表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/52

第三十四話  暗躍

第三十四話    暗躍あんやく 



花と若菜は、田口の屋敷に来ていた。

朝、早くに起きて、朝食の準備をしてから婦人隊に引き継いでいた。


「おはようございます」 若菜の元気な声が響く。


「よく来てくれたね。 どうぞ……」 田口はニコニコして、二人を屋敷の中へ案内をした。



屋敷の中には、女性が二人立っていた。

「ようこそ……」 二人の女性は頭を下げ、迎え入れてくれていた。



「こちらの二人は長年ながねん、ここで働いてくれている者だ……」

そう言って、女中じょちゅうさんを花たちに紹介する。


「はじめまして……」 花と若菜は挨拶を済ませ、先輩女中から仕事を習うのであったが……


 「えっと……今日から一緒に働く、今田いまだ 佐江さえです。 こちらが 今田 佐紀さきです。 姉妹で働いています」


 「とりあえず、若菜様……中の説明をいたしますので、こちらへ……」


 佐江が若菜を連れていこうとした時、


 「あの……私は……」 花が置いていかれそうになり、佐江を呼び止める。


 「あ……近藤様は、屋敷の仕事は無く……旦那様の方へ……」 なんとも佐江の歯切れの悪い口調に、花は戸惑った。



 「近藤さん……」 田口が花を呼び、花は田口の元に向かった。


 「お呼びでしょうか?」


 「うん、このゲベールを試してくれないか?」

 田口が花を必要としていたのは、銃と弾の感触を撃って試したかったのである。


 『バン バン』 と、激しい音がした。

 「……?」 花は感覚の違いを覚えた。

 

 「あの……このゲベール銃……なんか違いますね……」

 花が不思議そうな顔をしている。


 「さすがだね……これは、ミニエー銃といってライフル型なんだよ……」


 ミニエー銃は、ゲベール銃の改良型のようだ。

 「前のゲベール銃より、安定感がありますね……」



 「そして、まだ少ないが……これがスペンサー銃だ」 田口は花にスペンサー銃を渡した。


 スペンサー銃はアメリカの南北戦争で活躍した銃と言われている。


 「なるほど……」

 『バン バン……』

 花の腕前は良く、どの銃でも見事に命中させていた。



 「どの銃が良かったかね?」 田口は花に聞いた。

 「私はミニエー銃ですかね……精度が良かったと思います」



 「わかった。 では弾の製造を開始しよう……」

田口は工場に向かい、弾の生産の指示にあたる。



(なるほど……銃や弾を無駄に製造せず、必要でつ、需要じゅように合わせて作るのか……) 花には不必要だが、勉強になったようだ。



しばらくして、花と若菜が合流する。

「若菜さん、どうでした?」


「まずまず……会津の部隊だと、私ばかりだからコッチが楽かな」

そして、若菜が花を見つめていると


「あははは……」 花は、若菜や婦人隊に任せきりにしていたことに笑って誤魔化していた。



そして昼になり、田口の家で昼食を済ませると

「これ、今日の日当よ」 佐紀が二人に渡してくる。



「いえ……ただ習っただけで、日当をですか……?」 若菜が戸惑っていると



「あと、近藤さんは居残りで、旦那様の用事をお願いしますね」

佐紀は、若菜を先に帰すことを言う。



「お呼びでしょうか?」 花は田口の元に向かっていた。


「明日は、城で演習があるんだよね? ある程度でいい、弾の注文を取ってきて貰えないだろうか……?」 田口は、花にお願いをしていた。



「わかりました……」 花は承諾し、少し遅れて長屋に戻っていく。



「ただいま戻りました……」 花が長屋の戸は開けると、晋太郎が元気になっている姿を目にする。



「晋太郎さん……」 花は目をウルウルさせ、晋太郎に抱き着いた。


「ちょっと、花さん……」 晋太郎は花の匂いに気づいた。



「花さん、火薬の匂いがするんですが……何をしてきたのです?」 晋太郎は真顔になり、花に聞くと



「ちょっと、熊を狩りに……」 花は、苦し紛れに言ったが


「何故に熊ですか? しかも冬眠中だし……」


「それは、晋太郎さんに熊の脇腹を食べさせようと……」

花の苦し紛れの言い訳が続く


「脇腹? 何故に?」 晋太郎の疑惑の目が花に刺さる。



「『同物どうぶつ同治どうち』って言葉を知ってる? それよ……」



同物同治とは、中国の薬膳やくぜんの考え方で、体内の不調の場所を食べるのが良いと言う。


「なるほど……花さん、僕の為に……」 晋太郎が目をウルウルさせていると、



「花さん……それは内臓の話しでは? 肝臓かんぞうならレバーとか……」

たまらず多田が口を挟んだ……



「それに、晋太郎君の場合は外傷ですよね?」

多田の言葉に花は顔をそむけた。


「ちっ!」 (もう少しで乗り切れると思っていたのに……) 花は下を向いてしまった。



「花さん、教えてください……どこで、何をしているんですか?」 晋太郎は心配して花に詰め寄った。



「あわわ……」 


「今後の事がありますから、話してください……」 多田も晋太郎と同じように、花に詰め寄る。



「……今は言えません。 ごめんなさい……」 花は、小さい声で謝った。



そして花は、長屋を出ていってしまった。


(行く場所あて、無いしな……) 花はトボトボ歩いていたが、


「近藤さん」 花を呼び止める声がした。


花が振り返ると、佐江が立っていた。

「佐江さん……」


「旦那様がお呼びです。 行きましょう……」 佐江は花を呼びにきたらしく、花は佐江と一緒に田口の屋敷に向かった。



「お連れしました」 佐江は、田口の屋敷の玄関で声を上げる。



「そうか……」 田口が屋敷の奥から顔を出した。


田口は支度をしていたらしく、慌てていた。


「すまないね……」 田口はニコニコして、花の前にやってくる。



そして花は、田口と一緒に屋敷の二階へ行くと

「あれなんだが……」 田口が二階の窓から外を指さす。



そこには、怪しい雰囲気の男が二人いた。


田口の言う “あれ ” とは、

最近、田口の屋敷の周りに不審な男がウロついていることらしい…… 



「それで、どうしろと?」 花が神妙な顔をして聞くと


「どこの誰だか調べて欲しい……そして目的もだ」

田口が花を勧誘したのはボディーガードだった。

その為に鉄砲を撃たせ、実力を見定めていたのだった。


「わかりました」

花は下に向かい、佐江に話しをする。



そして佐江は、花を自室に連れていった。



しばらくして、花が佐江に借りた女中服に着替えて出ていく。


少し伸びた髪も、後ろで縛れるようになっていた。



「では、いってきます……」 花は細長い筒を風呂敷に包み、傘の柄だけが見えるようにしている。



花が田口の屋敷を後にし、城から反対方面の人気の無い場所へ向かう。



そこには怪しい二人組のうちの一人が尾行していた。


“チラッ ” 花は怪しい男が付いてきている事を確認し、小走りで脇道に入っていった。



「―ちっ」 男は慌てて花を追いかけていく。


脇道に入った花は、細い道を数度曲がり

そして、男も小走りで花を追いかける。



ようやく花の服が見え、追いついたと思ったとき……


「動かないで!」 花は服とは反対側から鉄砲を向けていた。

服をおとりにして、木に掛けていたのである。



男は息を飲んだ。


「貴方は誰? 目的は?」

花はジリジリと男に詰め寄る。



男は黙ったままだった。


『―バンッ』 花は男の足元に鉄砲を撃つ。

そして、ゆっくり銃口を上にし、男の顔に向け、



「早く喋りなさい……」 花は、銃口をさらに男の顔に近づける。

すると、男は観念したらしく、口を開いた。



「ふむ……」 花は納得したような返事をする。


「ほっ……」 男は安心したのか、張っていた肩を落とした。



その時、『バンッ』 と音がする。 花が男の足に発砲した音であった。


「嘘を言うな……」 花が鬼の形相で男を睨む。



男は足を押さえ、苦しそうにしている。


「次が最後だ。 貴様が誰で、目的は何だ?」 そして花は銃口を顔に向ける。



「おい……」 

花は、後ろから声が聞こえ、慌てて振り向くと


「――?」 花は、頭に銃口を当てられていた。

二人組の片割れである。



(一人だと思って、安心してた……) 花は覚悟を決める。



「鉄砲を下ろせ」 男の要求に従い、花は鉄砲を下に置いた。


「貴様、何者だ? 女のクセに鉄砲なんぞ使いおって……」



“カッチーン ” 


「すみません……旦那様に何かあったら……と思いまして……」

そう言って、花がメソメソと泣きはじめる。


「だからと言って、女がやることじゃないな……」



“カッチーン ”



男は花が置いた鉄砲を取ろうとした瞬間であった。


バサッと音と共に、男が倒れる。


男は首から血を流し、うずくまっていた。


それは一瞬の出来事である。

男が無防備に鉄砲を拾おうとした時、花が脇差しで男の首を刺したのだ。



「女のクセに……とか 面白い事を言うもんだね~」

花の言葉に、足を撃たれていた男は震えている。



「さて……女のクセに聞きますが、貴方は誰? そして目的は……?」

花の顔は、男には鬼に見えたのであろうか……



「私たちは……」 

そうして男は全てを話した。



二人組は新政府軍の間者であった。

戦になる前から弾などの資源確保の為に探っていたようだ。



(もう戦は始まっているんだ……田口様は、どっちの味方なんだろう?)

花の考えは、今後の為に()れていくのであった。



「ただいま戻りました……」 花は、何事も無かったように田口の屋敷に戻ってきた。



「近藤さん……大丈夫だった?」 慌てて佐江が花の所にやってくる。


「はい、大丈夫ですが……旦那様は?」 花はキョロキョロとして、田口を探していた。



「旦那様は、お部屋にいらっしゃいますよ」 


「ありがとうございます……あと、服を汚してしまい、申し訳ありません……」

花は、佐江の部屋で着替えさせてもらった。



『コン コン……』 着替えた花は、田口の部屋をノックする。


「どうぞ……」 田口の声がすると、花は扉を開ける。

田口の部屋は引き戸であるが、分厚い木の扉である。



「どうでしたか?」 田口が優しい声で聞くと


「ずっと、狙われていたのですね?」


「そうだね……こんな商売をしていると、そういう関係から狙われるのは不思議ではないよ……」


「なら、聞きますが……田口様は、どちらの味方なのでしょうか? 新政府軍か、幕府か……」 花の心配は、そこであった。


もし、新政府軍の味方であれば花としても田口の元で働く訳にはいかないからである。



そこに田口の明確な答えを聞く事は出来なかった。


しかし、田口の屋敷には次々と怪しげな人は絶えずに来ている。


その度に、花が退治をしていく事になるが

それは会津の為である。


都度、給金を貰い、田口と会津を守る仕事であった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ