50『蛇池の怪異・2・蛇池までは遠いぞ』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
50『蛇池の怪異・2・蛇池までは遠いぞ』
「ちょっと遠いなあ……」
ハンス(ハンドスマホ)の地図を示して貞治が呟く。
「そうだねぇ……」
千早も、返事をしただけで出したばかりのローファーを持て余す。
放課後直後の昇降口は、さっさと帰る生徒で混雑している。
「あ、ごめぇん」
帰りを急ぐ同級生に通路を譲ると、サッとローファーに足を突っ込んで、取りあえず自転車置き場に向かう。
チリリリ……
校門を出て電柱を三つ過ぎた駐車場の脇に自転車を停め、サドルに跨ったまま話を再開。ここまでくれば、黒ウサギの目も気にしないでいいだろう。
もっとも、黒ウサギは残念石の新居が気になって千早の監視どころではないのだが、目の届くところで千早の行動を見落としてしまっては、玉藻前に叱られてしまうだろう。敵には違いないのだが、波風は立てたくない二人だ。
蛇池に妖が出て人を惑わすという事件が頻発している。
昔から、この国道沿いの蛇池には、国道がほんの杣道であった昔から蛇の妖が出るという噂があって『美濃の蛇池』という早口言葉にまでなっている。先日は、車二台で走っていた不良たちが、そのあたりで悪さをして家に帰ったら男のシンボルを失ってしまうという事件が起こり。そのあとも、二日続けて車が事故を起こしたり行方不明者が出る事件が続いている。
「おそらくは、糺の森(バブルの森)から散った妖だろうな」
「うん、様子ぐらい見に行かなきゃいけないんだろうけど……」
「片道だけでも40キロあるからなあ……」
「農協の田中さん、こっちの方に行かないかなあ……」
「この辺は九尾農協のテリトリーじゃないぞ。そうだったとしても、運よく乗せてもらえるなんてありえねえよ、今までがラッキーだったんだ」
「言ってみただけだよ」
と言いながら、駐車場に農協の車が居ないかと探ってしまう千早。
「クリスマスにサンタの橇を探してる子供みたいだぞ」
「アハハ、そうだねえ」
千早どの
小さな声がしたかと思うと、二人の自転車の間に馬に乗った十兵衛がいる。
「十兵衛、ウサギの方はいいのか?」
「いまは、家の片づけに夢中になっておりまする」
「アハ、気にいってくれてるんだ(⌒∇⌒)」
「蛇池のことは、お屋形様も御懸念のご様子で、家来どもに情報を集めよと申しつけておられまする」
「さすが道三!」
「玉藻前の眷属は他にも居りますので、その妖どもを探る一環ですが、これまでの探りでは蛇池が一番と睨んでおられます」
「そうなんだ」
「頼もしいなあ」
「蛇池までの足にお困りなのでは?」
「あ、うん」
「それにつきましては、かねてよりお屋形様もお気に掛けられ、お二人に使っていただくための馬を躾けを命じておられました」
「ええ、馬なんて乗れないよ、それに、あんたたちの馬って……リカちゃん人形が乗っても小さいし」
十兵衛たち道三の家来は1/12サイズなのだ。
「四半時、三十分ほどならば並の馬の大きさになります。通常は、千早殿の方を馬の大きさに合わせて走りまする。よって問題はござりませぬ」
「ええと、オレはどうしたらいいのかな?」
「当分はお二人でお乗りください。人が乗れる馬は調教と支度に時間がかかりまするゆえ」
「二人でか?」
「貞治どのは、巴どのの手鏡のお役目。直に戦うわけではござりませんので、ご辛抱願います」
「あ、ああ……」
「それではご案内いたしまする」
「ご案内って、うちじゃないの?」
「さすがに、馬を走らせるには手狭でござりますので、別のところで調教いたしておりまする。十兵衛に付いてこられませ!」
ペシ
軽く鞭をあてると、1/12サイズの馬は二人を先導して三本松の方に駆けだした。数メートル駆けると、馬は目の高さを飛ぶように走っていき、千早と貞治はその後を追った。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
八乙女和彦 千早の父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン 部下に米田瑞穂
マクギャバン ロボファクトCEO 愛称ダック
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長) 重森歌子(同級生)
神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
妖たち 道三と家来(利光、十兵衛)
敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ) 蜘蛛ウサギ