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第二十八話  戦士の絆

第二十八話    戦士のきずな



「おはようございます。 えっ? どうしたの?」 花は寝起きの顔で挨拶をしたが、鈴に異変が起きていた。



「鈴ちゃん、どうしたの?」 花は鈴の肩を掴み、ゆすってみると


「もう……死ぬんだ……」 鈴は放心状態になっており、とても戦う人ではなくなっていた。



(もう十数人の婦人隊員が離脱りだつしている……男性の方でもハッキリ言って厳しい状態なのに女性となれば、なおさらだ……) 花はこの状態を理解していた。




その頃、城の階下から声が聞こえる。

「来たぞ! やれっ!」 城の中に新政府軍が入ってきたようだ。

『バン バン』 と城の中で発砲音が響き



「いやーっ」 発砲音に反応した婦人隊員が叫びだした。

そして、その婦人隊員は膝から崩れ落ち、ガタガタと震えだしていく。



「もう簡単に城の中まで入って来れるのか……」 中野は全身の力が抜けたように言葉を漏らすと、



「もう、どれだけの時間が残っているか分かりません……ただ、敵軍に殺されるなら自分で腹を切る覚悟です」 

晋太郎は自刃した仲間たちを思い、覚悟を言ってみせると



ツカ ツカ ツカ……    〖―バチン〗


花が晋太郎に駆け寄り、力いっぱいに晋太郎の頬を叩いた。


「ふ……ふざけるな!」 


「腹を切るだと? 仲間たちの姿を思い出せ! あの姿が美しいか?」

花は、初めて晋太郎に本気で怒鳴った。



そして晋太郎は叩かれた頬を赤くし、茫然と花を見つめている。



「それで満足なのか? 私なら満足じゃない! みじめなだけだ……」


花の言葉は晋太郎の心に刺さった。

晋太郎の他にも、心がせていった者にも次第に活気を与える。



「私には晋太郎さんのお母様に約束をしているの。 生きて、生き抜いて、晋太郎さんの子供を十人産むって……」 


この場面で言ってのけた花の強メンタルに、城内では良い意味で茫然となった。



「はっははは……それこそ母体をいたわれよ~」 中野はケラケラと笑いながら、花の肩をバンバン叩いた。



すると、周りからも笑い声が出てくる。


「いや~ 晋太郎、十人作るとなるとは大変だな~」 年配兵士からも声が出てきた。



「いや……その……」 晋太郎は、真っ赤な顔になり下を向いてしまった。



「だから晋太郎さん……“腹を切るより、腹をくくりなさい…… ”」

花の言葉で沈んでいた空気が一変する。



「雰囲気も良くなったとこで、作戦だ……」 中野は、広間に集まった兵士に作戦を伝える。


「今は南と東は封じられている。 西は越後も劣勢れっせいなはず……残る道は北だ。 北の街道を、さらに北に行け!」 中野の言葉に全員が頷く。



荷物と武器を持った兵士は、急ぎ北の街道に出る為、城を後にすることになった。




「これでよろしいでしょうか? 家老……」

中野は、家老に兵士を逃がしたことを伝えると



「うむ、ご苦労であった……」 家老は何度も頷き、中野をねぎらった。



「では、この広間を使わせてもらう……」

家老が広間に入ると、家老の一家や血縁けつえんしゃ、二十名ほどが広間に入ってきた。



中野は膝をつき、額が畳につくほどの礼をして広間から出て行く。


そして中野は涙を流し、

「時の流れが早すぎます……」 そう呟き、廊下を歩いていった。




そして家老、田中たなか 土佐とさと一族の二十一名が自刃じじん



会津を支えてきた家老、田中 土佐の決断であった。



婦人決死隊は、亡き田中と上階にいる松平容保を守る為、城の出入り口を守っていた。



しかし、出入り口での新政府軍との戦闘中に中野が撃たれた……



そして婦人隊員が隊長の首を守る為、身をていして小部屋に中野を運ぶ。



「はぁ はぁ……」 中野の息が荒く、苦しみながらも


「花の子供、見たいものだ……楽しみだ……」

天井を見つめて希望を口にすると



「すぐに回復します……そして戦争が終わったら、花に催促さいそくしましょう……」 婦人隊員は必死に中野をはげます。



しかし……



婦人決死隊 隊長 中野竹子は亡くなった。


「隊長―――っ」

そして、中野の後を追うように残った婦女決死隊 自刃。


敵に捕まりはずかしめを受けるくらいならと……

婦人たちの立派な最後であった。




北の街道を目指して走っていた花たちは、この悲しい出来事を知らなかった。



「もうすぐだ、頑張れ!」 声を出したのは、今や白虎隊の中で生き残っている最年長の小田である。



すると、花が不意に足を止め、城の方を振り返える。


「どうしました? 花さん」 小田が花に近づくと、


「い、いえ……なにか声がしたような……」 花が城を気にしている。



その後も花は、何度も城の方を振り返り、その度に足を止めていた。



また花が城の方を振り返ると、遠くから誰かが走ってきた。


「全員、あそこの茂みに隠れろ!」

小田の指示に、全員が茂みに隠れる。



走ってきたのは男性であった。 それも会津の兵士である。


「おい、どうした?」 小田は茂みから出ていき、走ってきた男性に声を掛ける。



「はぁ はぁ……誰かに伝えようと思いまして……」

男性は息が上がっていて上手に話せていない。


「水だ……落ち着け」 小田は男性に水を飲ませると



「ありがとうございます……報告です。 家老、田中土佐様と一族が自刃。

そして婦人決死隊の隊長の中野竹子様が銃弾で亡くなりました。 その後、婦人決死隊の方が後を追って自刃されました……」


男性の報告に全員が膝を落とす。



(何度も振り返っていたのは この事だったのか……しかしかんの良い人だ……)

小田は自身の小屋の件も含め、花の勘の良さに驚いていた。



「では、急ごう……」

小田の声により、北に向けて歩き出した会津の部隊であった。



「あの……すみません。 小用を……」 花が小田に言うと

「そうですか、わかりました……」


小田は返事をして遅めの足取りで歩いていたが、花は全然戻ってこなかった。



「鈴ちゃん、花さんを見てきてくれないか?」

小田が鈴に声を掛け、鈴は頷き花の様子を見にいった。



「花さん、まだ……? って、あれ?」 鈴は花に声を掛けたが、花の姿が無く周辺あたりをキョロキョロとしていた。



草むら、木の陰や岩の陰も見たが花の姿は無かった。


「花さん、どこに……?」 鈴は近くに花が居ないか、声を出して呼び続けた。


「おーい、花さーん」 鈴は、花を探しに部隊から離れた場所に向かって歩くと


「あれ? 花さん?  なんで鉄砲を構えて……」

花が鉄砲を構えている姿を見て、鈴は無防備に花の近くに歩み寄る。



「―へっ? 鈴ちゃん? 来ちゃダメ!」 花が叫ぶと



『バン バン』 と銃声が鳴った。 その音と同時に鈴が倒れる。


「―鈴ちゃん?」 花の額に汗が流れた。



花は、敵兵と鈴の両方に気を取られていながらも


(今、鈴ちゃんを助けに行ったら私まで撃たれる……)



「銃声? こんな近くで?」 小田は銃声を聞きつけ、音のする方へ向かおうとしていた。


「小田さん、僕が見てきます」

晋太郎は小田に言い残して、銃声がした方へ駆け出していく。



花と敵兵は睨み合いが続いている。


(どうする? 先に動くか?) 花は悩んでいたが、その時であった。


「花さーん、鈴ちゃーん……」 遠くから晋太郎の声が聞こえる



「―はっ! マズい!」 花は晋太郎に気づき、咄嗟とっさに敵兵を見ると



『バン バン バン』 と、銃声が三回響く。

すると、敵兵の一人が倒れた。

花が撃ったのは、晋太郎を狙って構えていた敵兵である。



しかし……

「あれ? なんか身体が熱い……」 晋太郎は小声で呟く。


そして その場に立ち止まり横向きで倒れていった。



「――晋太郎さん? 晋太郎さーん!」 花の悲痛の声が会津の空に響いた。






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