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第五章 少年期・学園生活編:無実

<Side:アルト>


学園の一角にある建物の一室。

そこは…窓もなく、閉塞感のある部屋だった。


いや…正確には窓はあったのだが、

その窓には硬い金属製の格子が嵌められており、

事実上の使用不能状態で…無いも同然だった。


そして、時間帯的な問題なのか…

その窓からは陽も差し込んでおらず…

室内にはどこか重苦しい雰囲気が漂っていた。


「ッ!…何回言わせれば気が済むんですか!?」


「いえ、ですから…」


そんな部屋の中で…

二人の人物が机を間に挟んで、会話を交わす。


一人は…少女。


その少女は困ったように手元の紙に何かを書き記していた。


「いいや、もう言い飽きました!

ここからは黙秘権を行使します!

弁護士が来るまでは一切…」


もう一人は…少年。


その少年はそう言い放とうとし…


「モクヒケン?…それって、剣術か拳法か何かですか?…」


「たしかに言われてみれば、

それっぽ…って、違ぁう!」


目の前の相手のそんな発言に思わずツッコんだ。


「さっきから言ってますけど、無実なんです!」


気を取り直し、そう主張した少年…

それは…アルトだった。


「そうおっしゃられるのもわかりますが…

こういう時は…大体、皆そう主張しますからね…

そもそも、どうしてあの場所にいたんですか?…

あなたは…学術科の生徒のはずですよね?…」


アルトの主張に…

少女は困ったような顔をしつつも、そう尋ねる。


その少女はアルトと同じく学園の制服に身を包んでいた。

しかし、一つ異なるのは…腕に巻かれたその腕章。


「僕はただ、友人の部屋を尋ねただけです!

それより、どうしてこんなところに…」


「こ、こんなところと言われましても…

ここが風紀委員会の本部ですので…」


少女はアルトの問いに…

困り眉のまま、そう答えた。


そう…この場所は学園内の風紀委員会本部。

その中にある部屋の一つ。


アルト、フェイト…そして、暴行犯たちの主犯格の三人は…

騒ぎを聞きつけ、駆けつけた風紀委員たちに連れられ…

この風紀委員会本部へとやってきていた。


「違います!

そうじゃなくて…

なんで、こんな取り調べみたいなこと受けなきゃいけないのかって話です!」


普段は人当たりの良いアルトにしては珍しく…

そう口にしたアルトの表情は不機嫌さを隠しきれていない。


なぜ、それほど…アルトが不機嫌になっているのか。

その原因は…置かれている現状にあった。


本部に来た当初は…

アルトとしても、事情を説明するのは吝かではなく…

むしろ、進んで話すつもりですらいた。


しかし、本部に着いてすぐ…

フェイトたちと分断され、アルトが通されたのは…

いかにも取調べ室然とした…この空疎な部屋。


まるで、何らかの事件の犯人か何かのような扱いであり…

お前は悪だ。と言わんばかりの…無言の圧があった。


ただ、友人を助けただけなはずの人間への仕打ちとしては…

あまりにもひどい扱いで、

アルトに風紀委員会への不信感や猜疑心といった感情を抱かせるには…十分だった。


部屋の中には二人だけ。


一人が不機嫌になっていれば、

その場には当然、剣呑な空気が流れ…


「取り調べだなんて…そんな…

ただ、お話を聞かせてもらいたいだけですよ?…」


…てはいなかった。


少女はアルトの不機嫌さなど…

全く意に介していないかのように、微笑みながら…そう口にする。


「あ、そうだ!…朝食はもうお済みですか?…」


ふと、少女は思いついたかのように…アルトにそう尋ねる。


「え?…あ、いや…まだです…

朝、早かったんで…」


いきなり、少女から為された脈絡のない質問に…

少々、面食らいつつも…アルトはそう返す。


「まあ!…そうですか!…

お腹が空いていると…

話をするどころではないでしょうし…

では、すぐにご用意しますね!…

何かご希望でもあれば、そちらをご用意しますが…」


「え、ええと…じゃ…じゃあ…カツ丼とか?…」


置かれている現状に引っ張られたのか…

咄嗟に思いついた食べ物の名前をアルトは口にする。


「カツドン…ですか?…ええと…

購買部にそのようなメニュー…あったでしょうか?…」


「あ!…いや、今のはなしで。

基本、なんでも食べるんで…

購買部のメニューなら…

どれでも多分、食べられると思います。

でも、わざわざ用意してもらうなんて…」


…が。


そもそも、アルトは今世では米を見たことがなく…

さらに言えば…割り下に使う醤油や味醂などの調味料も見たことがなかった。


当然、カツ丼なんてものはあるわけもない。


聞き馴染みのない言葉に少女が戸惑っていることに気づき…

アルトは慌てて取り消しつつ、固辞しようとするが…


「ふふ…好き嫌いなく食べるのは良いことですね!…

でも、わかりました!…

なら、私のオススメのメニューにしておきますね!」


少女はアルトの言葉に納得したように頷くと…

そう言い残し、部屋を飛び出して行った。


「え?…あ、自分で買いに行くのか…

ていうか、鍵閉めたりとかしないの?…

これだと逃げれちゃうんじゃ…

いや、まあ…別に逃げたりはしないけどさ。」


一人、取り残されたアルトは…そう呟く。


「(はぁ…てか、何やってんだ…俺。

別にあの子が悪いわけじゃないのに…

八つ当たりみたいなことして…)」


アルトの不機嫌さをあまりにも意に介さない少女の様子に…

気づけば、すっかり…毒気を抜かれ、アルトはさっきまでの態度を反省していた。



しばらくすると…少女は料理を両手に持って、戻ってきた。


最初は遠慮していたアルトだったが、

少女がせっかく用意してくれたものを断るわけにもいかず…

ありがたくいただくことにした。


「!…これ、美味しいですね!?」


「ふふ、そうでしょう…そうでしょう…

実はこれ…私の故郷が発祥の料理なんですよ。」


「え!?…そうなんですか?…」


「そうなんです!…

まさか、この学術都市で食べれるとは思ってなかったんですけど…

ある時、メニューにあることを知ってからは私もよく食べてて…」


アルトが少女と共に食事に舌鼓を打ちつつ、

会話を交わしていると…


コンコン。


「あ!…ちょ、待っ…」


部屋の扉がノックされ…

扉は返事を待たずして、開かれた。


「失礼します。

他の二人の聴取は既に終わったんですが、

先輩の方の進捗は…って、はぁ…」


扉を開き…部屋に入ってきたのは少女と同じく…

風紀委員の腕章を腕に巻いた少年。


その少年は少女にそう問いかけようとし…

室内の光景を見て、溜息をついた。


「ち、違うのよ?…

別にサボってるとかじゃなくて、話はこれから聞こうと思ってて…

だ、だから…無実なのよ…」


「ま、待って!…彼女を責めないであげてください!

彼女はただ僕がお腹を空かせているだろう…って、食事を用意してくれただけで…」


少女は慌てて言い訳をしようとし…

アルトも少年との間に入り、そんな少女を庇おうとする。


しかし…


「言いにくいんですけど…それは多分、先輩がお腹空いてただけだと思います。

先輩はいつも、ギリギリまで寝てるんで…多分、朝食を食べ損ねたんでしょう。」


少年から返ってきたのは…そんな言葉だった。


「え?…あ、そうなんですか?…」


少年の言葉で…

アルトは少女に若干、訝し気な視線を向ける。


「…」


すると…少女は無言でコクリと頷いた。


「はぁ…やっぱり。」


「ああ!…駄目駄目、会長たちには言わないで!…

私、また怒られちゃう!…」


「なんで、怒られるのわかってるのにやるんですか…

食べるにしても、休憩中か業務外…

せめて、空いてる時間にしてくださいって…

いつも、言ってるじゃないですか…

わざわざ聴取中にするから怒られるのに…」


「だ、だってぇ…」


呆れた様子の少年に…

少女は必死に言い訳をする。


「(聞いてる感じ…

多分、初めてじゃなくて…

何回かやってるんだろうな…

まあ、今回のこと以外は別に俺が口を挟むことじゃないし…)」


そんなやり取りを横目に、

アルトはついさっきまで座っていた席へと戻り…


「(うん…やっぱり、美味しい。

今度、皆にも勧めてみようかな。)」


料理が冷める前に…と、再び舌鼓を打ち始めた。


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