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第三十二話  船で出会った大物

第三十二話    船で出会った大物



多田の言葉通り、花や部隊の一同は船の乗り口に来ている。

十二月の越後は大雪となる為、いち早く出て行く必要があったのだ。



「いよいよ船ですね~。 初めてなので楽しみです♪」

そう喜んでいるのは鈴である。



会津の兵や女子は船に乗る事がなかったため、全員が初めての船旅になる。



しかし、現代のように 誰でも乗りやすく設計されていなかった為、晋太郎を搭乗とうじょうさせるのに困難となっていた。



婦人隊で晋太郎をかつぎ、男子の力で荷車や荷物を運ぶことになっていたが、かなりの重量である。


全員が疲労困憊となっていく。



そして、乗せ終わった多田と小田はグッタリしていた。


「お疲れ様でした。 ありがとうございます……」

花は二人に礼を言う。



「なんの……でも、重かった~」 と、声を出したのは小田であった。


「そういえば、この船で行くと どのくらいで蝦夷に着くのでしょうか?」

花は、船旅が初めてなので知りたかったようだ。



「どうかな……一か月くらいは掛かるのだろうか……」

多田は憶測おくそくでしか言えなかった。


「そうですか……」 花は、何かを考えているような姿になる。



「どうかしたのか?」 多田は、花の仕草が気になったよう。


「いえ……やたら混んでいるので、晋太郎さんがつぶされないかと心配になっただけです」 やはり花の心配は晋太郎のことである。




そして船が出航してから一週間が過ぎた頃、冬の海の厳しさを初めて知ることとなる。


「うえぇぇっ……」 部隊のほとんどが船酔いをしていた。



交代で晋太郎の面倒を看る者たちも、次々と顔を青くしてグッタリしてきていた。



花も顔色が悪くなっているが、晋太郎の看病に手を抜くはずがなく


「晋太郎さん、大丈夫ですか?」 花の手は、優しく晋太郎の頬に手を当てている。

「大丈夫ですよ。 いつもありがとうございます」

晋太郎は弱弱よわよわしい微笑みを花に向けていた。



そこに船内で大きな声が聞こえてきた。

「なんだと、この野郎!」 


どこかの兵士同士が喧嘩になっているようだった。



船の中で揺られ、どこにも発散できる場所もなく缶詰になっている状態であればストレスも溜まっていてもおかしくはない。


そこに小田が仲裁ちゅうさいに入る。



「まだ先は長いです。 こんな所で言い合っていても仕方ないですよ」

喧嘩していた二人に話しかけていた。



「お前、何様だ?」 喧嘩していた一人が、小田の胸ぐらを掴んで突っかかってくる。


「私は会津藩の小田と言います。 ここには色々な場所から集まった兵士が、同じ目的でいる訳ですから……」

小田は困った顔でたしなめている。



すると “パチパチパチパチ ” と拍手の声が聞こえてきた。

そして、喧嘩の当事者やらギャラリーまでもが拍手をした者に目を向ける。



「よくおさめてくれたな、若者……」 拍手をした男は、にこやかに話し出した。



「先はまだ長い……喧嘩して怪我をするより、穏やかに時を過ごそうじゃないか」 そう言って拍手をした男は場を和ませる。



花は拍手をした男を見ていた。 そして、男の横にある服に目がいく。


(あの服……羽織か? なんか見たことあるな……) 花は、見覚えがある服が気になっていた。



男は静かに目を閉じて休んでいる。

そこに小田が男に近づいて、

「先程はありがとうございました」 男に礼を言うと、

男はうっすら目を開け


「大事な戦力だ! 無用な揉め事は良くないからな……」 と、小さな声で言った。



「確かにそうですね。 本当にありがとうございました」

小田は再度、頭を下げ



「あの……土方ひじかた様ですよね?」 多田が歩み寄り、男に話しかけると



「あぁ そうだが、君は?」 土方は、多田をジロジロと見ていた。



「私は以前、佐久間象山先生の所に居た多田と言います。 土方様には京でお会いした事がありました」 多田は蛤門で会っていた事を話す。



「そうか、すまなかった。 あの時はバタバタしていたから一人ひとり、覚えていなかったものでな……」 土方は屈託のない笑顔で多田と話していた。



そして船内は穏やかに過ぎ、一か月が経とうとしている。


会津の部隊も船酔いに慣れていき、顔色も元通りになっていた。



花は船の甲板に出て、行き先の方向を眺めている。


(しかし寒いな……まだ蝦夷は見えないのかな……)

冷たい空気の中、花は無事に辿り着けるのか心配していた。



そこに一人の男性が花の方へ寄って来ると、

「ここじゃ寒いだろう? 中に入ったらどうだ?」


花に話しかけてきたのは土方であった。



「いえ、ありがとうございます。 あの……蝦夷はまだ見えませんか?」

花は、ただ先に見える水平線を見ていると


「もうじき見えるだろう……しかし、女が此処にいては身体に障るだろう」

土方は、花を足元から顔まで見ていた。



「君は会津の者か? なんで女が来ている?」 土方は、戦に女が来ていることを疑問に思っていた。


「主人が白虎隊の隊士です……今は怪我をしていまして、看病をしています」花が現状を説明すると、



「そうか、なら主人が完治したら会津に戻るといい。 戦に女は不要だからな」土方が少し笑うような仕草で花に言うと、



「……」 (なんだコイツ、偉そうに……)

花は無言だったが内心、腹が立っていた。



「はぁ? あんまり舐めたことを言っていると痛い目にあいますよ」

花も負けていなかった。



「随分と威勢がいい女だな。 んっ? お前、男か?」 土方は花を再度見て、胸元あたりで男かと思ったようだ。



「女だわっ! 今、胸を見て男と言っただろっ!」

花は顔を赤くし、土方に向けて大声を出す。


花の大声を聞きつけ、小田と多田が甲板に飛び出してきた。

「どうした、花さん?」 多田は花の肩を抱き、土方から遠ざけた。



「コ、コイツが私のことを……」 花が半泣きで土方を指さす。


「まぁまぁ……」 小田が花を慰めたが、花の怒りは収まらなかった。



「そういうお前は誰だよ?」

花が土方に言い放った時、多田はビクッとする。



「あの……花さん、落ち着いて……ねっ」 多田は花を落ち着かせる。



「この方は新撰組、副長の土方ひじかた歳三としぞうさまです。 白河で斎藤さまとお会いしましたよね? あの新撰しんせんぐみの方です」

多田は、花に土方を紹介する。



「斎藤さんの知り合い?」 


「女、斎藤を知っているのか?」 土方も驚いていた。



多田は、土方に花の事を話す。


白河で斎藤と共に新政府軍と戦った仲ということ、そして花が鉄砲を使い、何人もの新政府軍を撃ってきたことを話した。



「そうか……」 土方は、少し笑みをだして頷いている。


「女、済まなかったな。 主人が早く良くなるといいな……」 土方は花に声を掛けて、船内に戻っていった。



花も思い出したように船内に戻っていった。 晋太郎の事を思い出したようだ。


「晋太郎さん……」 花は声を掛ける。 

「さっき、怒鳴り声が聞こえましたよ」 晋太郎は心配そうに花を見つめていた。


「す、すみません……」 



「あまり心配を掛けないでくださいね……」

晋太郎は優しく声をかけたが、花が怒りだす。


「コッチの台詞セリフだわ……」 花は怒りで全身を震わせていた。



なぜなら、晋太郎に膝枕をしていた鈴がいたからだ。


「何してんだよ……?」 花が鈴を睨むと、


「―い、いやこれは……」

鈴は、花の事を心配していた晋太郎を落ち着かせる為、膝枕をしていたのだ。



「離れなさい!」 花は鈴に声を震わせていた。

「は、はい」 鈴が、慌てて立ち上がった瞬間に晋太郎は頭を打ちつけた。


「―痛っ」 晋太郎は後頭部を押さえる。



こうして船は進み、どこからか声が聞こえてくる。

「見えてきたぞ。 蝦夷だ!」 どうやら蝦夷が見えてきたらしいことが分かった。



一か月以上の船旅の終わりが近くなり、変化が起きた。


「花さん……」 晋太郎が、寝ている花に声を掛ける。

「んっ?」 花がうっすらと目を開けて見てみると、晋太郎が立っていた。



「えっ? 晋太郎さん?」 花は驚いていた。

立てるまで回復した晋太郎の姿に、花は感動していた。



「うそ……良かった……」 花の目に涙が溢れだす。



婦人隊や、鈴も涙を流して喜んでいた。


「みんな、ありがとうございます」 晋太郎は照れくささや、感謝の気持ちを込めて礼をする。



「私からも感謝です。 私のワガママで晋太郎さんを連れて行き、皆さんに看病までさせて……本当にありがとうございました」


花は、涙を流して感謝を伝えた。



「しかし良かった……白虎隊は俺と工藤だけだからな」 小田は笑顔で晋太郎に話すと


「これから精進して、戦に臨みます」 晋太郎は拳を握って誓う。



「おっ? 良くなったみたいだね……」 土方が声を掛けてきた。


「おかげさまで。 皆さんに本当に良くしてもらいました」

晋太郎は上機嫌に答えると



「君はこれだけの世話人がいるから、さぞかし腕の立つ武士なんだろうね……」 土方は花や鈴、婦人隊までいることから強者と認識していた。



「それが全然でして……」 なぜか照れながら話している晋太郎を見て、土方は目が点になっていた。



「実は……」 多田が土方に晋太郎の事を話した。


山賊にも秒で負けたり、戦場でウロウロして撃たれて何ヵ月も世話になったりと話した。



「そんなヤツにどうして……?」 土方には理解できなかった。


“強いが正義 ” の時代に、晋太郎のような武士を助けるというのが理解できなかった。



「あの……勝手な解釈かいしゃくは辞めてもらえます? 武士としてじゃなく、晋太郎さんだから側にいるのです。 強いとか弱いじゃないのです」


こう言い出したのが鈴である。



「そうよ。工藤様の魅力を知らないくせに……」

婦人隊までもが声をあげると、


その言葉を聞いても釈然としない土方であった。



「どうして工藤ばっかり……」 影で泣いている小田がいて、その横で苦笑いをしている花が、小田の肩に手を掛け泣いていた。



「まぁいい。 しっかり治してな」 土方は自席に戻っていく。


そして花は、土方の後を追いかけた。

「あの……晋太郎さんの事、ありがとうございます」 花が頭を下げると



「なんのことだ?」 土方は目を丸くしていた。


「実際に、使えない人間なら見放していたでしょうに……」

花は、土方が晋太郎を戦力として見放さずにいてくれたことが嬉しかった。



「女、名前は?」 土方が花の名前を聞くと、

「近藤 花です」

「近藤……」 土方は、近藤という苗字に反応した。



「いい名だな。 近藤と言う苗字は特にな……」 土方はふっと笑う。


「前に聞きました。 斎藤さんから……新撰組の局長さんですよね?」

花は、斎藤から聞いた話しを思い出していた。



「そうだ。 まさか……?」 土方はハッとしたが、花は手を横に振って違うことをアピールをする。



「もうすぐ蝦夷に着きますが、私たちは何処で暮らすのでしょうか?」

花は箱館の居住を知ってないか土方に聞いたが、土方も知らないようであった。



それから数日が経ち、ついに蝦夷に着く。

船から続々と人が降りていって、花たちも蝦夷の地に降り立った。



しかし、花たちは動けなかった。

「寒い……」 会津の部隊、全員が固まった。



一月の半ばの蝦夷は極寒である。


「鼻水も凍るわよ……」 花は身もだえをしていた。



「会津にも雪が降るけど、凄い雪の量ですね……」 鈴にも雪と寒さは堪えているようであった。



そして着いた五稜郭ごりょうかく

場外に小さな家を貸し与えられて、新しい生活が始まるのであった。








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