45『十兵衛の報告・2』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
45『十兵衛の報告・2』
英語の時間は、千早の前の男子が当てられてチャイムが鳴ったので胸をなでおろした千早だ。
十兵衛との話に熱中して、やはり準備は十分には出来ずヒヤヒヤものだった。しかし話は進んで、次の休み時間は校庭の隅に来ている千早。
「これが残念石?」
校庭の隅には昔はバレーコートだった草ぼうぼう一画があり、その草をかき分けたところに教室の机ほどの石が傾いて半ば土に埋まっている。
「はい、岐阜城築城の折、学校の敷地は用材や石材の中継地として使われ、その折、使われずに置き去りになった石にございます」
「ふぅ~ん、石垣の端っことかに持っていったら座りの良さそうな石ねえ」
「はい、元々は古墳に使われていた霊石にございます」
「タマイシ?」
「はい、古墳を守るために据えられた石で、地霊を勧請して宿らせたと言われております」
「ああ、なんか親近感(^_^;)……でも、ということは、地霊というか土地神さまがお住まいになってるんじゃ?」
「昔のことです、古墳は南北朝の頃に砦を作るために破却されて、地霊も姿を消しております」
「う~~ん、でも、素人の私が見ても姿がいいのに、なんで使われなかったの?」
「大きな声では申せませぬが……輸送の途中で落としたのでございます」
「落したぁ?」
石の周りを周ってみるが地上に出ている部分には欠けもヒビも見当たらない。
「傷はありません、落とすは落城に繋がるので捨て置かれることが多いのです」
「へえ、道三や信長でも縁起を担ぐんだ」
「いえ、お屋形様も信長公も合理的なお方なので、そういうことは気にされません。後に築かれた安土城などは墓石まで使ってありますから」
「え、それじゃあ?」
「家来や職人どもが気にかけまする」
「え、あ、そうか……で、この残念石を黒ウサギの棲家にしてやろうということね」
「いかにも」
「……でも、何百年も放置されてきたわけでしょ、お祓いしたほうがいいわね」
「左様でございます」
「正式には出来ないけど、せめてしめ縄とかお清めの塩と水とか……略式でも幣とか玉串も欲しいかなあ……ううん……明日、いや明後日になるかなあ」
「それならば、心配はありません」
「え?」
振り返ると、斎藤利光以下三十騎ほどの騎馬武者が道具や祭具一式を持って控えていた。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
八乙女和彦 千早の父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン 部下に米田瑞穂
マクギャバン ロボファクトCEO 愛称ダック
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長) 重森歌子(同級生)
神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
妖たち 道三と家来(利光、十兵衛)
敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ) 蜘蛛ウサギ