25『挿の結婚式』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
25『挿の結婚式』
今日の千早は、挿の結婚式で大阪のホテルに来ている。
お寺の住職と神社の巫女の結婚なので、少しもめた。
お寺なら仏式、神社なら神式で式を挙げるのだが、どちらにするかで微妙にもめたのだ。
読者は、こう思われるだろう。
新郎のお寺が仏式を主張し、新婦の神社が神式を主張して揉めたに違いない!
事実は真逆で、お寺が神式、神社が仏式を主張していたのである。
譲り合いというか謙譲の精神というか……新婦の父の一彦などは「じゃあ、間をとってキリスト教式で」などと提案する始末。
さすがに「なにを考えとるか!」と祖父の介麻呂は息子を叱った。
「だって父さん、筋向いは来栖さんの教会なんだし、挿も千早も仲良くしてもらってるし(^▽^)」
千早は――それもおもしろいかも――と思った。九尾市の市民憲章は『多様性の尊重、共に生きる喜び』なのだし、市民の人たちも筋向い同士に立っている神社と教会を千早と貞治の仲の良さにも重ね合わせて微笑ましく思っている。
それで、介麻呂の一喝で神式に落ち着いたのが三週間前、妖たちが鳥居の前を大岩で塞いでしまった日(19『一人で掃除をしていると道三たちが戻ってきた』)だった。
式をつかさどる神主は介麻呂の甥で美中八幡の良麻呂が、巫女は股従姉の二人がやることになって、めでたく今日の結婚式を迎えている。
で、当の千早は悔しさ半分、安心半分で股従姉二人の巫女舞を見ている。
二人とも挿にヒケをとらない優雅さで浦安を舞っている。ちょっと悔しくて視線を移した後姿にドキっとした。
――え、酒井さくら!?――
新郎の従妹が声優の酒井さくらだということは知っていたが、まさか式に出ているとは思わなかった。
正直、式場のホテルに来るまでは、先日の戦いのことで頭が一杯だった。
なんとか黒ウサギをやっつけたが、まだ三匹残っている。
ウズメもカミムスビも「しばらくは大丈夫」と言う。森の中に感じた逆鱗も戦いの後にはただの荒れた宅地に戻っているし、道三も「なんの二日や三日、道三とその郎党に任せておけ」と胸を叩いた。
そして、式場で挿の白無垢姿にドキッとし、股従姉の神楽舞で巫女魂に火が付き、人気声優の酒井さくらに時めくとバブルの森のことはきれいに飛んでしまった千早だ。
「あの、声優の酒井さくらさんですよね」
「え?」
思い切って声をかけた人気声優は、遠い異世界から召喚されたばかりという顔で振り返った。
「あ、あの、わたし新婦の妹で八乙女千早って言います(;'∀')」
「あ、妹さん! あ、はいぃ、人気はどうか分からへんけど、酒井さくら、新郎の出来過ぎた従妹です。この度はお姉さん、どうしようもないクソ坊主のとこにお嫁に来てもろて感謝してます。ほんまにありがとうございます。ほれ、テイ兄ちゃんもお礼言わんかいな!」
おどけた言い回しになったかと思うと、後ろから介添えさんに付き添われて新郎新婦。
「だれが出来過ぎた従妹やねん」
「あ、アハハハ、いやあ、セーラー服のように合う妹さんや。気ぃつけなあかんよ、このクソ坊主、制服フェチやさかい」
「おいおい」
「せや、うちと千早ちゃんて似た背格好やと思わへん?」
「背格好は似てるけど、顔がぜんぜんちゃうがな。千早ちゃんは清楚系で神社の看板巫女さんやねんぞ」
「うっさい。せやぁ、これからは親戚同士。遊びに来てもらうこともあるやろし、うちの服とか送ってもらわしてええやろか、キャンペーンとかで一回袖通しただけみたいなんがけっこうあるさかい」
「ええ、いいんですか!?」
「いいわねえ、千早って私服って男の子みたいなかっこうしかしないから」
白無垢の挿まで参加してきて盛り上がってきた。
「あのう、披露宴の方に……」
介添えにソロリと言われ、ようやく披露宴が始まった。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
神々たち スクナヒコナ タヂカラオ
妖たち 道三(金波)
敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)