51『蛇池の怪異・3・二人でアオに乗る』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
51『蛇池の怪異・3・二人でアオに乗る』
三本松の太陽光パネルはすべて撤去されて圃場整備が進んでいるが、田畑に戻すにはもう少し時間がかかる。試験的に夏野菜を作っているところがあるだけで、大半は更地の草原のままだ。
その奥、雑木林で隠れたところが秘密の牧になっている。
「ああ、人には草原にしか見えないようになってるんだぁ」
「目が変になりそう(^_^;)」
草原と牧の様子が重なって目が変になりそうだ。
『……明智様、馬の用意、こちらにござります』
声の方に焦点を合わせると世話役の足軽が馬を引き連れてくるのが見えた。
「馬って乗ったこと無いんだけど」「おれも」
「大丈夫です、そのための調教でござります。鞍に跨って手綱を握れば馬が忖度して走りまする」
「貞治殿が前に、千早さまが後ろにお乗りくだされ」
「うん、分かった……あ、穿き替えなきゃ(^_^;)」
器用に体育のハーパンを穿くと二人で馬に跨った。
「おお!」「高い!」
自転車にしか乗ったことのない二人は、その高さに驚いた。
「馬の名前はアオにござります。いま一頭はアカと申しますが、いま少しお待ちいただきまする。慣れましたらお好きな名をお付けくだされませ」
「うん、アオね、じゃ、行って来る!…………て、どうやったら動くのかなあ(^_^;)」
「両足で馬の腹を蹴ってやってくださりませ。こんな感じです」
パッカポッコ パッカポッコ……
十兵衛の馬はゆっくり輪を描いて歩き出す。手綱を引くと停まり、曲がる時には曲がる方の手綱を引く。馬が忖度すると言っても、この――走る・曲がる・停まる――はやってやらなければならないようだ。
「分かった、じゃ、行こうか貞治」
「おお」
貞治がおっかなびっくりで馬腹を蹴ると、アオは自転車ほどの速さで走り出した。
圃場整備を過ぎて、いつもの通学路に出た時はアオぐるみ1/12に縮小して空を飛んだ。
「グーグルアースで飛んでるみたいだね」
「お、おお」
むろん、生身で空を飛ぶことに感動もしているのだが、服越しとはいえ互いの体温を感じるのは保育所以来初。ドギマギをごまかすためでもある。
「アオだから、これは貞治の馬ね」
「え、そうなのか?」
「わたしはアカの方に乗るから」
「お、おお」
「馬で飛ぶと、風を感じて新鮮ねえ、涼しいし……」
「変身した時は自分で飛ぶんだろ?」
「あれは別、VRでやってるのに近いから、こんなにハッキリとは感じない。全力出したときなんか、ほとんどガンダムかエヴァンゲリオンの中に入ってる感じだし」
「え、そうだったのか?」
「うん、百パーセント感じたら生身じゃもたないんだと思う」
「しかし……」
「なに?」
「いや、なんでも」
神社の娘とはいえ、零式勧請戦闘姫になって戦うのは酷だと思う貞治。しかし、自分はひとつ巴の姫鏡を持って安全圏から千早の帰還を待つだけ。口はばったいことは控えようと思う貞治だ。
「へんな貞治」
「それより、地上をよく見とけよ。地図で見るのとリアルで見るのとじゃ景色ちがうからな。うかうか西に進んでたら滋賀県に出ちまうぞ」
「そうね、蛇池は国道沿い……岐阜市の向こうで北だから……あ、あれだ!」
「おお」
「ほら、手綱の右を引く」
「お、おお」
ヒヒーン!
「強く引きすぎ!」
「おお、すまん(;'∀')!」
瞬間アオをビックリさせてしまったが、その後は人馬共に慣れて北に進み、いよいよ眼下に蛇池が見えてきた……。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
八乙女和彦 千早の父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン 部下に米田瑞穂
マクギャバン ロボファクトCEO 愛称ダック
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長) 重森歌子(同級生)
神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
妖たち 道三と家来(利光、十兵衛)
敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ) 蜘蛛ウサギ