第十九話 それぞれの愛情
第十九話 それぞれの愛情
「……ただいま戻りました」 花が小さな声で帰宅する。
数か月、家を出てから連絡もなしでいた事に、申し訳ない思いで一杯の表情だった。
「おかえり~♪」
雪は、変わらずの態度で花を出迎える。
「―ごめんなさい」
花は、涙を浮かべ抱きついた。
雪は、何も言わずに花を抱きしめ、涙を流していた。
それから花は、ぐっすりと眠ってしまった。
(どれくらい寝たのだろう……)
「おはよう―」 花は目を腫らした顔で雪に挨拶をして、店の掃除を手伝いをする。
(久しぶりの店の掃除……何もかもが懐かしく感じる……)
花は、この家に帰ってきたことを実感していた。
そして、店の掃除を終えると河原まで足を運んだ。
(いた♡)
そこには慎太郎も河原に立って川を眺めていた。
「晋太郎さん、み~つけた♡」 そこには変わらない花の言葉があった。
「花さん、会津は変わらないです……本当に良い所です……」
晋太郎は白河の出来事と、会津の風景を見比べて感慨深げに話す。
そして、花は黙ったまま頷いていた。
「晋太郎さん、この後に晋太郎さんの家に少しだけお邪魔してよろしいですか? 晋太郎さんの母様に御挨拶をしたいのですが……」
花は、晋太郎を真っすぐに見て話す。
「もちろん♪ 母も花さんを心配していましたし、喜ぶと思います」
晋太郎は笑顔で応えていた。
そして晋太郎の自宅に着くと
「お久しぶりです。 お母様……」
花は、咲に深々と礼をする。
「花さん、お久しぶりね。 此度は晋太郎を救ってくれて本当にありがとうございました。 感謝してもしきれないわ」
咲は、同じように花に深々と頭を下げた。
花は咲に挨拶をした後、城下を歩いていた。
「あっ!」 花は何かに気づいた。 そして花は走りだし
「こんにちは。 あの……本当にありがとうございました」
花が頭を下げる。 相手は古民家の二人組だった。
「おう♪ 無事で良かったな」 二人組の木田は軽く笑顔で話してくれた。
(こんな優しい日々が続いてくれればいい……)
花は心からそう思っていたが、
「ところで、新しいのを試してみるか?」 二人組の村田が、言い出してきたのだ。
「新しいの?」 花は首を傾げる。
花は、二人組の案内で町はずれの古民家に来た。
「これは……?」 花は目を丸くする。
そこに見せられたのは、新しい鉄砲であった。
「これはゲベールと言って火縄銃より性能がいい……これを使ってみろ。」
村田は、花にゲベール銃を持たせる。
古民家から少し離れた所に、秘密の銃の練習場がある。
ただの森の中だが、人通りもなく好都合な場所である。 拳銃もここで練習していたのだ。
『バンッ』 と音がする。
花は、何度も鉄砲を撃つ。
「ありがとうございます……」 花は二人組に頭を下げ、
「あの……そういえば、どうして私に良くしてくださるのですか?」
花は、不思議に思っていたことを二人組に聞いてみた。
「そうだな……縁だよ。 お前がこの家に無断で入って、自分から俺たちの前に現われ、危険を顧みずに声を掛けてきた。 そして武器の移動などの仕事を無償で手伝ってくれただろ…… そんな縁だよ」
二人組の木田は経緯を話してくれた。
こうして花は、縁や愛情は両手いっぱいに……また、抱えきれないほどに貰った気持ちになる。 そして それらを この両手からこぼれないようにと思うのであった。
しかし、コイツは別だ……
「いいじゃないですか~。 一緒に行きましょうよ~」
鈴が遊びたさで、晋太郎の腕を引っ張っていた。
「良くないですよ。 僕は忙しいんです……」 と、断っている晋太郎。
(イラッ……) 花の顔がひきつる。
花は、しばらく遠くから晋太郎と鈴のやりとりを見ていたが、
「ふっ……」 と笑ってしまうほどの余裕さえ見せる。
知らず知らずのうちに、花は大人になったようだ。
翌日も、翌々日も花は会津中を歩いて回った。
「今日から城内で稽古が始まるな~♪ なんだかワクワクするな~」
花は、久しぶりの稽古を楽しみにしていた。
●
その頃、雪は店と自宅の掃除をしていた。
「あら、花は出しっぱなしにして……服も片づけてないし、何やっているのかしら……」
雪は、花の服をたたみ衣装箪笥にしまっていた時、
「あれ? この箱は何かしら……?」 そっと箱の蓋を開けてみる……
「えっ? どういうこと?」 雪は驚いていた。
「ただいま~」 花が稽古を終えて自宅に戻ると、
「あれっ?」 何やら店に仕切り戸をつけて、貸し切りのような形になっている。
花は様変わりした店に驚いていた。
花は目をパチクリさせ、
「母様、これは…?」 花は驚きながら雪に聞くと
「何やら城の偉い方が来て、個室の様にしたいからと……大工などを連れてきてね……」 雪は(やれやれ)と思う顔で花に話す。
「城の方ですか……宿屋を使うのが普通なのでは?」
花は不思議そうに話すと
「そうなんだろうけど、有難いわよ。 工事もタダだし……」
雪は笑っていた。
(まぁ、店を使ってくれるなら有難いか……いつか晋太郎さんとも使うかもしれないし……でも、そうなると母様は邪魔だな……)
花の妄想は暴走となっていく。
そして夜になり、工事の依頼者が店へとやってきた。
「世話になる。 今夜の事は他言無用で頼む」
城の者とは偉い方であった。
たくさんのお酒、たくさんの料理が個室に運ばれた。
花は料理を運び、店の手伝いをしている。 そこで、少しだが会話が聞こえてきた。
(これは男女の声?)
花にとって来客が男女であるのは珍しくもない。
ただ城の方、それも上役の方が男女で来ることは異例だ。
花は、仕事をしながら聞き耳をたててみる。 実に野暮な女である。
そして、男性の方が女性に謝っていたのが聞こえる。
(城の上役の方が、女性に謝る?) 花はさらに聞き耳を立てた時に
『ゴツン』 と、音がし 目から光が弾けた。
すると頭から激痛が走る。
花は、母親からゲンコツを落とされていた。
涙目の花は母親を見たが、母親は首を横に振っていた。
間違いなく “聞くな! ”の合図である。
花はショボンとしながら店の奥に引っ込んでいく。
後に花は、母親から話しを聞いていた。
来客の男性は城の上役で、息子が立場を利用し、町娘を次々と たぶらかしていたらしい。 そして父親が相手の親に謝罪をしていたようだ。
それも何人もの相手に謝罪行脚とは罪深いものである。
翌日、城で花は稽古に励んでいた。
稽古後、花は鈴と一緒に城を出たところ、若い男性が声を掛けてくる。
「俺さ……」 男性が話している言葉はチャラい感じだった。
すると、鈴が若い男性に 「はぁ? 不誠実が駄々《だだ》洩れですよ」
と、言い放っていた。 若い男性は見事に玉砕している。
若い男は諦めきれず、今度は花を誘いだす。
(コイツが昨日の……馬鹿な息子を持って、父親も大変だなぁ……)
花は無言でスンとした態度でいたが、横から鈴が花に耳打ちをした。
「撃ったらダメですよ♡」 と、話したが男性は聞こえなかったようだ。
「弾の無駄よ♡」 花は、笑って鈴に言葉を返す。
若い男性は、相手にしてくれない花や鈴を諦めて他の場所に行ってしまった。
花と鈴はクスクスと笑い、城下で駄菓子を食べて過ごしている。
その後、花は帰宅して若い男性の話しを母親に話す。
すると 「良かったわね~♪ 晋太郎さんは誠実そうだし。 まだ若いから知らないだけかしらね~♡」 雪がニコニコしながら話していると
花の顔が真っ赤になり 「晋太郎さんは誠実です!」 と、大きめな声で言った。
雪はたじろぎ 「そ、そ、そうよね。 もし、何かあればね……」
と、言って木箱を花の前に出す。
「母様……なんでそれを……」 花の顔が真っ青になる。
「なんでそれを? 聞きたいのは私ですが?」
雪の顔がひきつる。
やはり娘の木箱から拳銃が出てきたとあれば、笑いごとでは済まされず
「どういうこと? 答えなさい! 花!」
「ど、どうしたのでしょう……あははは……」
なんとか誤魔化している花であった。
親、友人、役人……それぞれの立場で、それぞれの愛情を持っている。
そんな愛情は有難く、そして受けた愛情は恩となっていく。
その恩は誰となく引き継がれていく……
“これが人間なんだ ” と花は思った。




