第二十五話 鶴ヶ城防衛戦(下)
第二十五話 鶴ヶ城防衛戦(下)
一八六八年 六月 会津
会津藩は新政府軍の猛攻に耐えていた。 しかし圧倒的な力の差もあり、追いつめられた会津藩の限界は少しの所まできていた。
「殿、いかがなされますか?」 「……」 城の中でも解決しようにも、戦力の差で押されている。
ますます状況は悪くなっていた。
その頃、古民家では二人組と花は話していた。
「……ですから晋太郎さんは無事にいて欲しいのです」
花は気持ちを二人組に話す。 しかし、晋太郎は
「武士ですので、最後まで戦わなくてはいけません」 と、花に話している。
(話しが進まない……) 二人組は困っていた。
「何か良い案はありますか?」 花は二人組に尋ねたが、
(むちゃぶり……) 二人組には酷な質問であった。
「ま……まぁ無い訳じゃないがな……」 村田が苦し紛れに花に言うと、
「あるのですね♪ さすがです。 さっ、晋太郎さん……」
花はこう言って、晋太郎を二人組に渡す。
そして二人組は、晋太郎を古民家の奥の物置に連れて行き、しばらくして戻ってきた。
「―なにが起こっているの??」 花は驚いていた。
晋太郎の服装が白虎隊ではなく、新政府軍の服に変わっていたのだ。
「よく似合うぜ♪」 木田は、晋太郎の服装を見て笑っている。
「これは間違われないように渡しておく……スペンサー銃だ」
村田は、晋太郎にスペンサー銃を渡した。
「ちょっと……晋太郎さん、無茶よ!」 花は、晋太郎の役目を察知してしまった。
花は二人組を睨み、「晋太郎さんに何かあったら どうするのですか?」
と、凄むと
「しかし、坊やを安全にしたい……坊やは武士としてやりたいんだろ? これが最善だと思うんだが……」 村田は花を説得している。
「うぅ……そうだけど……」 花は言葉に詰まった。
「じゃ、決まりだな。 よし行け! 坊や」
木田は晋太郎の背中を押し、外に追いやった。
「うぅ……晋太郎さん……」 花は膝から崩れて、晋太郎を見送った。
「花、俺たちは会津を離れるぞ。 いつまでも居たら危険だからな」
村田は花に伝え、荷物を取りに古民家に入ると
「とにかく ご無事で…… 本当にありがとうございました」
花は二人組に感謝を伝えた。
「まだスペンサー銃なら物置にあるから使えよ。 ゲベール銃は無いが、弾なら残っているからよ……」
二人組は、花に残った武器を提供して古民家を去っていった。
「ありがとうございます」 花は心から二人組の出会いに感謝をした。
これは花にとって人生を変える出会いであったことは間違いではない。
花は鉄砲を胸で抱え、二人組が見えなくなるまで見送った。
花は新選組の羽織に襷を掛け、ハチマキを額に巻いて戦の準備をする。
「よし! いくぞ!」 花は息をひとつ吐き出し、戦場に駆けだす。
その頃 晋太郎は新政府軍に合流していた。
「撃てー」 新政府軍の指揮官の号令のもと、大砲や鉄砲が鶴ヶ城に打ち込まれていた。
晋太郎は鉄砲隊に混ざり、城に向かって発砲しているフリをしている。
それは、晋太郎が鉄砲を撃ったことが無いからだ。
「お前、大丈夫か? 撃っていないじゃないか……」
そこに他の鉄砲隊に気づかれた。
(―ギクッ) (どうしよう……花さん……) 晋太郎の額に汗が出てくる。
「お前も怖いよな……俺も同じだ」 他の鉄砲隊も同じ気持ちだったようだ。
「そう……ですね……」 晋太郎の言葉が震えていた。
すると 『バンッ』 と音がして、晋太郎と話していた鉄砲隊が倒れる。
「――ヒャッ」 晋太郎は声を漏らし、銃声の方を見ると
(花さん……? 花さんが撃ったのか……?)
晋太郎は花を見つめていた。
そして撃った花は、走って逃げて行く。
(花さん……本当に戦場の人になっていたんだね……なのに、僕は何をしているんだ……) 晋太郎は自分が弱く、いかに助けられていたのかを痛感する。
『ポツッ ポツッ……』 晋太郎から涙がこぼれ始めた。
(……なんで泣いているんだろう? 花さんが勇敢だから? 僕が弱い男だから?) 晋太郎の頭の中には、花と比べている自分が浮かんでいた。
花は遠くまで走っていき、また誰かを撃っている姿を晋太郎は見つめている。
晋太郎の眼に映っている花の姿からは、【嫉妬、尊敬、愛情】などが含まれる、様々な感情が生まれていた。
晋太郎は花を見つめ、そしてハツッと我にかえる。
「僕は会津の……武士だ! こんな新政府軍の服を着て何をやっているんだ……僕が守るのは会津の……そして花さんだ」
晋太郎の眼は、“男の子から男 ” になった瞬間でもあった。
晋太郎が駆けだす。 そして古民家に辿り着き、
「僕の服は……あった」 晋太郎は、置いてあった白虎隊の服を手に取り
(こうして綺麗に畳んでくれて……やっぱり花さんは優しいな……)
晋太郎は額にハチマキを巻く。
(いつも隣に居てくれて……何でもしてくれて……いつも いつもの花さんで居てくれていた……花さんは僕が守る!) 晋太郎は決意した。
花は新政府軍の後方から狙撃を行っている。
城からは八重が、後方から花が……会津の女性の二人の活躍もあり、会津軍は奮闘していく。
晋太郎が花に駆け寄ると、
「あれ? 晋太郎さん、白虎隊の服に戻ったの?」 花は晋太郎を見てキョトンとしていた。
「一度、南の街道に行きましょう」
「弾や体力の補充も必要です! さあ……」 晋太郎は花の手を引いて誘った。
(晋太郎さんに手を繋がれるなんて……幸せだな……)
花の恋心は戦場でも健在であった。
南の街道に到着し、中野らと合流する。
「大丈夫ですか? 向こうの兵は来ましたか?」 晋太郎が中野に聞くと
「まだ来ていない……来ないんじゃないか?」
「来ますよ! 新政府軍はもっと多いはずです……」 花は中野に言うと
「此処に居るだけでも抑止にはなります。 武功だけが全てではありません!」 花の言葉に誰もが頷く。
「どうして晋太郎さんが鉄砲を持っているのですか? 晋太郎さんじゃ撃てないですよね?」 鈴が晋太郎の姿を見て不思議そうにしていると、
「僕は花さんに助けてもらってばかりだったし……今度は僕も助けないと……だから鉄砲を持って戦おうと思ってさ。 やり方は新政府軍の鉄砲隊を見ていたからね……」
晋太郎の軽い発言に全員が黙ってしまった。
もちろん花も苦笑いが精いっぱいである。
(そんな軽い感じで……鉄砲って撃てるの?) 全員が同じ感情であった。
そして遠くから人の声や物音が聞こえてくると、
「―隠れましょう」 花は、全員を少し離れた茂みの中に誘導した。
「晋太郎さん、構えて」 花は、晋太郎の持っていたスペンサー銃を構えさせた。
「よく狙いを……」 「―撃て!」 花の声に反応した晋太郎は鉄砲を撃つ。
そして、新政府軍の一人が倒れていった。
「よし♪」 花は、晋太郎の頭をポンポンと叩く。
それは『よく出来ました』の意味である。
花が新政府軍の馬に乗っていた者を撃つ。
それも命中し、馬に乗っていた新政府軍の男は落馬し倒れていった。
「―さぁ 来るよ」 花が小声で注意を喚起し、相手の反撃に備えた。
花が晋太郎に無言の合図をして、指示を出すと
晋太郎は頷き、花の意図する場所に移動する。
花が次の標的である鉄砲を持っていた者を狙って撃つ。
晋太郎も続き、鉄砲を持っていた者に向けて発砲した。
(あとは茂みに隠れている白虎隊が刀で……) これが、花の作戦であった。
次第に相手の距離が近くなり、白虎隊と婦人隊の奇襲が始まる。
そうして南の街道での戦いは花の作戦勝ちではあったのだが、婦人隊の一人が撃たれて倒れていた。
「―大丈夫か?」 中野は負傷した隊員の元に駆け寄る。
「失敗しました。 すみません……」 負傷した隊員は小さな声で答えたが、息が荒く苦しそうである。
中野は負傷した隊員に布を当て、木陰で横にした。
そして中野が花を見つめ、何かを言いたそうにしている。
「これが戦です……」 花が中野に一言だけ残して背を向けると
「そ、そうだよな……すまんな……」 中野は納得したようだ。
ここまで生々しいのは初めてのことであり、ましてや目の前で仲間が撃たれたのだから普通でいられないのも承知した。
「誰か、この鉄砲を使いますか?」 花は、敵軍が持っていた鉄砲を集める。
「私、やりたいです……」 ここで手を挙げたのが鈴であった。
「鈴ちゃん……」 花は驚いている。
「花さん、教えて……」 鈴の積極的な行動に、花は少し後ずさりしていた。
花は鈴に鉄砲の使い方を教えると
「ふむふむ……こうね?」 意外にも鈴の飲み込みは早そうであった。
「まぁ 晋太郎さんでも出来たんだから……」 花は笑いながら鈴に言ったが、
その横には晋太郎がショボンとして立っていた。
そうして次々と鉄砲を撃ちたい人が増え、立派な鉄砲部隊ができあがっていくと
「さあ 次は側面から叩きに行きましょう。 ここは二手に分かれていきます」
花の作戦通り、敵軍の両側から発砲して攻撃力を下げることにした。
花が合図をして一斉に鉄砲を発射した。
「うわー」 新政府軍は予想にしなかった攻撃により一時撤退となっていく。
「よしゃー」 花たちの活躍によって会津藩の歓喜が響いた。
そして花たちは鶴ヶ城に戻り、仲間たちと喜びを分かち合い
「花さん、本当に凄いよ。 よくやった」 など、様々な言葉が花に降り注いでいく。
夕暮れになり、城内では明るい雰囲気の中での夕食となっていたが、花は城の傷んだ場所を眺めていた。
「花さん?」 晋太郎は、花にそっと声をかけた。
「晋太郎さん、私……」 花の声は弱々しかった。
「大丈夫ですよ。 会津は勝ちますから……」 晋太郎は、花の肩に手を置く。
そして、夕暮れから夜になっていく。
花は、城から城下を見渡せる広い庭で大砲の横に腰を降ろした。
隣には晋太郎も座っており、二人は無言のまま寄り添っていた。
二人は星空を眺め、時が進むのを拒むかのように時間を過ごしていた。
そこに遠くから鈴が見ていた。
「こんなのダメですからね~~~」 鈴の嫉妬も可愛い夜となった。




