第十一話 合同演習
第十一話 合同演習
京は会津と長州の戦争が激化しており、いつ会津の町にも火の粉が飛んできてもおかしくない状況になっていた。
そして、毎日のように藩は会津から京に兵を送っている。
これでは会津本陣が人手不足になり、陥落してしまったら元も子もない。
こうして町人にも男女問わず、兵の志願を募っていて、訓練を受けている花や鈴が その中の一人である。
朝、城に向かう前には河原で晋太郎と会っている。
流石にこの時間だけは鈴にも話してはいない。
いくら稽古前でも、体力温存などとも考えてはいなかった。
「クンクン。 スーハー」
花は、晋太郎の服の匂いを嗅いでいた。
「もう、いいですか?」
「ありがとう。 ご馳走さま♡」
そう、このルーティンは花の至福の時間なのである。
「そういえば、今日は晋太郎さんに聞きたいことがあったの」
花は、晋太郎の顔を横目で見る。
「聞きたいこと?」 晋太郎がキョトンとしている。
「えぇ。 私の事を町の人に聞いてなかった?」
花が晋太郎に圧をかける。
「それは、花さんが夜に出かけていると聞いて……まさか舞踏の練習だとは思わなくて……」
晋太郎が申し訳なさそうに話すと
「うん、いいのよ。 分かったから……疑いが晴れて良かったわ♡」
花は可愛い笑顔で言ったが、表情がガラッと変わる。
「しかし、随分と女の子に話しかけてたわよね? 私、見てたんだから……」
花は胸の前で腕を組み、ひきつった顔で晋太郎を睨んだ。
疑いは許せても、女子と話すのは許せない。 見事なまでのメンヘラである。
またしても、花のお仕置きタイムが始まる。
持っていた紐で晋太郎を縛り、川へ引っ張り立たせる。
「はぁ……私と結婚の約束をしていながら、晋太郎さんは浮気ばかりして……」 花は、晋太郎の足を引っ張った。
「いつ約束したんですか~?」 と、叫びながら川で転ばされていった。
結婚の約束とは、もちろん花が一方的に言っているだけである。
「じゃ、私は城に行ってくるからね♪」 と、言って去ろうとするが、
「せめて紐をほどいて~」 と叫ばれたので仕方なく、ほどいてあげる。
「しくしく……」 晋太郎が、ずぶ濡れで泣いていると
「よしよし。 私が晋太郎さんを守ってあげるからね♡」
花は晋太郎の頭を撫でていた。
●
城の中では薙刀の訓練が始まり、花は鈴の隣で木製の薙刀を構えていた。
会津には女性部隊がある。
主に刀や薙刀を扱い、城を守る部隊
【婦人決死隊】 というのが存在する。
「花さん、薙刀は慣れました?」
鈴がニコニコしながら聞いてくると
「全然……鈴ちゃんは綺麗に扱うよね~」
花は羨ましそうに言った。
花は、どうも刀や薙刀は苦手なようである。
体の線が細くて力が無いのか、扱い方が悪いのか悩んでいた。
「でも、花さんは袴姿が似合っていて、強そうにみえますよ♪」
鈴がクスっと笑いながら話す。
花は細い身体で、髪は長めのポニーテールのような見た目であり、袴姿が似合っていた。
さらに「私は背も小さいし、胸を締め付けているから苦しくて……」
鈴は、身長は低いが胸が大きい。
その分、動きを邪魔していると言いたげであった。
「そ、そら……結構なことでございやすな……」
と、顔をヒクつかせている。
悪い事ではないのだが、花は胸が小さくコンプレックスがあった。
少し休憩の後、白虎隊数名がやってきて合同演習となる。
『せい! せいっ!』
「凄い……やっぱり男子だと迫力が違うな~」
白虎隊の演習が始まり、女性たちは見入っている。
花は、男子たちの “刀捌き “ を真剣に見ている。
花は何度も見ているうちに、型を覚えてしまう。
“上、横、横、上、横、横…… ”
この形に違和感を覚えた。
そして、婦女隊の乱取りの相手を白虎隊が行うこととなるが
「あの、私にお相手させてください……」
花は違和感を証明する為に、対戦の立候補をしたのだ。
「よし。 やってみせよ」 そして、対戦することとなった。
もちろん木刀と、木の薙刀での勝負となる。
ここで花の相手をする事になったのが小田である。
以前に幽霊騒ぎで顔見知りになった隊士だ。
花と小田は一礼すると、お互いに構えた。
先に小田が突進して、花に襲い掛かる。
“上っ ”
花は、かわして小田の首筋に刃先を当てた。
『――っ』
みんな一瞬の事で理解が出来なかった。
花は一礼して舞台から降りたが、周囲はずっと唖然としている。
「花さん、凄い!」 鈴は興奮し、花の活躍を誉めちぎった。
すると、審判をしていた役職の人が花のもとへやって来て
「まだ続けられるか? 出来る限り相手を頼む……」 と、言ってきたのだ。
花は頷き、対戦を続けることとなった。
それから三人を相手した花も疲れが出てきたところに、
最後の相手が晋太郎になる。
「最後は僕です! いきます、花さん!」
晋太郎と花は、一礼して構えた。
(晋太郎さん、カッコイイな~♡)
『コンッ!』
花が見惚れている間に、晋太郎の木刀が花の頭に当たってしまった。
花は、いとも簡単に負けてしまい、周囲はシーンとなってしまった。
皆の視線が花に集まると……
「てへっ♡」 と、花は頭に手を当て、舌を出す。
これには、この場にいた全員がズッコケてしまう。
こうして合同演習は、和やかな雰囲気で終わった。
花の薙刀の実力が皆に認められ、男女関係なく人気となる。
人間関係が下手だった花は、困惑しながらも笑顔を出していた。
そして花は、色んな人から手ぬぐいを渡されるようになっていく。
その後、婦人隊と男性との間で合同演習が度々行われた。
婦人隊は花のアドバイスもあり、メキメキと力をつけて男性隊士に勝ってしまう人も出てきた。
「私、花さんからアドバイスを貰っているのに全然勝てないんです……」
鈴が落ち込んでいた。
「大丈夫よ。 強くなっているから」 花は鈴を励ます。
「そうですか? やっぱり私はチビだし、胸だけ大きいから動きを邪魔しているのではないかと……」 鈴なりに悩んでいるようだ。
「そ、それなら刀でそぎ落としてやろうかしら……」
花の言葉は震えていた。
一方、晋太郎も隊士達と考えている。
負け方の分析や、次に勝つ為に必要な事を考えた。
晋太郎はショックだった。
(女子に負けてしまうなんて……これでは自身の非力で、実際の戦場では何の役にも立てずに無駄死にしてしまう。 家族や国も守れず、何が兵士であるのか……)
確かに戦いに敗れるというのは【己の才能と、日々の鍛錬の全否定】になってしまう。
しかし、こぼれ落ちるプライドを拾い集めて立ち上がるしかないのが武士の意地であろう。
晋太郎は帰宅しても木刀を振っていた。
翌朝、晋太郎は河原でも木刀の素振りをしていると
「晋太郎さん、み~つけた♡」 いつもと変わらぬ花が笑顔でやって来た。
「うん。 うん。 今日も頑張っているね♡」 花は笑顔で晋太郎を見つめるが、やはり晋太郎の練習が気になっていた。
花は晋太郎の刀の型を見続けたが、終始無言であった。
「花さん、どうですか? 少しは良くなりましたか?」
晋太郎は、アドバイスを花に求めるが
「う、うん。良いよ……何も言うことは無いわ」
“私は師匠ではない、言ってはダメ…… ” そう思っていた。
しかし、花を見ると落ち着きがなくウズウズしているように見え、晋太郎は察した。
(花さん、やっぱり僕の型に問題があるんだろうな……教えて欲しいな……)
そんな晋太郎の想いの中、実は晋太郎が汗をぬぐった手ぬぐいが欲しくてウズウズしているだけである。
翌日、城内にて婦人隊のみの練習になっていた。
その練習は活気に溢れていた。
先日の合同演習で、婦人隊の活躍があったからだ。
そこに……
「どうだ? 見えるか?」
物陰から白虎隊の隊士が女子の練習を覗いている。
その中で特に鈴が頑張っていて、よく声を出し、練習に集中している。
そして、たくさん練習した鈴が休憩をしていると
「ふぅ……」 鈴は、手ぬぐいで汗を拭いていた。
上着をずらし、胸元が少し見えた瞬間に
「おぉ……」 と、白虎隊の隊士の誰かが声を漏らした。
「はっ!?」 それに気づいた鈴が
「誰? キャーッ」 と大声をあげる。
その時、婦人隊の先生が叫ぶ。
「曲者! 出合え!」
そして婦人隊は、一気に白虎隊の隊士たちを取り囲んだ。
「出てまいれ!」
婦人隊の先生が大声で叫ぶと、白虎隊の隊士たちがバツの悪そうな顔でゾロゾロと出てくる。
その中には晋太郎の姿もあった。
白虎隊は、婦人隊の先生から説教をされていると
鈴が晋太郎を見つけてニヤニヤする。 そして晋太郎の前で上着を緩ませ、パカパカと開けたり閉じたりして見せた。
「……」
晋太郎はその動作を見て、少し困惑している。
「……」
しかし、花には 晋太郎の顔が笑顔で見ている様に見えていた。
そして、婦人隊の後方にいた花が前に出てくると
「工藤様、少し鍛えた方がよろしいですね……お相手いたします」
花が不適な笑みで稽古に誘う。
結果、晋太郎の剣は花を捕らえることが出来ず完敗。
その後、白虎隊の隊士たちは先生から長いお説教を貰うのであった。
お説教が終わり、晋太郎と隊士は花の店で反省会をしている。
その中には鈴や女性隊員も数名来ていた。
(ほぼ合コン……)
花は、苦笑いをしながら店の手伝いを始める。
楽しくお茶会を済ませ、解散した男女は各々の自宅に戻っていったが鈴だけが花の店に残っていた。
夕方から夜になろうとする頃、花が夜に行っている民家の二人組が店にやって来た。
鈴は花と店に居た為、顔見知りの四人で話しを始める。
「……」 花と鈴は無言になった。
(きっと確かな情報なのだろう……)
花は会津で誰よりも早く知ってしまった。
幕府が大政奉還の宣言することを……そして準備を進めていることを……
「鈴ちゃん、この話しは他言無用よ!」
花は厳しい顔で鈴に話す。
「もちろんです」 鈴も頷いた。
会津や家族、晋太郎を守りたいが誰にも話せない……
そんな葛藤が花と鈴を悩ませていった。




