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28『何ごとも馴染むまでは』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


28『何ごとも馴染むまでは』





 家に帰ってから、千早はずっとトモエ(鏡の神さま)の姫鏡を睨みつけている。


 人が見たら、年頃の少女らしく、自分の姿に見惚れたり自己嫌悪に陥ったり、自意識の沼に嵌っているように見えるかもしれない。


 じっさい、前の廊下を通った父の一彦は「選ばれてあることの恍惚と不安、二つ我にありという様子だなぁ(^▽^)」と微笑ましく思った。


 一彦は高校大学と小説やライトノベルに嵌って、作家を目指していた時期がある。才能も根気も無く家業の神主に収まっているが、娘が鏡を睨みつけている姿に思わず太宰治の名言が浮かんで、青春時代の自分と娘を重ねてしまったのだ。


 ……しかし、当の千早は、そんな悠長で微笑ましい自意識の沼に嵌っているわけではない。


 姫鏡に映し出されているのは、ついさっき、ウズメを勧請して黒ウサギと戦った時の様子なのだ。


「ああ……なんで、こんなにカタイのかなあ……なんか、これじゃ歌舞伎の立ち回りじゃん……よく言っても戦闘馬鹿の姫騎士だよ。もっと軽いノリっていうか、普通にやれないのかなあ……」


『仕方ないでしょ、普段の会話はともかく、戦闘はスピードと緊張感と力の籠め方。今みたいなJK語じゃあ、調子が出ない』


「それにさぁ、なんで、戦闘中の記憶がないのぉ……太陽光パネルの時はちゃんと覚えてる。市役所で戦った時も、バブルの森で戦った時も、でも、今度は完全にとんでしまったよ。それで、トモエの姫鏡で確認したらこれだもん、ちょっと凹むよ」


『それはね、勧請の深度が深くなったからよ。このウズメの力を100%発揮しようとすると、ウズメ本来の言葉でなきゃ十分に力を発揮できないのよ』


「じゃあ、あなたたち神さまは、わたしの体だけが目当てなのぉ?」


『ああ……その言い方、なんかヤラシイ』


「あ、もう、そういう意味じゃないわよ(''◇'')」


『まあ、慣れてくれば人神一如じんしんいちじょって感じになれると思うよ。その時目指して、まあ、ボチボチやっていこう(^_^;)……あ、宅配便が来るわよ』


「え、あ、ひょっとして!?」


 ドタドタドタドタ!


 慌てて社務所まで出て見ると、玄関に立っているのは二人の配達員。神社には一般家庭より宅配が多いが、二人で来るのは初めてだ。


「ちわっす。今度からはこのロボットが配達に来ますんで、よろしくお願いします。ほれ、お渡しして」


『クロクマトヤマのクロックと申します。これからは、この地区を担当しますのでよろしくお願いいたします(^▽^)。はい、お荷物です』


「ありがと……なんか本職さんよりソフトねえ」


「センターの方にオペレーターがいて、半分遠隔操作なんす」


「え、人がオペレーターやってたら省力化にはならないでしょ?」


「あ、試運転期間だけっス。問題が無いようなら、順次AIだけでの運用になるっス」


「ああ、そうなんだ。どうもご苦労さま」


「ところで、お姉さんお嫁に行ったってほんとうっスか?」


「あ、うん。これからはあたしが、ここの看板巫女だから、よろしくね」


「あ、はい、それはもちろんっス。じゃあ、これからもクロクマトヤマよろしくお願いしまっス!」


『お願いいたします』


 元気にトラックに戻っていくクロクマの人とロボット。


『あの配達のニイチャン、挿がお気に入りだったみたいねぇ』


「フン、あたしは、まだ馴染みが無いからよ」


『そうねぇ……でも、これからは、あのロボットだよぉ』


「うっさい。あ、これ、さくらさんからだあ(^▽^)!」


『あ、結婚式で言ってたお下がりの服だ!』


「うんうん、さっそく……なんで、ウズメさんまで実体化するわけぇ?」


「もちろん、わたしも着てみるわけよ。サイズは千早といっしょにしといたし(^^♪」


「あ、でも、わたしが先だからねえ」


「うんうん、でも、ウズメの方がきっと良く似合う!」


「なんでよ」


「だって、ウズメは芸能の神さまでもあるんだからねえ(^▽^)」


「と、とにかく、あたしが先。あたし宛なんだからね!」


「まあ、そう言うな。十着は入ってるぽいから、とっかえひっかえじゃ(^▢^)!」


 

 それから晩ご飯の準備までファッションショーの神さまと巫女であった。



 で、どちらが似合っていたかというと、どちらも微妙。


 何事も馴染むには時間が必要と思われた。


 


☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中            農協の営業マン

先生たち          宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)

神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん

妖たち           道三(金波)

敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)


 

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