第十七話 花と華
第十七話 花と華
「さっさと答えろ!」 山賊の頭の横から怒鳴った男がいた。
頭の華は、キセルから煙を吐き出して斎藤を見つめていた。
「お前、名は? 見た事があるぞ!」
華は斎藤に質問していた。 しかし斎藤は返事をしない。
「答えないか……お前、新選組の者だろ?」
華の言葉に会津の兵は驚いた。
多田も驚いていた。 (新選組は京に居るはずじゃ……なんで白河に?)
多田は京に居た時から新選組の存在は知っていたが、何故に白河に居るのか不思議でならなかった。
「今はいい! この事態に集中しろ」 斎藤の言葉に、多田は我にかえった。
華の横に居た山賊の仲間が華に耳打ちをする。
華は理解したように
「そうか! お前たちは会津の者か。 中に居る人質を取り返しにきたのか?」
そう言って華は顎で合図をし、家の方にいた山賊は家の奥から晋太郎を連れてきた。
「ごめん……みんな……」
晋太郎は、申し訳ない顔をして会津の人を見つめる。
「そうかい、そうかい。 美しいね~♪」
華はそう言って晋太郎の所まで向かうと
「ところで、この坊や一人を救う為に、この人数で来たのかい? 一人の為に大袈裟じゃないのかい?」
華が舐めた口調で言う。
「確かにそうかもな……でも仕方ないんだよ……」
中野は華に向かって返事をしたが、あまり納得できる言葉ではなかった。
「坊や、どの女子が好みなんだい? それとも良い仲の娘でも居るのかい?」
華がネットリとした口調で晋太郎に話していたが、
「ここに居ますが……彼の想い人ですけど!」 ここで何故か、鈴が名乗りでたのだ。
「おや、可愛いお嬢ちゃんじゃないか。 小柄だけど胸は大きいしな♪ この男も好きそうだ♪」 華は、鈴の見たままを誉めた。
(本当にそうですけどね……) 花は、苦笑いで納得してしまう。
「しかし、見た目だけが女の魅力の全てではないんだよ!」
華は言葉を被せると、
(本当に仰る通り~♡) 花の心は、華の味方になっていた。
「貴女は何の為に、晋太郎さんを誘拐したのですか?」
鈴は華に食ってかかると
「私たちは身の安全が欲しいんだ。 会津であろうが長州であろうが関係ない。 もちろん幕府もだ!」
華の言葉に全員が黙ってしまう。
さらに華は続けた。
「私たちは江戸から追いやられて白河にまで来たんだ。 幕府の弱体に治安も悪くなり、京でも戦があるだろ。 江戸でも不安になっているヤツラは沢山いるんだ。 つまり、私たちは私たちで家族を守らないとならないんだ。 だから人質が必要なんだよ!」
華はそう言って会津の人たちを睨む。
華は鈴に近づき、「お嬢ちゃんの愛と云うヤツで、この男を救えるのかい?」
そう言って、キセルで吸った煙を鈴の顔に吐くと
「無礼者!」
鈴は華に殴り掛かったが、 「―キヤッ」 と、声と同時に鈴が後方に吹っ飛んだ。
(―何が起きたんだ?)
会津の兵たちは唖然となった。
「大丈夫か? 鈴!」 中野は、倒れた鈴を抱きかかえる。
(一瞬だったが、鈴ちゃんが殴り掛かった時に、華の膝が鈴ちゃんの腹を捕らえていた……この女、強い……)
花は一瞬の出来事だったが見えていた。
「さすが頭だ!」 山賊のテンションも上がっていく。
「貴様、よくも……」 中野は華の前に立った。
「お前もやるのか? この男を好いているのか?」
「う~ん、そうでもないけど……」 中野は困った顔をした。
あまり好みではなさそうとした中野を見て
(セーフ。 良かった~ ライバルは少ないに越したことないもんね~♫)
花は安堵の表情を浮かべている。
「そうか……しかし、何故にこの男に大勢で助けに来たんだ? そんな強いヤツなのか?」 華は、不思議そうな顔をしていた。
「おい、お前ら、この男は強かったのか?」 と、華は山賊に聞くが
「いや~ それが驚くほど弱くて……」 山賊が困った顔で言った。
「へっ?」 華は目が点になった。
「お前、いくつだ?」 華が晋太郎に聞くと
「十六ですが……」
「えっ? まだ子供じゃないか!」 華は目を丸くしていた。
「だから返してほしいのだ。 彼はまだ若いし、助けてほしい……」
斎藤は華に頼んだ。
「それなら鉄砲や刀、すべての物を置いていけ。 そうすれば、この小僧を返してやらんでもないがな……」
華は斎藤に交換条件を押し付けた。
多田は顔を下に向けて考え、そして決めた。
合図をすると、華の前に鉄砲や刀などの武器を置く。
「よし、これで全部だな?」
華の言葉に、多田は拳を震せながら頷いた。
(よし、武器は貰った。 しかし、もう少しこの小僧を利用させて貰っても良いかもな……)
華は、生き残る為の利用を考え
「まだこの小僧は預かる。 まだ利用価値がありそうだ」
華の虚を突いた話しに会津の兵は驚く。
「卑怯だぞ! 交換条件ではないのか?」 多田は激しく抗議をした。
“ならば…… ”
斎藤が前に出て、積んである武器を取り返そうとした。
「―おっと、そうはいかねーぜ!」 山賊は鉄砲を斎藤に向けて構えたが、その瞬間に会津の兵たちが、一斉に山賊に襲い掛かった。
山賊も応戦し、両軍が入り乱れる事態となっていく。
“これでいい ”
斎藤の思惑通りになった。
両軍が入り乱れていることにより、鉄砲は使えない。
その事態のドサクサ紛れに晋太郎を連れ去ろうとするのが、斎藤の考えであった。
しかし、この事態の先を読んでいたのが華である。
「コッチに来い!」 先に華が晋太郎の腕を掴み、連れ去ろうとした時
『―バンッ』 と、音が鳴った。
「――えっ?」 華が驚いた。
すると、華の頬から血が流れていく。
この瞬間に、両軍が静まりかえる。
音がした先を見ると、花が拳銃で撃っていた。
そして銃口からは煙が出ていた。
拳銃は鉄砲と違い、小さい。
山賊も気づかず、回収し損ねていたのだ。
「貴様、何を……」
華の顔は怒りに震え、花の顔を睨んだ。
「次は、顔に穴が開きますよ……」
花は、再び 華に向けて拳銃を構えた。
「貴様……なめるな!」
華は血相を変え、花に襲いかかる瞬間、
『―バンッ』 と再び音がして、華の足元から砂埃が舞い上がった。
花は華の足元を狙ったようだ。
「……」 花と華は言葉もなく止まったままとなる。
「晋太郎さんを放しなさい。 私は貴女を殺したくありません」
花は無表情のまま、銃口を華に向けていた。
「あわわわ……」
鈴や中野、会津の兵たちは開いた口が塞がらないままだったが、 斎藤はニコっとしている。
「貴様が、この小僧の……か?」
華は怒りの表情から、冷静さを取り戻して花の顔を見た。
「えぇ、そうです。 許嫁です……」 花は、表情を崩さず答えた。
「えぇーーーっ??」 会津の兵たち、そして晋太郎も驚いた。
「小僧、何でお前が驚いているのだ?」
華は晋太郎を見つめる。
「―いえ! まさか本気だったとは……」
晋太郎は、まさかの注目に困惑していた。
“キョロキョロ…… ”
華は、晋太郎と花の顔を何度も往復させて見ていた。
~回想~
町はずれの古民家の二人組の所に花が初めて忍び込んだ時のこと。
「あの……」 と花がに最初、二人組に声を掛けた時から始まった。
古民家の二人は武器の商人で、花は忍び込んだ時に見つけた武器が気になっていた。
花は見つかる前に二人組に顔を出して、交換条件を出していた。
武器の密輸や荷物運びを手伝う条件に鉄砲や薙刀、刀などを教えてもらっていたのである。
そして武器商人の主とは、白木であった。
その白木が会津を訪れて花と知り合い、白木は花と晋太郎の事を感じ取ったのだろう。
そして白木が京に戻る際に拳銃を渡し、二人組が使い方を教えていたのだ。
そして白河で使う時が来たというのだ。
(白木様、しっかり使えていました……良かったです……)
斎藤は、白木から京で話しを聞いていた。
そして、拳銃を上手に使えていた花を見て微笑んでいたのだ。
「佐藤様、ここでお願い申し上げます。 来たる時に、会津に手をかしてもらえませんか?」 斎藤は華に頭を下げる。
「それは脅しか?」
「いえ……って何故です?」 斎藤は聞き返す。
すると華は 『チョイ チョイ』 と、花の方を指さした。
「――えっ? まだ?」
花の銃口は、まだ華に向いていたのだ。
「――こ、近藤様、早くお収めください!」
斎藤は花に拳銃をしまわせた。
「ところで、来たる時と言うのは……?」
斎藤は下を向いてしまった。
「……」
華は斎藤の言葉の意味を感じ取ったが、話しを逸らした。
「この小僧が食べ頃になった時か~?」 と華は、おちゃらけると
『スチャ……』 と花が拳銃を華に向けた。
「じょ、冗談だよ~」 焦った華は、花をなだめる。
こうして会津と白河の山賊は和解し、来たる日に備えたのである。




