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49『蛇池の怪異・1・国道脇に立つ女』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


49『蛇池の怪異・1・国道脇に立つ女』





 岐阜から福井に抜ける国道の傍らに蛇池がある。



 早口言葉の『美濃の蛇池』かどうかは分からないが、昔から噂がある。


 国道を走って蛇池に差し掛かると人が立っているというのだ。


 時間帯は深夜のこともあれば、朝や昼のこともある。


 立っている者も様々で、老人の時もあれば若い女の時も、小学生や、青い目の外人女性のこともある。そして、決まって福井県との県境まで乗せてくれという。

 乗せてやると、たいていはお喋りする。他愛ない身内の話であったり、その日ネットやテレビでトレンド入りした話題まで様々だ。

 とくに悪さをするわけでもなく、それどころか、単調な谷間の一本道を走るドライバーたちの眠気覚ましにもなるというので、一部では「会ってみたいもんだ」と期待されているようなところもある。


 一年に数回、どうかすると一度も出現しない年もあって、噂に上るのは数年に一度という具合。


 それが、この六月は三件も起こった。


 特に三件目は真偽のほどはともかく、実害を伴ったので、いまや同人誌と揶揄される新聞に載ったこともあって上野動物園のパンダが風邪をひいたのに並ぶ程度に広がった。



「おい、あれじゃねえのか?」



 助手席のAは、運転をやらせているBを肘で小突いた。


 緩くカーブした先、木間隠れに若い女が立っているのに気付いた。


 近づくと、女の傍には折り畳み式の自転車がパンクしている。


「困ってるみたいだね」


 声をかけると、女ははにかみながら応えた。


「アハハ、幽霊っぽいのが出るっていうんで来てみたんですけどね」


「あ、きみも?」


「バチが当たったのか、パンクしちゃうしバッテリーは切れちゃうし。ミイラ取りがミイラみたいなんですけど、福井まで乗せてもらえませんか?」


「それは災難だったね、後ろに乗るといいよ。自転車は畳んでトランクに入れるといい」


「あ、ありがとうございます!」


 カチャ


 トランクが開いて、女は慣れた手つきで折りたたんだ自転車をしまうと、後部座席に乗り込んだ。


「フフ、恋人同士でドライブですか(^▽^)?」


 運転席のBがポニーテールの似合う女子だったので女は気楽に声をかける。


「ああ、そう見える? いやぁ、実は、こいつ女装が趣味で、人前で歩く勇気がないもんで、こうやって車に。職質とかされたらウットシイから、オレが同乗してやってんの。二人とも家狭いし、ま、夕涼み的にね」


「あ、そうなんだ」


「いや、蛇池のウワサも聞いたしね、そこはオネーサンといっしょかなあ」


「ハハ、お互い不発だったんですね(^_^;)」


 オタクのデコボココンビなんだと安心したのか、女はシートベルトに支えられながら居眠りをし始め、車は穏やかに山中の国道を走った。


「あ、さっきの車だ」


 Bが声をあげ、その少し怯えたような響きに女も目が覚めてしまう。


「へ?」


「さっき追い越したやつだな……」


「ええぇ……なんかピッタリ付けてきてますけどぉ……」


「……気のせいかもしれないけど、やりすごそう」


「お、おお」


 路肩に寄せて進路を譲ってやると、その車も20メートルほど距離を置いて停車する。


「ちょっと、ヤバいんじゃないんですかぁ(;'∀')」


「変なのに目ぇつけられたなあ……この先に旧道があるからそっち周れ!」


「う、うん」


 Bは怯えた声で返事をすると車を急発進させた!


 ブォーーー! キュンキュンキュン!


「運転うまいんですね(^_^;)」


「慣れてるからね」


「うん、慣れてる……」


 それからBは運転に集中して五分ほど走って旧道に回り込んだ。


 キーーーーー


 しばらく行くと、道は途切れて森の中の草地のようなところで車は停止した。


 それだけではない、さっきの車が静かに草地に入って来ると、前後のドアが開いて三人の男が降りてくる。


「え、ええ……めちゃくちゃヤバくないですか!?」


「だいじょうぶだよ、あいつらもオレの仲間だから。なあ」


「うん、そうだよ」


「え、それって……(;'∀')」


 カチャ


 ドアが開かれたかと思うと、男のいかつい腕が延びて女は声も出せず車外に引っ張り出された。


 そして、草原の上には段取りよくビニールシートが敷かれ、五人の男たちは女に襲い掛かった!


 四人が手足を押え、ボスの男がことに及ぼうとした瞬間、女の姿は忽然と消えてしまった。


 ハンスをライトにし、車のライトも点けて周囲を見渡すが女の姿は見えず、トランクの自転車も木の幹に変わってしまっていた。


「「「「「ヒエーーー」」」」」


 男らしからぬ悲鳴を上げて男たちは車に乗って逃げ散ったが、明くる朝起きて用を足しに行くと再び悲鳴を上げた。


 五人とも男のシンボルを失っていたのだった。


  


☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

八乙女和彦          千早の父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中             農協の営業マン 部下に米田瑞穂

マクギャバン         ロボファクトCEO 愛称ダック

先生たち           宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち     武内(民俗資料館館長) 重森歌子(同級生)

神々たち           スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん

妖たち            道三と家来(利光、十兵衛)

敵の妖            小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ) 蜘蛛ウサギ


 

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