表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/42

第三話  お手柄‼

第三話   お手柄‼



一八六七年 京都御所の蛤門はまぐりもんの変で、会津と長州の対立は激しくなっていった。


尊王攘夷そんのうじょういを訴える長州に対し、幕府一筋の会津の図式に曇りは無く ただ激しい戦闘だけが繰り返されていた。



“いつ会津にも火の粉が飛んでくるのかと ”


 心配する町民は少なからず居るが、会津の兵や朱雀、白虎、青龍、玄武の隊が町を守ってくれると信じていた。


そんな思いもあり、この間者の件は瞬く間に噂が広まっていった。



当然ながら鶴ヶ城にも話しが入り、


“間者を捕らえろ ” との命が下り、藩総出での捕り物作戦が始まる。



晋太郎の白虎隊は、領地北側を捜索することとなる。



若輩の晋太郎は先輩の後に続き、後方確認と緊急時の伝令役を兼ねての仕事となっていた。



出発した昼過ぎ頃はまだ暖かかったのだが、いくら春でも北国である。


いくらか陽が傾いてくると寒く感じてしまい、隊の中では震えてくる者もいた。



「よし! ここに陣を張れ!」


隊長の号令が一斉に隊員を動かす。



城から北に向かうこと数里すうり、山の少し手前で陣を構えた。


晋太郎は見張り役を命じられ、陣よりさらに北側の山に入っていく。


見回りを行っていたが夕方から夜になってきた為に、見通しが悪くなってきていた。



「暗いから、気を引き締めないと……」


晋太郎は緊張感を出して見回りを行う。



歩くこと数分、 ―ガサッガサッ と音がした。


晋太郎は恐怖を感じたが、負けまいと刀を抜き左手に提灯ちょうちん、右手に刀と、夜の戦闘態勢に入る。



目をこらし、気配を感じとる…… 



すると、後方から音がすると晋太郎が振り返る。


「がお~~っ」

と、目の前に何かが襲ってきたのだ。



「――うわっ」 と、声を出して晋太郎は尻もちをついてしまった。



「ふふふっ♡ 晋太郎さん、花だよ♡」


花はニコニコして晋太郎に話しかけるが、

晋太郎は腰を抜かしたままの状態で目をパチクリさせる。



「晋太郎さん、み~つけた♡」 花は満面の笑みになっていた。



「花さん?」

まだ晋太郎は腰を抜かしたままの状態である。



「晋太郎さん、大丈夫?」

花は晋太郎に手を貸し、立たせてあげると



「花さん、なんで此処に? 危ないから来たらダメですよ。 送りますので帰りましょう」


花の手を引こうとするが、花は手を振りほどき


「晋太郎さんが心配だったのよ……体も小さいし、武術も弱いし、勘も鈍いし……」


 晋太郎はメンタルを刺されまくってしまった。

(僕は、そんなダメダメなんだ……)



「隊長さんも酷いよね。 晋太郎さんに、こんな危ないことさせて……もし晋太郎さんに何かあったらどうする気かしら? 許嫁いいなずけの私にも相談してくれればいいのに……」  



「許嫁?」 晋太郎は驚き、花に聞き直す。



「うん。知らなかったの? 河原で私が側にいるからって言ったじゃない」


と真顔で答えた。



(あぁ……言ってた気がする…) 晋太郎は頭の中で回想する。



「だからと言って、危ないですよ。 夜で暗いし、山まで来て獣や山賊にでも襲われでもしたら……だから帰りましょう」


晋太郎は心配し、花の説得をするが、


「心配してくれるのですね♡ では『ギュー』って抱きしめてください。 なんなら~ もう少し茂みの(ほう)でも行って♡」


そう言うと、晋太郎に近寄った。



(茂みに行ったら何をされるだろう……)

と、晋太郎は不安な顔になる。



「そんな事よりさ~ 晋太郎さんに見せたいものがあるの♪ こっち来て!」


上機嫌な花の言葉に、少し不安を覚えつつ後をついていくと



「晋太郎さん、―私の真後ろを歩いて! ―決して横を歩かないでね」

花は真面目な顔で注意をすると、晋太郎は頷いた。



歩くこと数分、「晋太郎さん、ここだよ!」

花の案内によって来た場所は、木が多く鬱蒼うっそうとした所だった。



「花さん、なんでここに?」

晋太郎は心配になり、花に尋ねる。



「上を見て! 晋太郎さん。 上!」

花が暗闇の中、空に向かい指を指す。



晋太郎が目をらして覗きこむと 「あっ! んっ? 誰?」

目を細めて花に尋ねる。 



「ほら、昼間に言っていた間者で~す♪」 

と花は嬉しそうに、両手で間者を指さした。



間者は片足を縄で締め上げられ、両手は後ろに縛られ木に吊るされていた。



「えっ? えっ? 間者? なんで花さんが?」

晋太郎は眼を見開き、花に聞く。



「どうやったの? なんで間者と分かったの?」



晋太郎はパニック状態のまま頭の整理をしてみるが、やはり思考が追い付いてこなかった。



花は冷静な口調で晋太郎に説明した。



「ん~ 町の全体を見渡して北側が山に近いから一旦隠れて、落ち着いたら どこかに逃げるんじゃないかな~って。 それで晋太郎さん達より早く山に入って、通りそうな場所に罠をしかけたの~ アチコチに罠を仕掛けてあるから私の後ろを歩いて! って言ったのも、それなのよ~」



晋太郎はポカンとして花を見つめる。 そして花の説明が続く……



「晋太郎さんが北に向かったから良かったの。 もし晋太郎さんが他の場所に向かっていたら、逃がしてあげてたんだけどね~♡」 と、上機嫌で話すと



「で、晋太郎さん。 どうする?」 

花は晋太郎の顔を覗きこむ。



「では縛ったまま陣に連れていきましょう。 花さん、一緒に行きましょう!」

晋太郎は、花を陣まで連れて行こうとする。



「え~っと、私は行きません! 晋太郎さんの手柄にしてくださいまし」


花は両手で手を振るポーズをして断った。


「何故ですか? これは花さんの手柄です。 胸を張って陣に行きましょう!」

と説得するも、花はかたくなに拒否をする。



そんな押し問答を続けて数十分……



「―とにかく早く降ろしてくれ……」 と間者は泣きついてきた。



「とにかく私は晋太郎さんの許嫁ですから、夫に手柄を渡すのが妻になる者の務め。 これで良いのです」


花は、きっぱりと断った。



(んっ? 僕は花さんと結婚するの? まだ十六歳だぞ?)

間者そっちのけで気になっていた。



「早く連れていきなよ!」


「あっ! じゃあ、せっかくだから褒美をくださいな♡」

と、花はルンルン声で晋太郎の顔を覗きこむ。



「はい! では陣に戻り、褒美を聞いておきますね」 晋太郎は頷いた。



すると花は頬を膨らませ、少し拗ねたように

「違うよ! 私は晋太郎はさんから褒美ほうびが欲しいんだよ!」 と後ろを向いた。



「えっ? 僕から褒美ですか? 何もありませんが、どうすれば良いでしょうか?」 晋太郎は困った顔をすると



花は手を前に組み身体をくねらせ、

「後ろから抱きしめてください♡」



「え~ それはマズいですよ。 いやいや~」 と、晋太郎はアタフタし始める。



「ちゃっちゃとやれよ! この臆病者が! 間者、逃がしちまうぞ!」

花が小さな声で呟くと



「えっ? えっ? なんて?」 晋太郎が聞き直す。


 「―いやっ いやっ 独り言……」 花が焦って、首を振った。



晋太郎は我にかえり 「僕ひとりで陣に間者を連れていけるかな~? 暴れたり、逃げられたりしないかな~」 心配になっていると、



「逃げないし、暴れないよ。 大丈夫です。 ねっ?」

と間者を見上げると



「はい! 大丈夫ですから早く降ろして~」 と泣き出した。




こうして花の活躍により、晋太郎は間者を連れて陣に戻った。


花は一人で下山して自宅に帰っていった。



晋太郎は、一躍ヒーローとなってしまい

翌日、隊長は城の重鎮じゅうちんから お褒めを頂いたそうで、ご機嫌であった。



町は安堵に包まれて活気を取り戻したが、腑に落ちないのが一人……



晋太郎である。


「これで良かったのかなぁ……?」 と、元気なく城下を歩いていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ