表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/53

38『霊岩渓谷に踏み入る』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


38『霊岩渓谷に踏み入る』





「帰りは三時ごろにここを通るから」


「ハイ、時間ズレるようならハンスで知らせます。間に合わなかったらバスに乗りますから」


「じゃあ、がんばってね」「またねえ」



 霊岩たまいわドライブインのバス停で下ろしてもらい農協の車を見送ると、道を跨いで谷川に沿った舗装道路を北に進む。道はそのまま谷川に沿って山に伸びて飛騨木曾川国定公園の名勝霊岩渓谷に至る。


「旅館とホテルがあるぞ。寂しいとこかと思ってたけど、けっこう観光地なんだな」


「温泉が出るからね、でも、賑やかなのは、この先の橋までらしいわよ」


 渓谷を跨ぐ赤い橋を渡ると舗装は簡易化され、すぐに車両進入禁止の札に突き当たる。その横には「積雪時はアイゼンが必要」と書かれていて、岐阜県の自然も様々であることを物語っている。


 道は渓谷に沿って北に延び、そのまま進めば程よいハイキングコースになって、渓谷の水源の一つである湖に至る。秋の紅葉シーズンには木々の葉が茜や黄色に染まり絶好の紅葉狩りコースにもなるのだが、千春が目指しているのは、このハイキングコス-スではない。


「え、そっちに行くのか!?」


 貞治が尻込みする。


 千早が目指しているのは、渓谷の西側、ハイキングコースからは離れた岩場や風穴の上級者コースだ。


「うん、貞治はここで待ってて」


「大丈夫かよ」


「手鏡は持ってる?」


「あ、ああ、ここにあるけどよ」


 ウエストポーチを示す貞治。


「だったら大丈夫、たぶん一時間ほどで片付くと思う」


「片付くって、なんか果し合いにいくみたいだなあ……もう少し先まで付いて行こうか?」


「いいわよ、目的地の岩場は男子禁制だからね」


「あ、ああ、なにかあったらスグにハンスで電話しろよ」


「ドンマイドンマイ、じゃ、行ってくるね」


 手を振ると、千早は岩場への脇道に踏み入った。



 男子禁制なんて嘘っぱちなのだ。



 この先にこそ、道三の軍勢を痛めつけ、道三の家来たちを閉じ込めている妖がいるのだ。


 おそらくはバブルの森から各地に散った九尾の妖のひとつ。


 いずれは本体の玉藻の前、九尾の狐そのものに対峙しなければならないのだろうが、それを考えると気が遠くなりそうになる千早だ。


『力が三分にまで落ちた時には回収されるようにしてやるぞよ』


 手鏡のトモエが約束してくれた。


『ただし、そのためには妾が五百間、今の単位で申せば900メートル以内におらねば叶わぬことじゃ』


「ついて来ればいいんだね」


『妾は一人では動けん。だれか信用のおける者に持たせ、その500間以内に控えさせるのじゃ』


「ええ……じゃあ……」


 ということで貞治に手鏡のトモエを預けて付いてこさせているのだ。ただし、トモエの力については教えてはいない「大切なお守りだから」とだけ伝えてある。


「これまでも、みんなやっつけてきたからね……だいじょうぶ、トモエさんの世話にならずにいけるだろ!」


 そう自分に言い聞かせて岩場の奥に踏み込んでいく千早であった。


「……これは」


 先ほどまでのハイキングコースとは異なり、そろそろ夏日が訪れようという季節なのに、晩秋の朝のように気温が下がってきた。太陽の光も、けして山の木々のせいではないほどに勢いを失ってきて、千早は二の腕までまくっていた袖を手首に戻した。




☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

八乙女和彦          千早の父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中             農協の営業マン 部下に米田瑞穂

先生たち           宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち     武内(民俗資料館館長)

神々たち           スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん

妖たち            道三と家来(利光、十兵衛)

敵の妖            小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ