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第二十話  是非もなし

第二十話    是非もなし



~一八六八年、元旦~


城には多くの人が訪れた。 新年の祝いに殿様、松平容保に挨拶をする客である。


徳川慶喜が大政奉還を発表して、政治を天皇に返上して最初の新年となり


京に駐在していた会津藩の兵士は一斉ではないが、徐々に京から会津に帰還きかんしている人も増えてきた。 



ただ、晋太郎の父や兄は会津に戻ってきてはいない。


京では新政府軍がはばを効かせ、江戸に進軍をしようと目論もくろんでいた。




会津で晋太郎と花は神社で初詣をし、二人で両手を合わせ拝んでいる。



「晋太郎さん、お参りは終わった?」 花はご機嫌である。


「はい、終わりました。 父、兄の無事と会津の安泰を祈りました」


 「花さんは?」 晋太郎は、花の祈りごとを聞くと



「それは家族の安泰と、晋太郎さんとの初夜……」

花が顔を真っ赤にしながら小声で話す。


 

「しょ……や……?」 晋太郎はウブというか、子供なので知らなかった。


「あっ、いや、それは……」 慌てて花は、言葉をかき消そうとしていた。



(花さんは拳銃も扱えるし、一人でも家族を守れそうだな……)

晋太郎は、白河の出来事を鮮明に思い出している。



それにしても、花の暴れ回る感情は新年早々でも健在であった。



そして穏やかに過ごしていた会津は、慌ただしい事態へと進んでいく……



松平容保 率いる兵は京に戻っていった。

そして鳥羽伏見の戦いが始まっていくのである。


この戦いによって、花と晋太郎も……そして会津の運命の歯車が大きく変わっていく。


寒さも厳しくなってきた会津では常に緊張を、いられていくが、花は変わらなかった。


「晋太郎さん、お茶です♪ あっ、オマケで……」

花は自宅の店で晋太郎にお茶を差し出す。 それと、オマケとは鈴である。



この日の晋太郎は鈴と一緒に花の店に来ていた。


そこで晋太郎と鈴にお茶を出していたのだが

(なんで鈴ちゃんと……?) 花は、少し不機嫌になる。



「あの……今日、僕がここに鈴さんと来たのは相談で来たんだ……」 

晋太郎は相談で花の店にやって来たとのことだ。



「相談って?」 花は晋太郎に目を丸くして聞く。


「僕も京へ行って、父上や兄上と共に戦おうかと思ったんだ…… それで花さんや鈴さんに相談というか報告と言うか……」

晋太郎の眼は覚悟を決めたようであった。



しばらくの沈黙の後、鈴が口を開く。



「嫌です。 そんな危ない場所に……」 鈴が目に涙を浮かべる。


「僕も白虎隊の隊士なんだ。 行かなくてはダメな気がするんだ……」

晋太郎の話しは、相談というより説得のようであった。



「それで、残された お母様はどうするのですか?」 花は、続けて


「残された お母様はどうするのですか? 父様ちちさま兄様あにさまも京へ行っていらっしゃる…… そして晋太郎さんまで行かれて、お母様はどんなお気持ちになると思いますか?」 花が晋太郎に厳しい顔で質問をしていると



「……」 晋太郎は下を向いてしまった。



「わかりましたね。 晋太郎さんは会津に残るべきなのです……」

花の言葉で決定的かと思いきや、晋太郎は



「ありがとう……でも行こうと思う。 母様は心配になるけど、会津を守りたいんだ……」


「……」

 決意したように見える晋太郎の顔を花は見つめていた。



しばらくの沈黙の後、晋太郎は立ち上がり店を出ようすると


「やっぱり、分からせないとダメのようですね……」

花は、冷たい眼を晋太郎に向ける。



花は晋太郎を連れて河原まで来た。 鈴も一緒である。



「晋太郎さん……ハッキリ言って、貴方は弱いです。 京に行っても足手まといになるだけです。 今、それを証明いたします」


花は、真面目な顔をして晋太郎の足元に木刀を置いた。 そして、花は木製の薙刀を持って構える。


「何の真似ですか? 何故、僕が花さんと闘わなくてはダメなのですか?」


晋太郎が小刻みに震えて花に言うと



「晋太郎さん……戦う理由は、上の人が決めているのです。 弱い貴方は何も考えず、黙って戦うのですよ。 それが任務です」


花の言葉は晋太郎を突き放すような言い方をしていた。


「ならば僕は戦って京に行く。 おりゃー!」

晋太郎は覚悟を決めて、花に襲い掛かる。


カンカンと木の高らかな音が鳴った瞬間、晋太郎が持っていた木刀が宙を舞った。 そして、花の突き刺した薙刀が晋太郎の顔の前で止まる。



「私の勝ちです……」 花は、冷静に言葉を出してから晋太郎に背を向けると



「まだまだ……」 晋太郎は木刀を拾い上げ、再び花に立ち向かった。

そして、同じ様に晋太郎の木刀が宙を舞った。


そして 『ドスッ』 と音がする。

花の薙刀の柄の部分が、晋太郎の腹に食い込む。



「―うぐっ……」 晋太郎は膝から崩れ落ちた。



「もう やめようよ……」 鈴が声を震わせ花に言うと


「まだ……まだやれる……」 晋太郎の言葉通り、何度も立ち上がり花に向かっていった。 そして晋太郎は、何度も薙刀を打ち付けられていた。



晋太郎はボロボロになっていた。 それでも晋太郎は立ち上がり

「ま……まだ……」 晋太郎の声はかすれ、弱々しい声になっていた。



「もう やめてー。 何で花さん、そこまでするの?」

鈴が泣き出してしまう。


「晋太郎さん、わかりましたね……」

花の一言が晋太郎に最後の力を出させる。



「おりゃー」 晋太郎の気合の入った言葉が響くと、



「是非もなし……」 花が小さく自分に言い聞かせるように呟く。


「やめてーっ」 同時に鈴の叫び声も響いたとき、


『ドンッ』 という音が、三人の声と共に響いた。



「―えっ?」 晋太郎は驚き、動きが止まる。

そして足元から砂煙が舞っていた。


晋太郎と鈴は、花を見る。 そこには拳銃で晋太郎の足元を狙った花の姿があった。


銃口からは煙が出たまま、晋太郎に向かっている。



「――花さん、卑怯だぞ!」 晋太郎は、大きな声で花に怒鳴ると



花は、氷のような冷たい眼で晋太郎を睨み

「卑怯? 何で卑怯なのですか?」 花が晋太郎を睨む。

「だって拳銃を……」 晋太郎はムキになって言葉を返すと


 「はぁ……」 花がため息をつき、



「京の戦に鉄砲や拳銃は使われていないのですか? むしろ銃弾が雨のように舞っていると思いますが……そこに貴方は卑怯という言葉を使うのですか?」


 花の言葉が晋太郎の胸を刺す。


そして晋太郎は膝から崩れ落ち、花は拳銃を懐に戻してから晋太郎に歩み寄った。



「晋太郎さん……私は晋太郎さんを愛しています。 そしてこれからも……だから晋太郎さんを失いたくないのです。 京に行けば、必ず晋太郎さんは討ち死にします。 こんなのが私は嫌なのです……」 花は優しい眼になり、晋太郎を抱きしめた。



その数秒後


「ちょっと待て~い」 鈴が精いっぱいの声を上げると

晋太郎と花は 『ハッ』 と、我にかえった。


「何? この感動シーンで終わりにしようとしているんですか? こんなの認めませんからね~」

鈴が手をバタバタさせて、クライマックスを阻止していた。



「いやいや、そんな訳じゃ……」 慌てる花と晋太郎。


「じゃ、次は鈴ちゃんと晋太郎さんで続きをしてみる?」

花が続きを提案したが

「僕、ヘトヘトで身体がうごきませ~ん……」 晋太郎は苦笑いしていると



「まぁ……晋太郎さんが元気でも、さっきの花さんとの戦いを見ていたら、私でも勝てそうというか……その……」


鈴は両手の人差し指を合わせながら戦いの感想を言った。


「そんな……」 晋太郎は再び膝から崩れ落ちていった。



その数日後、鳥羽伏見の戦いで会津藩は大量の死傷者が出たことを耳にしたのである。



晋太郎は花の店でお茶を飲んでいた。

「ほら、晋太郎さんが京に行っていたら無駄に一名追加だったでしょ!」

花はニコッと晋太郎に微笑んだ。






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