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17『市庁舎上空空中戦』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


17『市庁舎上空空中戦』 





 市庁舎を周回するゼロ戦は次々と撃墜されていく!


 え? ええ!? キャー! ウワァ! 逃げろ!


 路上や公園、建物の屋上や窓から見物していた者たちは息を呑み、ゼロ戦マニアやオタクたちはカメラを構えたまま凍り付き、周囲の歩行者たちは悲鳴を上げて逃げ惑った。


 ホログラムのゼロ戦は撃墜されると、地面や周辺の道路や建物にぶつかって爆発、破片をまき散らして炎を上げる。リアルの炎が上がったり破片が飛び散るわけではないが、目撃した者たちの衝撃は本物で、人々は実際の戦場に放り込まれたようにパニック陥った。


「市長です! 今の演出はなんなの!?」


 市長はハンス(ハンドスマホ)で企画室を呼びだしたが、大方のスタッフは昼休み休憩中で、ハンスに出て来た室長は『え、あ、いや、その(''◇'')』と焦るばかり。見かねた研修生が『あんなプログラムはありません、外部からのハッキングです!』『ホロを強制終了させます!』と返事をしてくれた。


 その数秒後、ゼロ戦は追いかけまわす米軍機ともども一瞬で掻き消えてしまった。


 

「ええ……」「ひどいねえ……」「うわぁ……」



 千早も挿も手が停まってしまった。回覧板を持ってきてそのまま手伝わされている貞治は驚きながらもペースが落ちない。


 三人で授与品の仕上げをしていると、甲子園の中継をしていたテレビが切り替わって市庁舎の惨事を映したのだ。


 ……これ、おかしい。


 思った時には変身していた。


 

 アメノウズメになった千早は市庁舎を目指して空を飛んだ。



 春霞の濃尾平野は景色が滲んでお伽の国めいて見えるが、市庁舎のあたりはそれにも増して輪郭がぼやけている。


 なにかが憑りついている!


 市庁舎周辺がぼやけているのは春霞のせいだけではなかった。怪しの気が満ちて視界を周辺の半分ほどにしている。


 近づくと、その濃厚な霞はあちこちでわだかまって鬼やキツネの形をとって、千早に向かってきた!


「させるかあ!」


 叫ぶと同時に巫女舞の剣鈴が現れ、それを手に取ると瞬時に両刃の剣に形を変え、千早、いやウズメが一閃すると、立ち向かってきた五六匹の妖どもは軋むような悲鳴を上げて霧消していく。


 セイ! セイ! トリャー!


 そのまま妖の群がりの中に突き進むと、四方八方が妖になってしまい、前方の鬼やキツネを相手にしているだけでは済まなくなる。


 シャラン☆ シャララーン☆ シャラシャラン☆ シャラララーーン☆☆


 縦横に旋回すると、剣の輝きが周囲に放射され、それに触れた妖は悲鳴を上げる間もなく霧消していく。


 しかし、輝きの縁に触れただけの妖は、角やシッポや体の一部が消滅するだけで、かえって猛り狂わせてしまう。


 キョン! ギェー! ギギギギィ! グギョ!


――そうだ、妖は核を切らなきゃ消滅しないんだ!――


 思い出した千早は、振りを修正。


 すると輝きは単なる球体ではなく、巨大なウニの針を思わせるトゲトゲになり、触れた妖どもの核を両断していく!


 シュ! シュシュ! シュシュシュシュ!


 触れた妖は、ほとんどトゲトゲによって核を切られ、貫かれ、ほんの数匹を残して消え去っていく。


――よし、この調子で市庁舎の向こう側もやっつけよう!――


 シュシュ! シュシュシュシュ! シュ!


 妖を消しながら回り込むと最上階にアカリン市長の姿が見えた。


 むろん時間が停まっているので千早のことが見えているわけではないのだろうが、キリっと妖たちを睨む目は金太郎を女にしたように頼もしく、周囲で怯えている職員や市民たちとは違うように思われた。


 思ったのは、ほんの瞬間。千早はウズメの姿で市庁舎の上空にたどり着くと必殺技のアラベスクの姿勢をとった!


 シャラララーーン!!


 天の岩戸が開いたような光が満ち満ちて、瞬時に妖たちは音もたてずに霧消していった。


 死角に残っていた妖がわずかに居たが、自分の姿に戻った千早は生身の体で追いかけても退治はおろか追いつけるはずもなく、ベンチに深く座ってハンスに話しかけた。


「ごめん、貞治、市役所の前に居るから迎えに来て、あ、裸足だから草履もね」


 そう、授与品に熨斗をかけていた千早は、巫女舞の稽古もあるので巫女装束のままで飛んできてしまったのだ。


 アカリン市長は展望食堂の眼下のベンチに巫女服が座っているのを不思議に思ったが、異変の調査が先だと思い、企画室に着いた頃には忘れてしまっていた。


 

☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中            農協の営業マン

先生たち          宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)

神々たち          スクナヒコナ

妖たち           道三(金波)

敵の妖           小鬼

 


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