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16『アカリン市長の昼休み』 

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


16『アカリン市長の昼休み』 





 ムムムムム……



 アカリン市長は執務机の上の鏡を見ながら唸っている。


 アイドルを辞めて市長選挙に出る時にトレードマークのロングヘア―を切った。


 アカリンのロングは、気分によってコロコロ変わった。


 ポニテ、サイドポニテ、ツインテール、サイドツインテール、ツーサイドアップ、ドラゴンテール、ストレート……


 ロングもアレンジすれば千変万化なのだが、どこか男やファンに媚びたところがある。アイドルならば当然のことだが、政治家としてはマイナスのイメージだ。


 それで、立候補を決めたその日にバッサリ切って自分にも家族にも、そして世間にも示したのだが、うっかりすると、ロングだったころの癖が出てしまう。


 昨日の悪魔城(民俗資料館)でも出てしまった。武内館長は礼儀正しく冷静に対応してくれたが、資料館移転という問題では一歩も引かなかった。


 時間も迫って、今日は帰ろうと決めて、それでももう一言と思った時、祖父の代からの小野寺秘書に声をかけられ、思わずアイドル時代の笑顔になってしまった。話の合間にも、つい、ボブヘアの首をかしげて髪をかき上げる仕草をしてしまう。

 

 ピシャピシャ


 両手で頬を叩くと財布を掴んで市長室を出る。


「食事に行ってきます」


「キュービックですか?」


「はい、40分で戻ります」


「ごゆっくり」


 業務的な会話をすると、小野寺秘書は一瞬でモニターのドットを確認して笑顔で送り出してくれる。市長の公務中の位置情報は秘書が把握しているのだ。さすがに手洗いなどは場所にドットが浮かぶだけだが、そのほかは、これから向かう最上階の展望食堂のキュービックに至るまでカメラでトレースされている。もっとも、その情報は秘書の小野寺と市議会議長にしかアクセス権限はない。


 チャリンチャリン……ズーー


 券売機に千円札を呑み込ませるとお釣りの200円と九尾ランチの食券を吐き出す。


 新人研修中の職員がビックリしている。


 アイドル市長の明里が80代の年寄りのように実物通貨で食券を買っているのだ。


 アイドル時代ならばテヘペロの一発もかますところなのだが、さすがにポーカーフェイス。


 実物通貨を使うのは――プリペイドや仮想通貨では価値の顔が見えない――という祖父の方針だ。


 最初は実物通貨なんて不潔だと思っていたが、最近は慣れてきた明里だ。先日5千円札を突っ込んでお釣りに野口英世が出て来た時には、思わず「キャー!」と市長らしからぬ感動の声をあげてしまった。こんど沖縄に出張することがあったら伝説の二千円札をゲットしようと密かに楽しみにしている。


「わ、クジラの竜田揚げ!」


「あ、苦手ですか!?」


 厨房のおばちゃんが心配そうに訊ねてくれる。


「ううん、お祖父ちゃんの好物だったから(^▽^)」


「まあ、よかった(^_^;)」


 トレーにランチとお茶を載せて窓際の席に向かうと濃尾平野が一望のもとに開けてくる。


 ペチ


 席に着いて割り箸を割ると、視界の濃尾平野は九尾市の東北部の尾畠地区にフォーカスされる。きのう視察に行ったバブルの森と悪魔の城だ。


 駅前の再開発の一環として民俗資料館を移転して博物館にグレードアップ。バブルの森はアメリカのロボット工場を誘致する。21世紀も中盤、これからは本格的に企業や一般家庭にロボットが導入される。20世紀の自動車、21世紀前半の半導体のように、ロボットはこれからの基幹産業になる。なんとしても成し遂げなければと、竜田揚げの一切れを口に入れると、タレと肉のおいしさクジラの歯応えが混然一体となって明里を幸せにしてくれる。


 ブーーーン


 その幸せの目の前をゼロ戦が飛んでいく。


 ゼロ戦百周年を記念して、市役所最上階の周囲をレーザーホログラムのゼロ戦が周回する。


 21型からはじまり52型までの機体が順繰りに市役所の周囲を飛ぶ。ランダムに少数生産の64型や、後継機の烈風も飛ぶとあって、市役所の周辺や展望台にもカメラをぶら下げたゼロ戦ファンが先日のフェスティバルほどではないが集まってきている。


「お祖父ちゃんが生きてたら喜んだだろうなあ……」


 市長として孫として、この風景を見ていると竜田揚げとともに幸福に浸れる明里だ。



 ダダダダダダダ! ダダダダダダダ!



 突然銃撃の火箭が吹き荒れたかと思うと、ちょうど目の前を飛んでいた52型が火を噴いて墜ちていってしまった!

 


 

☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中            農協の営業マン

先生たち          宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)

神々たち          スクナヒコナ

妖たち           道三(金波)

敵の妖           小鬼

 

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