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52『開発計画の進展』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


52『開発計画の進展』





 話は少し戻る。



 千早と十兵衛が黒ウサギに棲家を用意してやっていたころ、ロボファクトCEOのマクギャバンは市長と共に辺境伯の話を聞いていた。


「なるほど、まだ多くの資料が未整理のままなんですね……」


 マクギャバンは仕事を離れダックの顔になって辺境伯の話を聞いている。同伴したアカリン市長は、秘書の小野寺とロボットのクロックと共にニコニコと二人の会話の外に居て、行儀のいい女子学生のようになっている。


「いかにも、美濃というのは縄文弥生の昔から豊かな土地でして、あちこちに遺跡や遺物があります。世間は斎藤道三や織田信長にばかり注目しますが、県にも市にも目を向けるべきものが多くあります」


「それが、この四つある塔の中に収められているんですね」


「はい、常設展示もいっぱいいっぱい。塔はショップと展望台になっていたんですが、このように利用者が少なく、ほとんど収納庫のようになっております。むろん九尾市に関わる資料が中心で、収まりきれないものは県立博物館に預かってもらっております」


「この美しい女性像もですか……」


 CEOの視線が向いてビックリする市長。振り返ってみると背後の壁に掛け軸がかかっている。


「ああ、玉藻前……中学生の時資料集で見たことあります!」


「幕末に描かれた作者不詳のものなんですが、予算が無くて収納しっぱなしだったのを補修に出していたんです。三日前に修復が終わって戻ってきたばかりです。文化財指定は受けていませんが、雰囲気が良く出ているんで、以前は市の広報や学校に配布する資料集などに掲載されていました。あ、玉藻前というのは……こちらの資料に」


「ううん……むつかしい日本語だ。クロック、英語に訳しておくれ」


『了解しました。ついでに編集もやります』


 数秒モーターが回るような音をさせたかと思うと、3Dの解説映像にして掲示した。


「おお、これは便利な。うちでパネルにすると十日ほどはかかりますよ」


「監修なしの暫定処理ですから、資料館や博物館で使えるようなものじゃないんですが、わたしのような無精者が大よそのところを掴むのには適しています…………なるほど……那須で討ち取られた後、殺生石になって、玄翁和尚が粉々に砕いてしまった……その破片が全国に散らばって……」


「そこからは、九尾市の伝説になるのですが、多くの破片は目くらましで、その主体は、この九尾市に落ちたことになっています」


「なるほど、それが九尾丘。そこでも源頼光に退治されて、この糺の森に身を潜めた……」


「もともと、この地に居た妖たちを手下にして力を蓄え、いつか復活すると言われています」


「ちょっと怖いですね……玉藻前がこの地を選んだということは、それほどの実りや力があるということ……辺境伯は、そう思っていらっしゃるんですね?」


 ダックが目を向けると、辺境伯は、都から遣わされた国王勅任の大学者に理解してもらったような安堵感に包まれた。


「先日、この糺の森の中で嵐のようなものが吹き荒れました。以来、土壌の半分が軟化しております……お笑いになるかもしれませんが、この地の神が玉藻前の眷属と争って力を削いだ、あるいは追放したのではないかと思うのです。土壌は周辺部から硬さを取り戻しています、森の自然のいくぶんかを残しながらであれば開発も可能かと思うのですが」


「土壌改良には自信があります、高層建築を建てるつもりもありませんしね。おっしゃるように固まるようなら問題はありません。そうなれば、人の流れも戻って来るでしょうし、この城も存続させられるでしょう。うちも出資します。アカリン市長、大丈夫ですよね?」


「はい、議会の承認さえとれれば……出資していただけるんですか!?」


「はい、第三セクターでも構いませんし、市民の人たちの理解が得られるのならうちの経営にしても構いません」


「それは嬉しい!」「願っても無いことです!」


 喜ぶ市長と辺境伯に続いて小野寺秘書もクロックも笑顔で拍手した。


 人間の拍手はパチパチパチなのだが、クロックの手の平は滑り止めの硬質シリコンで被覆されていてパフパフパフと鳴って、どこかコミカルだ。


 そのあとは予定時間を超え、森から追い出されたと思われる妖や、美濃の妖怪の話しで盛り上がり、糺の森の開発計画は大きく前進した。




☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

八乙女和彦          千早の父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中             農協の営業マン 部下に米田瑞穂

マクギャバン         ロボファクトCEO 愛称ダック

先生たち           宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち     武内(民俗資料館館長) 重森歌子(同級生)

神々たち           スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん

妖たち            道三と家来(利光、十兵衛)

敵の妖            小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ) 蜘蛛ウサギ



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