戦の準備を進めていく。


そして五稜郭では訓練に熱が入り、

「せいっ! せいっ!」 晋太郎と小田が所属する刀の部隊は特に気合が入っていた。 

 

その訓練を見ていた花は

(鉄砲や、大砲……軍艦まで出した戦に刀かぁ……完全に盾と同じだよな……)


時代が進んでいること、そして晋太郎が役に立たないのを確信していく。



夕方、交代で休憩が入り晋太郎は城下に出ていった。



なかなか長屋に戻れない晋太郎は、城下で食料を買いに向かっていく。


そして、数メートル後ろで花が尾行していた。

花は女子であり、部隊に配属はせず自由に動ける身であるからだ。



(何を買ったんだろう……) そこまで気になる花である。



夜の城下は活気がある。 会津より数倍の規模で店が並んでいた。



晋太郎が、訓練の疲れや緊張を活気のある城下で癒していると


「お武家さま、少しいかがですか?」 晋太郎に声を掛けてきたのは遊郭ゆうかく女郎じょろうである。



この戦場となる箱館も、遊郭は存在する。


戦争が起きると、兵士の精神は摩耗していく。

そのストレスを発散させる為、この時期の遊郭は繁盛するとも言われていた。



しかし遊郭は賃金が高い為、なかなか通えるものでもない。


「すみません……」 晋太郎は丁寧に頭を下げ、断っていた。



さらに進むと、人気ひとけが少なくなった場所に入る。

そこには物陰、さらには木の下から声を掛ける女性がいる。



それは、遊郭に通えない者を狙っている夜鷹よたかである。



夜鷹……つまり売春である。

夜に獲物を狙うという意味で、夜鷹と呼ばれたらしい。



遊郭は酒や宴など格式が高く、値段も高い。

夜鷹は、夜伽よとぎ専門なので値段も安かったりする。 そして晋太郎はターゲットにされたのだ。




晋太郎が歩いていると、夜鷹が声を掛けてきた。


「お武家様……ここなら安心ですわ」 木の陰に立っていた女性が晋太郎に声を掛ける。



「安心? 何がですか?」 晋太郎が言葉に反応する。

晋太郎は、まだ十七歳。 子供であり、分からなかった。



「こちらの長屋です……」 そう言って、夜鷹は晋太郎を長屋に案内した。



「こちらへ……」 夜鷹が長屋の戸を開けた瞬間


「ほう……」 花が晋太郎を突き飛ばし、長屋の部屋を見る。




「何するの? あんた、私の客を……うっ―」

花は、夜鷹の腹に拳を突き立てる。



「私の主人を誘うなんて、いい度胸だな……」 花が夜鷹を睨むと、脇差しを抜いて顔に近づけると



「二度と商売が出来ない顔にしてやろう……」



花が脅すと、夜鷹の足元から小水がポタポタと落ちてきた。



「ふぅ……もういいや」 花が脇差しを収める。


(何があったんだ?) 晋太郎は呆然としていた。




「晋太郎さん、ここで何をしているのでしょうか?」 今度は晋太郎を睨む。


「ごめんなさい……いきなり案内されて、分からずに……」 晋太郎は小さな声で謝っていたが、花の怒りは収まらなかった。



「晋太郎さんが案内されたのは此処です……」 花は晋太郎の服の襟を掴み、長屋の部屋の中を見せる。



「布団……? まさか……」 晋太郎は驚いていた。 まさか夜鷹に狙われていたとは、つゆにも思っていなかったからだ。




「これは現行犯ですね……」 花の顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。



そして晋太郎は、花に連れられて五稜郭へ戻ってくると 




 「花さん……どうかされましたか?」 多田が見張りを終え、詰所つめしょに戻るところで声を掛ける。



「多田さま……丸太と縄をお願いします」 花の鋭くなった目を見て、多田は逆らえなかった。



そして、五稜郭の星形の先端に丸太が立てられ、晋太郎が立ったまま縛られていた。



「敵が来たら大声で呼ぶのよ~」 花はニコニコしている。




「いやいや……ほら、あそこ! 敵の軍艦が来てるってば~」

泣きながら叫ぶ晋太郎に、たくさんのギャラリーが集まっていった。



「面白い夫婦だな……」 クスクスと笑いながら土方も見に来ていた。




晋太郎は、縛られたまま朝を迎える。



花が晋太郎の縄を解き

「可哀想だったね~」 と、言いながら晋太郎の頭を撫でていく。



(なんか人間不信になるよ……) 晋太郎は、久しぶりに花の恐怖を味わった。



疲れ切った晋太郎は、フラフラしながら刀部隊に戻っていく。



「ふん……」 と、言いながら腕を組み、見つめる花の目は厳しかった。




その時、「来るぞーっ!」 と、見張りの兵士が声を出す。



箱館戦争の始まりである。



花も反応して、海を見ると軍艦二隻が見えてきた。

(いよいよか……)


花は海から離れ、門に向かった。



“ドーン ドーン ” 

軍艦から砲撃の音がすると


「―うわっ」 花の肩が張った。



(こりゃ、凄いわ……) 砲撃の音や威力は恐怖さえ感じる。



軍艦の攻撃に対し、蝦夷軍も軍艦が出動し、星形の先の部分に配置されていた大砲部隊も援護射撃を始める。



まさに、飛び道具が主流となった戦いである。



軍艦から繰り出される砲撃は、五稜郭の庭に落ちてきた。

(こうなりゃ刀なんて無意味だな……クスッ) 花は、時代の流れの早さに笑ってしまう。



先制を許した蝦夷軍は、軍艦頼みとなっていた。


(あれは……? まさか?)


花が城下に火の気が上がったのに気が付く。



花は門番の所に行き、

「城下に火が出ています。 これから来ますよ……」 


門番に伝えると、一人が天守に向かう。



(まず、着替えだ……) 花が門を飛び出し、長屋に向かった。



「花さん、どうしたの?」 長屋に戻った花を見て、鈴が驚いている。



「―ちょうどいい! 鈴ちゃん、来て!」 花は急いで着替え、鈴と城下に向かった。



(ここからが勝負だ……) 


銃声の中、避難する町民は山の方へ向かっていく。


花と鈴は、反対方向に進んだ。


そこで目の当たりにしたのは、凄い数の大砲であった。

(こりゃ、ヤバいかも……) 花と鈴は、立ち止まってしまう。












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