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12『付喪神 金立波の斎藤道三』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


12『付喪神 金立波の斎藤道三』 





 横の草むらから波が現れた。


 波と言っても本物の波では無く『入』の漢字の両脇に水玉があしらわれたデザイン文字のようなもので、一つだけが金色のハガキ大、残りのその他大勢はうすぼんやりした銀の名刺大で、半ば透き通ってグニャグニャしている。それが、ワチャワチャしながら草むらから出てくる様子は、幼児向けアニメのホログラムが投影されたみたいで、ちょっと微笑ましい。


 あ、この波は……斎藤道三の立波?


 岐阜県の子どもなら、小学校や中学校で一度は習った美濃の国の英雄斎藤道三のトレードマーク『立波の紋所』だと、ピンとくる。


 ガシャガシャ


 沢山のヨロイが揺すれるような音がして波が停まった。


 停まると同時に銀波たちが金波を守るように囲んだ。


 金波は銀波たちをなだめるように左右を見てから口をきいた。


――卒爾ながら、貴殿は零式勧請戦闘姫であられるか?――


 言われて、自分の姿を意識すると、きのうソーラーパネルたちと戦った時のウズメの姿になっている。

 ここのところ怪異が続いている千早だが、なんとか凌いでこられた。波たちに害意も感じられず、落ち着いて金波に訊ねることができた。


「ああ……うん。そうだけど、あなたたちは?」


――儂は、斎藤道三の兜の前立てじゃ――


「前立て?」


――ほれ、兜の前に金色の飾りが付いておろうが――


「ああ、あの角みたいなのね」


――さよう。儂は、道三入道が最後の戦をした時に、外れて地に埋もれた前立てなのじゃ――


「それって……」


 付喪神つくもがみという言葉が浮かんだ。


 長年大事に使われた物は神や精霊を宿して付喪神になると言われている。


――長年草の中に埋もり、このあたりの精霊どものたばねとなった。近ごろ、このあたりも剣呑になってきて、しばらくは巡邏しておったが、いささか手に負えぬようになってのう、不本意ながら郎党どもを引き連れて一時避難の途中でござる――


「銀波は、その郎党たち?」


「いかにも、背後にこのあたりの精霊たちが続いてござる。立波の紋を現わしておれば、いくらかの魔よけには成り申すでな」


「ああ……でも、ここにいたソーラーパネルは昨日やっつけたわよ」


 ワチャワチャワチャ……銀波たちがざわつくのを制して金波が続ける。


「そうか、あれを退治したのは戦闘姫どのであったか。これは礼を申さなければならぬな。かたじけのうござった」


 ワチャ


 波たちの『入』が一瞬そよぐ。お辞儀をしたということらしい。


「あ、あ、どうもぉ(^_^;)」


 お礼を催促したみたいになって、千早は恐縮して頭を掻くが、その手は途中で停まってしまう。


「……それじゃ、なぜ逃げるの?」


――あれでござるよ……――


 金波は波の先を横に向けて学校の向こうを差した。


「学校の向こう……九尾丘?」


――さよう、ちとお耳を拝借――


 言うと金波はピョンと地面を蹴って千早の肩に載った。


 ちょっとビックリした千早だが、戦闘姫らしく鷹揚に耳を傾ける。


――じつは九尾山の……が……でござるよ――


「え、ええ!?」


――じゃによって、暫時戦略的撤退でござる――


「そ、そうなんだ」


――戦闘姫が立たれるのは実に二百年ぶり、我らも勇気百倍でござるが、敵も強うござる。ご自愛めされよ、またお目にかかり申そう!――


 クルリン!


 空中一回転したかと思うと、遠足の時に郷土資料館で見た通りの、でも縮尺1/12、フィギュアサイズの斎藤道三に変身。馬に跨って銀波たちを引き連れて犬山方面に消えて行ってしまった。


 チリン


 かわいい鈴音がして、再び時間が動き始め、千早は元の制服姿に戻ると、眠そうな顔をした貞治と並んで家に帰った。




 

☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿かざし      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ

天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役

来栖貞治くるすじょーじ  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中           農協の営業マン

先生たち         宮本(図書館司書)

千早を取り巻く人たち

神々たち         スクナヒコナ

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