第十三話 温泉合宿
第十三話 温泉合宿
「えっ? 温泉旅行?」 花が驚いている。
「違うわよ。 温泉地で合宿!」 鈴が説明する。
「少し行った温泉がある場所で、婦人隊の練習を行うんだって。 もちろん練習の疲れを温泉で癒しながら……みたいよ♪」
鈴の説明は完全な旅行気分になっていた。
「ふ~ん……」 花の反応はイマイチであった。
合宿で離れた場所に行くとなると、晋太郎の顔が見れないからだ。
花は鈴と練習を行った後に、婦人隊長からの合宿の説明を受けた。
「明後日に出発……さて、晋太郎さん探すか……」
花は晋太郎を探しに河原に向かった。
「晋太郎さん、み~つけた♡」 いつもの明るい声で晋太郎に声を掛ける。
「花さん、こんにちは。 そいえば明後日から合宿があるんですね?」
晋太郎も聞いていたようで、嬉しそうに話していた。
「そうなんだけど……どうして嬉しそうに話すのですか? 私が居なくなって嬉しいみたい……」
花はそう言って、目を細め晋太郎を見つめる。
「いえいえ……初めての合宿ですので……」
「本当なら、晋太郎さんと二人きりの温泉なら良かったのですけどね……」
花は残念そうであった。
温泉合宿当日。
「では行きましょう」
婦人隊長の言葉で温泉地へ出発した。
【婦人決死隊】 会津の婦人たちで結成された部隊である。
武道だけでなく、少しではあるが勉学も学ばせてくれる。
その中での婦人隊長である、中野 竹子は優秀な婦人であった。
出発して一時間ほど……
移動の最初は浮かれて賑やかだった婦人隊も、しばらくの距離を歩くと口数も少なくなり疲労の顔が目立ってきていた。
「はぁはぁ……鈴ちゃん、まだなの?」 花は疲れてきたようだ。
「私が聞きたいくらいです……」 鈴の返答も小声になってきている。
そして、かなりの時間を歩き、ようやく温泉地に到着した。
「すぐ着替えて練習に入る!」 婦人隊長の中野の号令が入る。
着替え後、薙刀を用意し整列したが婦人隊の全員が疲労困憊の為、全く練習にならず休憩となってしまった。
「ひとまず休憩! 温泉で身体を癒しましょう!」 中野の号令に
「やったー」 と婦人隊は歓喜した。
婦人隊は周辺に幕を張り、周囲からの目隠しをする。
「うひゃ♪ 気持ちいい♡」
婦人隊には合宿と言うより温泉旅行の雰囲気だった。
そんな旅行気分になってしまった婦人隊には、練習という任務が頭から外れて、とうとう女子の密談にまで発展していく。
花と鈴は、ゆっくり温泉を堪能していた時、横から他の女子の声が聞こえてきた。
「あなたは誰か好きな人はいるの?」
花は聞こえていたが、すました顔で知らんぷりをしている。
「私ね……前に活躍した工藤晋太郎様が好きなの……」
そんな声が花と鈴の耳に入ってくると、
『バシャ……ブクブク……』
花と鈴はお尻を滑らせ、湯に溺れていった。
(苦しい……) やっと湯から顔を出した花と鈴だったが……
「わかります。 私も工藤様、好きですよ~。 私も、私も!」
聞いていれば数人の女子が晋太郎を気に入っていた。
花と鈴は湯に入りながらも魂が抜けていた……ほぼ白目状態である。
「花さん、この後の練習であの女たちをヤッてしまいましょう!」
鈴の物騒な発言が飛び出すと
(――えーーっっ! 本気の顔しているんですけどーーっ)
花は驚きの表情で鈴を見つめる。
そして練習の時間がやってきた。
準備運動を済ませ、取り組みになる相手を決める。
そこで婦人隊の一人が、対戦相手について意見を出した。
「せっかくだから……同じ人が好きな者同士で稽古して、勝った順に告白なんてどうです?」
「ちゃんと稽古するなら構わないが……」 中野は苦笑いをしている。
「――嘘でしょっ!?」 花は驚いていた。
「ねぇ、ちょっと……鈴ちゃん、止めようね……えっ?」
花は鈴に参加しないように促したはずだが、鈴の表情は真剣そのものであった。
(えっ? 怖い……滅茶苦茶ヤル気になっているんですけど……)
「ふむ……倒すのは六人か……」
どうやら晋太郎推しは鈴と花を入れて七人になっていた。
他でも同じような決戦となっていた。
(全部で三組……名前が出なかった他の白虎隊の隊士が可哀想……)
花は他の白虎隊の隊士たちと面識もあるため、心の中で同情している。
こうして婦人隊の不毛の戦いが始まる。
国を守るということで合宿に来たはずだが、女の欲の戦いになってしまったのだ。
……そして、次々と勝敗がついていく
「いざ!」 鈴の戦いが始まった。
「勝負あり!」 意外にも鈴は強かった。
鈴は小柄ながらも奮闘し、そして最後の対戦相手は花だけとなった。
『チョイ チョイ』 鈴は花に向かって手招きをする。
“カチーン ” 花の闘志に火が付いた。
そして向かい合い、花と鈴の初対決となる。
『カンカン』 と木製の薙刀がぶつかり合う音が響き、互角の戦いとなっていた。
「やりますね。 さすがは花さんです!」
「鈴ちゃんも強いわね……」
二人が言葉を交わすも、戦いは決着がつかず、疲労は増していく。
「はぁ はぁ……そろそろ観念したらどうです? 花さん?」
「はぁ はぁ……負けられないのよ。 鈴ちゃん!」
「うりゃーー」 二人の叫び声が響く。
「――キャッ!?」
鈴が足元のバランスを崩し、花の薙刀が鈴の服に引っかかって破けてしまうと
「―なにーっ?」 なんと、鈴の巨大な胸が飛び出してしまった。
『おぉ! 大きさなら鈴の圧勝だ!』 婦人隊の声が聞こえる。
(誰だ? 言ったのは……大砲で木端微塵にしてやる……)
花の戦いが飛び火しそうになっていた。
しかし、戦いは中止とはなっておらず、鈴が攻撃を仕掛ける。
(しかしデカいな……そんなに揺らして……)
花は、気を逸らされながら防戦一方となっていった。
「晋太郎さんはもらった~♡」 と叫び、薙刀を振り下ろした瞬間、
「白虎隊、到着しました。 護衛に馳せ参じました!」
と、晋太郎の声が聞こえる。
「えっ?」
『スコーン……』
花の気が逸れた瞬間に、鈴の振り下ろした薙刀が花の頭に落ちた。
鈴は戦いに夢中で晋太郎の存在に気づいていなかったのだ。
「やった! これで、私が晋太郎さんに告白できるんだ~♡」
「友情を捨てて戦った甲斐があった~♡」 鈴は意気揚々《ようよう》と話したが……
「キャーッ」 と叫ぶ鈴。 ようやく晋太郎の存在に気づいたようだ。
(鈴ちゃん、そんな授乳スタイルで告白する気? 捨てたのは友情じゃなくてモラルなのよ……) 花は苦笑いするのであった。
不毛の戦いは終わり、婦人隊は再び温泉にて汗を流していた。
白虎隊は陣の外で護衛となっていたのだが……
「大丈夫? 鈴ちゃん……」 鈴は晋太郎や白虎隊の隊士たちに胸を見られたことで泣いていた。
そして、温泉に入りながら花たちに慰めてもらっていたのだ。
(しかし鈴ちゃんのだから恥ずかしい程度で済むが、私のだったら自刃ものよ……)
そう思い、小さい胸を撫でおろす花であった。
その夜は合宿の慰労として鍋が振舞われた。
もちろん護衛の白虎隊も一緒である。
厳しい掟や体制の維持もあるが、そんな中でも楽しく時間を過ごしていった。
食事の後、婦人隊は就寝するのだが、夜になると寒くなってくる為に白虎隊は交代で暖の管理を任されている。
そして夜も更けた頃、
『―パキッ』 と、木の枝が折れるような音がする。
この音に反応したのが交代で暖の当番をしていた小田と晋太郎である。
「―誰だ?」 そう言って、晋太郎は音の方へ向かう。
そして小田は婦人隊の寝所の守りに就く。
この声に白虎隊は目覚め、一斉に婦人隊を守る陣形をとる。
様子を探りに音の場所へ到着した晋太郎は、周辺を見渡すが暗いのでよく見えていない。
(なにか居るのは確か……) 晋太郎は静かに気配を探る。
『パキッ』 またも音がした。
近づく音に変わった時、晋太郎の目の前に熊が出てきた。
晋太郎は思わず息を飲んだ。
(身体が動かない……これまでか……)
そう思った時、松明が熊の前に飛んできた。
「――?」 晋太郎は声が出なかった。
晋太郎が振り返ると、花と鈴が松明を数本持っていた。
そして、その後ろには本物の薙刀を持っている婦人隊の姿もあった。
(助かった……)
なんとも頼りになる会津の人たちである。
翌朝、婦人隊は練習を始める。
昨夜の熊騒動の疲れも感じないほどである。
そして練習後、温泉で汗を流していく。
「よし、会津に戻るぞ!」
中野の号令で婦人隊と白虎隊は出発したのであるが、
「ぜぇぜぇ……」
温泉で綺麗にした身体は、すっかり汗まみれになっていく。
花が家に到着すると
「足が痛い……」 半泣きの状態になっていた。
おそらく合宿に参加した全員が、同じ思いだったのは言うまでもない。
翌日、城にて練習が行われる。
練習の合間の休憩に入り、「それで告白する三名はどうするのだ?」
中野がニヤニヤして言い出した。
「もちろん掟もあるが、今回は私から上に許可を貰ってやるぞ♡」
と、中野は不適な笑みで続けると
「……」 鈴は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
そんな鈴を見て、
「では不戦勝と言うことで私がいきます……」 花が小さく手を挙げる。
「花さんダメです。 私が勝ったのですから~」 鈴は叫んだ。
「え~ いいじゃない。 鈴ちゃん黙ったし不戦勝で私が……」
花のダメ押しが飛んできたが、
「ならぬことは ならぬことなのです」
鈴は、会津の掟の最後を用いると笑いが起きる。
楽しく一体感のある会津婦人隊であった。




