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第二十七話  白虎隊

第二十七話    白虎隊



一八六八年 六月。 新政府軍が会津に侵攻して二十日が経過した。


会津の戦力は下がる一方で、新政府軍は増兵もある。 戦況は新政府軍の圧倒的有利の状態になっていく。



そして会津では さらなる悲劇が起き始めていた。



それは婦人決死隊である。 


本来は薙刀などを使い、第一線で活躍するはずが、新政府軍の昼夜問わずの砲撃に死傷者が急増し、負傷者の救護、弾運びなどの雑用に手を持っていかれていた。


「弾を持ってこい!」 「はい」 こんな言葉が城内で何度も繰り返されていた。



ド―ン  ガラガラ……  「ヒャッ」 婦人隊も恐怖で精神が消耗してきていく。


「もう嫌……」 そう言って、しゃがみ込む婦人隊員まで出てきていた。


「もう十人以上の婦人隊員が戦列を離れていた……なんとか踏ん張らないと……」 中野は苦しそうにしていた。




           ●

花は晋太郎と行動をしている。

「晋太郎さん、コッチ……」 花が晋太郎を手招きして誘導をしていると



『ドーン』 と、大砲の弾が近くで落ちてきた。


「―くっ……」 

「もう大丈夫ですよ」 晋太郎は、花を抱きしめ庇っていた。


花は、晋太郎の胸に顔をうずめている。


(そうだよな……花さんも女の子だから怖いよな……) 晋太郎の顔が優しくなり、花を強く抱きしめた時



「クンクン……スーハー」 花は、晋太郎の匂いを堪能たんのうしていたのだ。


「まさか、この状況で……?」 晋太郎は、慌てて花を突き放す。



「これは大事なことです。 あっ ごちそうさま……」 花はスンとした態度で晋太郎に感謝をする。


(この状況で出来る花さん……凄いメンタルだな……) 晋太郎は、驚くと言うより引いていた。



それから少しの時間が流れ、新政府軍の様子の違いを花は感じ取っていた。


(あれ? なんで敵軍が同じ方に集まっていくのだろう……?)


花は、新政府軍が同じ場所に人が流れていくのに気づき、先の場所の方向を見つめていた。



「ま、まさか?」 花の顔が蒼白になっていく。

「花さん? どうしたの?」 気づかない晋太郎は、不思議そうな顔をして花を覗き込む。



その瞬間、会津の空に黒煙が舞い上がった。



「あいつら町を燃やしにかかったな……」 花の全身が怒りに震えていく。

「なんて酷いことを……」 晋太郎も同じく怒りに震えていた。




そして城内でも

「おい、町が燃えているぞ!」 城の中でも驚きや、絶望の声があがる。

「もう会津も終わりなのか……」 婦人隊員からも諦めの言葉が出始めた。



「もう嫌…… はぁ はぁ……ぜぃぜぃ……」 この言葉を出した婦人隊員は、苦しみ倒れてしまった。


「誰か、救護きゅうごしろ!」 慌てて兵士が倒れた婦人隊員を奥に運んでいく。

ショックのあまりに過呼吸になってしまったようだ。



「なんてことだ……みんな、しっかりしろ! 弾を届けよう……」 中野も声を張り上げるが、声に力が無くなっていく。



(そう、もう少しすれば…… んっ? もう少しすれば何があるんだ……?)

中野は自身の言葉に疑問を持ち始める。 




花と晋太郎は、少しずつ敵軍との距離を縮めていた。


「晋太郎さん、馬に乗っている人や偉い人を狙うわよ。 兵士に撃つと弾が勿体ないからね」 花は作戦を晋太郎に伝え、晋太郎は黙って頷く。



『バン バン』 花と晋太郎は、敵軍の馬に乗っていた人物に向けて発砲したが、命中しなかったようだ。 


「ちっ 外した……」 花が悔しがっていた時、

「―花さん、気づかれた! 逃げよう」 晋太郎は花の服を引っ張り、逃げ出した。



「はぁ はぁ……花さん、羽織、邪魔じゃない? 大きいし……」 晋太郎は花の新選組の羽織が気になっていた。

 

確かに細身の花には、男性物の羽織は大きい。

また、白と水色の羽織が目立っていた。



「どうしよう……? 斎藤さんから託されたものだし……」

花自身も正直、困っていたようだ。



そして花は考えた挙句、畳んで服の中のお腹あたりに仕舞い込んだ。

「ほら妊婦みたい♡ ほら、父上ですよ~♡」 花は晋太郎にお腹を向けて、おどけていると


「……」 晋太郎は言葉も出なかった。



「城下は火の手もあるし、白虎隊と合流しましょう。 少し遠いですが飯盛山に向かいましょう」

晋太郎は身体と心を落ち着かせるため、花と飯盛山に向かった。




長い距離を駆け抜け、そして飯盛山に着くと




白虎隊 隊士 十六名   自刃



会津の十六歳から十八歳で構成された少年たちが、腹やのどを斬っていた。



「そ、そんな……」 晋太郎は絶望の淵に立った。

そして膝から崩れ落ちた。



花の頬にも涙が伝っていく。



後の話しになるが、飯盛山に居た白虎隊の隊士は城下が燃えているのを見たときに城が燃えていると勘違いをして自ら命を絶ったと言われている。



花と晋太郎は自刃した隊士を綺麗に並べ、小さな花を胸の上に置いていく。


そして手を合わせた。



「晋太郎さん……つらいね……」 花は憔悴しょうすいしている晋太郎を、後ろから抱きしめた。


「はい。 みんな一緒でしたから……身を引き裂かれるようです……」

晋太郎は涙が止まらなかった。



「いきましょう……」 花は小さく晋太郎にささやくと

「はい……」 晋太郎は声を絞り出したように答えた。




その頃、鶴ヶ城にも異変が起き始めていく。


極度のストレスを数週間の間、休みなしで与え続けられていて普通でいられるはずもなかった。


拒食、不眠、圧力に耐えきれずに精神から崩壊していく者が出る。



城の上階から飛び降りる者、武器も持たずに城を飛び出し、銃の的になる者などが出てきていた。


そして味方同士でののしり合い、喧嘩になり怪我をして戦列から外れる者も出てきてしまった。



「最悪だ……このままでは自滅の方が早いかもしれない…… 殿は いかがお考えなのか……」 中野は悪循環になっているさまを、黙って見ているほかならなかった。



(花さん、晋太郎さん……私、もう限界だよ……早く城に戻ってきて……)

疲れ果てた鈴も下を向いては、泣いてばかりになった。




(あと何日もつか……) 花は、落城することは理解していた。

ただ、それを待っているだけでは何の意味もない。

(殿に伝えるか……お目通りが叶うか分からないけど……)



花と晋太郎は、鶴ヶ城に向けて走った。



そして鶴ヶ城に到着すると、


「―すみません……殿にお目通り願いたいのですが……」

花は、城の上層部におくすることなく伝えると



「殿は忙しい……またにせよ」 なかなか会うことは出来なかった。

花は、急いで下の兵士たちが戦っている場所へ向かう。



(どんな顔を見せれば良いのか……) 花は悩んでいた。


「ただいま戻りました」 花は悩んだ挙句、答えも出ないまま顔を出すことになった。


「花さん!  花!」 様々な声が聞こえた。

 

元々は会津の町娘。 同じ年代の女子と遊ぶ訳でもなく、母親と晋太郎にしか交流を持たなかったコミュ障の女子だった花が、こうして沢山の人から受け入れられていた。



「ところで外はどうなっている?」 中野は、花に城下の話しを聞いた。

「あまり、よろしくはありません……」

「それと、気の病んでいる方は大丈夫ですか?」 花の心配は、外よりも中にあった。



「奥の部屋にいるよ……」 中野は悲しげな声で案内した。



スッ……  ふすまを静かに開けると


そこには、気の病んだ者が花を睨んでいた……


(目が異様だ……それに後ろで手を縛って……自刃をさせぬ様にか……)

花はショックを受けていた。



「隊長、殿に会えますか? 先程、お目通りをお願いしたら断られたのですが……」 花は、中野にお願いをする。



そして松平容保の居る部屋まで来ると



「恐れながら……」 花はひざひたいを畳に付け、城下の様子や飯盛山の白虎隊の話をする。



しかし、松平容保は黙ったままである。


「では失礼します……」



(これでいい……決めるのは殿だ。 私は確かに伝えた……)

花はホッとしたのか、廊下で気を失ったように寝てしまった。


「―おい、花?」 中野は必死に花の身体をゆすったが、花は寝たままであった。



「少し寝かせてあげてもらえますか?」

晋太郎が中野に歩み寄ってきて、



「花さんは兵士でもない、ただの町娘だったのです。 なのに、誰よりも戦を経験してきたのです。 だから、今はそっと……」


晋太郎の優しさが中野に通じたようだ。



晋太郎は花を城の静かな部屋へ運び、寝かせた。

そして上から布団代わりに、新選組の羽織を掛けてあげた。



(ありがとう、花さん……) 晋太郎の眼から涙が溢れ出てくる。



「負けちゃうな~  全てに完敗ですよ~」 


ここで花の様子を見にきていた鈴が呟く。



「鈴ちゃん……」 晋太郎は振り返り、鈴を見ると



「あはは……でも、晋太郎さんを好きなことは負けません。 それに……花さんに負けると分かっても、私は頑張るのです。 だって、私は会津の女ですから♪」


鈴の笑顔に晋太郎の心も休まっていくようであった。


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