15『資料館の館長は前の校長だった』
千早 零式勧請戦闘姫 2040
15『資料館の館長は前の校長だった』
『お気持ちは分かるんです、尾畠地区は、この資料館のおかげでもっているのは。でも、こう申してはなんですが、資料館本来の役目とは離れたことですし、市としても、九尾駅前の再開発に合わせて移転するべきだと』
『こちらこそ、市長のお心積もりは理解しております。いまここでお約束頂こうとは思っておりませんが、市議会で決定されてしまっては、もう資料館の館長ごときでは対応する術がありません』
『そうですか……そうですね、とりあえずお話はうかがいました。ですので、あとは来月の市議会で参考人としてお話しいただくということでご理解ください』
『はい、それはむろんのことです。しかし……』
『市長……』
秘書が小さく声をかけると、市長はアイドル時代に戻ったような笑顔で言葉を締めくくった。
『申し訳ありません。もう少しお話しできればいいんですが、これから二つも会議がありまして……(^〇^)』
『あ、いえ、そうですね……わざわざお越しいただいてありがとうございました』
『それでは、失礼いたします』
市長は秘書を促すと、パンプスの音を響かせながらエントランスの方に去っていく。
深く頭を下げて見送る館長に千早はピンときた。
「あの館長さん、前の校長先生だよ」
「え、そうか?」
「うん『九尾高校、前の校長』……ほら」
ハンス(ハンドスマホ)に呼びかけて出て来たホロモニターを見せる。
民俗資料館のHPの冒頭に館長の写真と略歴があって、九尾高校の前校長であったことが書かれている。
「ああ、俺たちと入れ違いに定年だった……よく憶えてんなぁ、離任式で見ただけだろ」
「うん、武内宿禰に似てたからね」
「タケノウチノ……?」
「あ、応神天皇の守り役のお爺さん」
「え?」
「うちって八幡神社でしょ、八幡様って応神天皇のことで、その守り役」
「あ、ああ……」
「ま、いいんだけどね……」
説明しながら自分でも頼りない千早。ついこないだカミムスビノカミが現われて、神社のほんとうの神さまは自分であると宣言し、千早自身『零式勧請戦闘姫』とか訳のわからない者に仕立て上げられている。
「市長、やっぱり可愛いよなあ(^_^)」
「んん(¬_¬#) ?」
「あ、いやいや(^○^;)」
川を渡って駐車場に戻ると二人の自転車に小鬼が憑りついている。
「あ!?」
直感で悪さをしていると感じた千早は、瞬間で戦闘姫に変身すると、そのまま小鬼たちを追いかけまわし、バブルの森を半周したところで退治した。
駐車場に戻る途中、資料館の窓越しに館長と目が合った気がした。だが、戦闘中は時間が停まっている。知られるはずはないと、そのまま元の千早に戻って貞治とともに家に帰った。
☆・主な登場人物
八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
八乙女挿 千早の姉
八乙女介麻呂 千早の祖父
神産巣日神 カミムスビノカミ
天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
来栖貞治 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
天野明里 日本で最年少の九尾市市長
天野太郎 明里の兄
田中 農協の営業マン
先生たち 宮本(図書館司書)
千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
神々たち スクナヒコナ
妖たち 道三(金波)
敵の妖 小鬼