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第二十九話  慟哭

第二十九話    慟哭



「―晋太郎さん、晋太郎さん、晋太郎さん……」

花は、必死に遠くから晋太郎の名を叫んだ。


『バン バン バン』 と銃声が鳴る。


小田たちが後方から発砲し、共にしていた兵士が倒れている晋太郎と鈴を抱えて安全な場所に連れていこうとしていた。



新政府軍は、小田たちを狙うべく鉄砲を構え発砲したが、そこに花の銃弾が新政府軍に命中する。



(晋太郎さん、晋太郎さん、晋太郎さん……)

花は、鉄砲を撃っている中でも晋太郎の安全だけを願っていた。



晋太郎と鈴を抱え、逃げている小田たちを追うように銃弾が襲い掛かってきていた。


そして、その鉄砲隊を追い払うように花が銃弾を浴びせていく。



(晋太郎さん、晋太郎さん、晋太郎さん、晋太郎さん……)



プツン……



花の頭の中で、何かが弾け飛んだ音がすると



「はは……そうか……そういうことか……ははははっ……」 

花は笑いながら ゆら~っと伏せていた身体を起こした。 

「お前ら……殺してやる……コロシテヤル……」


花は何度も同じ言葉を繰り返していた。



すると花の顔つきが変わる。

その目は赤く、吊り上がり、鬼にも般若にも見える姿である。



小田が晋太郎と鈴を安全な場所まで避難させ、傷の手当を始めた。

すると、さっき居た場所から花は消えた。



花は移動して新政府軍を撃った。

『バン バン バン』 と何度も銃声が響き、数名の新政府軍が倒れた。



小田は晋太郎と鈴の救護を婦人隊員に任せ、急いで花の援護に駆け付ける。


しかし、新政府軍の者たちは銃弾を貰い倒れていた。



小田が見たものは想像を超えた光景であった。



倒れている新政府軍の兵士に歩み寄った花。


花は新政府軍の兵士を上から覗き込み、言葉を出した。



「お前か? 晋太郎さんを撃ったヤツは?」 花の低い声は、新政府軍の兵士に向けていた。



「―うぉぉぉぉー」 花の雄叫びが響いた。


小田が見たその姿は、白い虎の咆哮ほうこうのようであった。



そして花は敵兵から刀を奪い、敵兵の腹部を何度も刺したのだ。



「―花さん、止めるんだ……」 小田は走って花を制止する。


「離せ! 晋太郎さんが、晋太郎さんが……」 花の悲鳴のような声が響く。



小田の制止を振りほどき、花は次の敵兵の所に走り出す。

「お前か?」 花は敵兵に聞いた後、同じ様に何度も刀で刺していく。



花は、五人ほどの敵兵に同じことを繰り返し

それを見ることしか出来なかった小田は、腰を抜かしていた。



「花さん……こうなったら誰も止められない……鬼神だ……」

小田は震えていた。


これは花に対しての恐怖ではなく、花の晋太郎への愛の深さに震えていたのであろう。




「あはははははっ……」 花は空に向かい大声で笑いだした。



この行動は晋太郎が撃たれ、花が普通の状態ではなくなってしまったのは誰が見ても明らかであった。



(花さんを正気に戻さないと……) 小田は震えながら立ち上がり、花の元へ歩き出す。


「花さん、工藤と鈴さんの所に行きましょう……」

しかし、小田の声は花には響かなかった。




「あはははははっ……」 花は ずっと笑っていた。


小田は花に近づき、後ろから抱きしめる形になり


「花さん、もう終わりました……工藤の所に行きましょう……」

小田は力を込めて花に言い続ける。



花はフッと力を抜いた。


小田はホッとして花を抱きしめていた力を抜いた時、花は小田の腕を払いのけ拳銃を小田に向けた。



「お前か? 晋太郎さんを撃ったのは?」 花が小田に向けて言うと

小田は驚いた。 (もはや誰が敵で、誰が味方なのか分かってない……)


小田は両手を挙げて、花に話しかける。


「もう終わりました。 工藤……晋太郎の所に行きましょう」

何度か話した時に、婦人隊の隊員が小田の所に駆けてきた。



「小田様、工藤様と鈴ちゃんは生きております……」

この婦人隊員の言葉が花を正気にさせる。



花は構えていた拳銃を懐に収め、晋太郎の所へ走り出した。


そして花は苦しんでいる晋太郎を見つめ、「晋太郎さん、晋太郎さん……」

と何度も声を掛けた。



晋太郎は脇腹を撃たれたようで、腹部から出血があった。


花は自身の服を破り、晋太郎の傷口に当てる。



晋太郎は苦しそうな声で 「花さん、すまない……」 と花に詫びた。


「晋太郎さん、大丈夫ですよ……」 花は大粒の涙を流し、晋太郎の手を握った。



すると横から小さな声が聞こえてきた。

「あの……一応、私も撃たれているのですが……」 この小さな声は鈴であった。


花は ハッとして鈴の方を見て



「あっ! 鈴ちゃん。心配したのよ。 大丈夫?」 花は慌てて鈴に声を掛けた。


「いいえ、大丈夫じゃありません……花さん、私の名前を一度も呼ばなかったのですから……」 鈴は痛みで苦痛の中、花に笑顔を見せて言うと



「そ、そうかしら……?」

花は、気まずそうに指で頬を搔きながら鈴から顔をそむけた。



鈴は足を撃たれているが、傷は浅く命に別状はないようだ。

ただ、ここから気をつけないといけないのが感染症である。

花は衣服を濡らし、傷口に細菌が入らないように何度も拭いた。



鈴は呼吸も落ち着き、一安心な状態になったのだが、問題は晋太郎である。


晋太郎は意識があるものの、出血も多いために動かせる状態ではなかった。



「晋太郎さん、頑張って!」 これは花が晋太郎にできる精一杯のことであった。


花は、晋太郎が苦しんでいる姿に耐えきれず、先程に撃った敵兵から武器を調達に向かった。



花は、横たわっている敵兵を見つめていた。


(こ、これを私が?)

敵兵の何度も刺され無残な姿を見て花は震え、そして涙を流した。


(ごめんなさい……)

花は泣きながら敵兵の亡骸なきがらに手を合わせ、そして武器を丁重に回収したのであった。



そこに会津の兵が走ってきた。



「どうされました?」 花は走ってきた会津の兵に声を掛けると

会津の兵は息を切らして答える。


「城が堕ちました。 殿が……殿が新政府軍に降伏いたしました」



一八六八年 九月末

「ま、まさか……そんな馬鹿な……」

花の目の前が真っ白になった。 こうして約3か月に及ぶ会津戦争が終結した。



花は晋太郎に治療を受けさせるため、鶴ヶ城下に戻ったが……


「まだ銃声? 戦争は終結したはず……」 花は、荒れた城下に鉄砲の音が響いている現状を不思議に思っていた。



『嫌―』 女性の声が聞こえた。

花は振り向き、女性の声がした方に向かった。



その姿は戦争以外での悲惨な光景であった。

新政府軍の兵士が、町の女性にちょっかいを掛けて楽しんでいた。



町の女性は逃げだし、それを追いかける兵士……

そして言う事を聞かなければ撃つ、最悪の戦争弱者の姿があった。



(あの方向なら……)

花は、周り道をして逃げた女性の方向に走った。 角を曲がったところで、女性の悲鳴が聞こえる。



新政府軍の兵士が女性を捕まえる。 そして、その兵士の後ろには花が忍び寄って



「お前……詫びでは済まさぬぞ」 花の眼が吊り上がり、赤く光った。



『―うっ……』 花に首元を斬られた新政府軍の兵士は倒れていく。



「ありがとうございます」 女性は花に礼をして、その場から逃げていった。


「なんで戦争なんて起きるんだ……」 花は強い悲しみを覚えた。


(会津の象徴である城はボロボロに壊れ、家族とは離れ離れ。 そして晋太郎さんは撃たれた……) こんな悲劇ひげきが花を変えてしまった。



「うっ……うううっ……」 花は、城下町を泣きながら歩く。


 花は泣きながら、晋太郎を医者に運ぶ為の荷車を探していた。


しかし城下は相当な民家が燃えていて、

その辺にある木製の物は、ほとんどは燃えてしまっていた。



「おい、貴様……」 花は新政府軍の兵士に肩を掴まれた。

「貴様、新選組の……うっ!」 新政府軍の兵士は花の肩を掴み、振り向かせた時の花の表情に驚いていた。



花は新政府軍の兵士が驚いている一瞬の間に、その首を斬って落とす。

そして、その顔は涙を流してはいるものの、怒りに満ちている表情であった。



花は荷車を見つけ、晋太郎の元へ向かった。



「結構、かかったな……町はどうだ?」 小田は花に聞いた。


「この世の地獄です……」 花は一言だけの返答をしたが、小田はこの言葉で町の悲惨さが分かってしまった。



「さぁ、晋太郎さんと鈴ちゃんを乗せて北に向かいましょう」

花はそう言うが、ただ表情は泣き顔で目が腫れていた。




北に向かっている花たちの道は悪く、荷車が思うように進まない。

なんとか力ずくで動かしていたが、デコボコ道であるため荷車が跳ね上がった。


「―うっ……」 晋太郎と鈴は荷車の衝撃と同時に声を出した。


そして痛がる二人を見て花はしゃがみこみ、号泣してしまう。


「花さん、貴女は本当に良くやってくれました。 感謝しかありません」

小田は花に肩を貸して歩いていくと



「花さん……私も感謝しています」 ここで荷車に揺られている鈴も涙を流し、花に感謝を伝えた。



すると一緒に歩いている会津の仲間たちも次々に感謝を伝えてきた。

「みんな……」 花と会津の仲間は、涙を流すのであった。


 「みんなで生きていこう……」

 小田の言葉で、全員が前を向いていくのだった。



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