第二十三話 君ヲ想フ
第二十三話 君ヲ想フ
花が白河から戻って数日が経ち、会津の城に文が届いた。
「なにーっ? 白河が落ちただとー」
城の内外にも噂は広がり、会津全体に緊張が走っていた。
花も噂を聞き、表情は暗くなっていく。
(つい先日まで一緒に戦った仲間が……)
花はクチナシの花を、川に流したことを思い出していた。
「ここに残っている思い出は斎藤さんからの羽織だけ……大きいし派手だな……」
花は洗濯をし、飾ってある羽織を眺めていた。
「さて、店番でもするかな……」
花は傷めた足が完治していない為、城の出入りは禁止されていた。
『ヒョコ ヒョコ……』 足を引きずり花が店に顔を出す。
「母様、何か手伝えること……」 花が言っている途中に、雪が言葉を被せてきた。
「あなたは寝てなさい!」 雪は言葉きつく、花を部屋に戻した。
会津、鶴ヶ城では戦に備えて準備が進んでいた。
「これから見回りの強化をする。 男女四人で一組とし、城下、町の隅々まで不審な者を退治するのだ」 これが城の上役からの下知だ。
男が戦い、女が知らせる係となる。
こうして見回り部隊が構成される。 ただ、花は怪我の療養のため、構成から外れていた。
「いきなり戦になることは無い。 まず先鋒のヤツラが様子を見にくるはずだ。 まず先鋒隊を見つけたら叩くぞ」 白虎隊の隊士も気合が入っていた。
晋太郎の班には、婦人隊長の中野や鈴も入っていた。
「鈴ちゃん、よろしく」 晋太郎が鈴に話しかける。
鈴は舞い上がり、 「晋太郎さん……私も(出来るなら、末永く)よろしくお願いします」 と挨拶をして巡回が始まった。
そして晋太郎の班は白河に続く道、南側からの街道付近に向かっていた。
領地の南の街道からの人の流れに目を配っていく。
ガラーン……
白河での戦が終わり、南方からの人の通りはなく、静かなものであった。
そこに 『ヒョコ ヒョコ……』 と、花が歩いてきた。
「―花さん?」 晋太郎は目を丸くした。
ゆっくりと花が近づき、
「晋太郎さん、みなさん、ご苦労様です……」 花は見回り隊に声を掛ける。
「どうしたんだ? 休まないとダメだろ!」 婦人隊長の中野は、焦った口調で花に話す。
「はい……ただ此処で見張りとは、無意味な気がして……」
花は申し訳なさそうに言った。
「どうしてだ? 先鋒隊を防げるであろう……」
中野が主張するが、花は説得の言葉を出す。
「はい……先鋒隊が歩兵であれば防げますが、もし先鋒隊が大砲や鉄砲であれば……」 花の言葉に全員が黙った。
(先日まで白河で戦を経験してきたんだ……きっと、そうなんだろう……)
誰もが納得できる言葉であった。
花の言葉から沈黙が続いていた時、南方から歩いてきた男性の姿が目に入る。
「とまれ! ここから会津だが、何用か?」 中野が男性を制止する。
「私は白河から来ました農民ですが、佐藤様から預かった文がございまして、会津の近藤 花さまに……届けにまいりました」
この男性などの農民は、山賊とも仲がいい。
藩からの待遇の悪さから山賊になった人も居たくらいである。
そこの頭である、華と面識があってもおかしくはなかった。
「近藤 花は私です。 佐藤様って、華さんの事ですよね?」
花は、男性に近づき話すと
「はい。 頭さんには大変お世話になりました」 男性に笑顔が出てきた。
「では、お預かりします」
花は男性から文を渡してもらい、広げて読み始めた。
『この手紙を読む頃には私はこの世に居ないだろう。 もし、会津が滅びるようであれば箱館に向かえ。 少し寒いが、頼れる場所だ。 生きろ、花。 佐藤華』
と書かれていた。 ※箱館は現在の函館である。
花は手紙を読み終え、大粒の涙が溢れていく。
中野は白河から来た男性に給金を渡し、男性は白河に戻っていった。
「私、帰ります。 早く治して戻ってきます……」
花はヒョコ ヒョコと歩いて戻っていった。
そこから花の指示通り、南方からの街道に工事が施される。
そして数日後……
「来るぞ! 心してかかれ!」
城内の松平容保の号令により、戊辰戦争、会津の戦いが始まった。
「母様、ここを捨てて お逃げください」 花は、冷静な口調で雪に話す。
「有り金はすべて、この中にあります。 荷車に衣類なども積んであります」
花は母親を逃がすことを優先にしていた。 地図を書き、遠回りをしながら白河に身を寄せるように指示をした。
「行きましょう、母様……」 花と雪は、二人で会津の領地から離れた。
「ここまで来れば安心です。 さぁ母様……この先、ご無事で……」
花は気丈に振舞った。
「花……私は貴女の母であることを誇りに思うわ。 どうか生きて、母の前に顔を出してちょうだい……」 これが母としての精一杯の言葉だった。
二人は別れ、花は会津に戻っていく。
そして花は、町はずれの古民家に来ていた。
『ダン ダン ダン』 花は戸を叩くが、二人組は居ないようだ。
花は古民家の裏手に回り、勝手口のような戸を壊して中に入った。
古民家の中は もぬけの殻であった。
(戦が始まるから商売にならないし、逃げたかな……)
花は此処で二人組に出会い、鉄砲などを与えてもらい、教えてくれた事を思い出していた。
「全て、感謝だな……」 花はつぶやき、恩を感じていた。
古民家の裏の納屋には多少の武器が残っていた。
「よし……」 花は武器の確認を済ませ、晋太郎の家に向かった。
「ごめんください……」 花は晋太郎の家の小さい門から入ると、咲を見つけた。
「お母様、ここは危のうございます。 早くお逃げください……って何を?」
咲は仏壇の前で肩を落としていた。
「あっ 花さん……先日、幸太郎が亡くなった知らせが来て、そちらに参る話しをしていましたの……」 咲は憔悴していた。
「そ……そんな事をして誰が喜びましょうや? 晋太郎さんも生きて戦っておられるのですよ!」 花は、必死に説得を始める。
「ですので、私はこの家を枕に……」
花の説得に対して、咲は力のない言葉を出したとき
「―ならぬことは ならぬことです。 私はお母さまに沢山の恩がございます。 だから……生きて私に恩を返させてください」
花は力強く言った。
「恩? 花さんに? 私の方が花さんに恩があるのよ……」
咲は穏やかな口調で言うと
「そうですか……ならば生きて、生き抜いて私を晋太郎さんの嫁にさせてください。 年齢的にも十人くらい産めます!」
花は晋太郎への “純粋な下心 ” を、母親にぶつけたのであった。
「まぁ……十人も?」
咲は驚いた後、クスクスと笑った。
「ですので、子守りを任せますので、今は早く……」
そして逃げる支度を手伝い、花は咲を見送った。
最後に咲から 「たくさんの孫、楽しみにしているわよ♡」
の言葉に、顔が熱くなっていた。
「ぐへへへっ……言質とった~♡」
非常にだらしない顔になっていることは、言うまでもない。
「さて……最後の仕上げかな……」
花は自宅に戻り、戦の準備をしていた。
「これと……これ。 コレも持っていくか……」
花は、言葉にして持ち物を確認していた。 すると羽織が目に入る。
花は羽織を両手で持って眺めていた。
(アイツ……斎藤 一って言うんだ……) 花は、斎藤との出会いを思い出していた。
(白河で温泉に来たんだよな…… 裸、見られたよな……)
花は斎藤との時を思い出し、クスッと笑った。
花にとって色々な人との出会いは、かけがえのないものになっていた。
花は羽織を着てみた。 (やっぱり大きいけど、まぁいいか……)
「さて、行きますか!」 花は着替えて外に出た。
外に出ると、周りが騒がしくなってきていた。
花は、古民家に向かう途中で白虎隊の隊士を見つけると
「すみません。 少し手伝ってもらえますか?」
白虎隊の隊士にお願いをして、古民家から城下まで大砲を押してもらった。
「ここで良いです。 ありがとうございます」 花は隊士に礼をする。
(この隊士たちにも感謝だな……土壇場でも手伝ってもらってさ♪)
花には沢山の想い人が出来た。
「しかし、晋太郎さん何処かしら?」 花は、キョロキョロと晋太郎を探していた。
町は逃げていく人が大勢いる。 武士以外の人には戦など関係ない。
花は逃げていく人たちを見て悲痛なものになっていき、そして大砲の横で座り込み
(母様……うまく逃げれたかな?……) 花は空を見上げていた。
そこに敵の大砲が見えてくると
(来たか……)
花も慌てて大砲の準備をする。
(狙いよし! この一撃で恩を返す!)
「いけ~」 花は大砲を発射させた。
すると花が発射した大砲は、敵の的から大きく外れて城下にある民家に直撃してしまった。
『ガラガラ…… グシャ……』 そして民家は崩れていった。
(……あれ……?)
発射に気づいた新政府軍が
「あそこだ。逃がすな~」 と、大声で花の方向に指をさす。
「えっ? あれっ? とりあえず逃げよう……」
花は一気に走って逃げていった。
「みんな……ごめんなさ~い……」
花は走って遠くまで逃げていった。




