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第五章 少年期・学園生活編:誤算

<Side:アルト>


主犯格が意識を失っていることを確認すると…

アルトは急いでフェイトの元に駆け寄った。


「…やっぱり…凄い…ね…」


「無理に喋らないで…

すぐ治すから…」


アルトは口を開こうとするフェイトを制すと…

すぐさま治療に取り掛かる。


「!…アル…ト…」


「だから、無理に喋っちゃダメだって…

話なら後でいくらでも…」


これまでアルトは暴行犯たちを魔術で眠らせ、対処していたが…

今回に限ってはそうではない。


フェイトを巻き込むまいと…体術で対処した。


そのため、主犯格が陥ったのは…

絞め技による血流の遮断によって引き起こされた気絶状態。

そこに…アルトの誤算があった。


「うし…ろ!…」


「(!?…)」


アルトの誤算…それは睡眠状態と気絶状態を同じようなものとして捉えていたこと。


一見すると、どちらも同じ行動不能状態ではあるが…

睡眠状態は休息を目的とした活動停止であるのに対し、

気絶状態は何らかの原因によって引き起こされる一過性の意識障害である。


そして、気絶状態はその原因さえ取り除けば…

治癒魔術などを使わなくとも、

基本的に…数十秒から数分で意識が自然に回復する。


「死ねえぇ!」


意識を失ってることを確認し、

まだしばらくは目を覚まさないだろう。

そう判断したアルトは…

主犯格の拘束よりもフェイトの治療を優先した。


その結果…意識を取り戻した主犯格に隙だらけの背中を晒していた。


「(くそっ…)」


フェイトの警告でアルトは慌てて治療を中断し、

振り向いたが…

その時には既に眼前へと拳が迫っていた。


「(間に合わ…いや、敢えて…受ける!)」


回避も防御も間に合わず…

負傷したフェイトを後ろに庇った状況では後退も出来ない。


アルトが被弾覚悟でカウンターを狙おうとした…その時。


カンッ…


「…ガッ!?…」


主犯格の背後…

アルトが部屋に入った際に、

開けっ放しとなっていた部屋の入口から何かが飛来し…

主犯格の後頭部へと直撃した。


「なん!?…」


「(あれは…木剣?

でも、どこから?…なんで?…)」


飛来した木剣が後頭部に直撃したことで…

主犯格はバランスを崩し、その拳には力が完全に乗り切ってはいなかった。


そして…その隙を見逃すアルトではなかった。


「(いや、何がなんだかわかんないけど…チャンスだ!)」


拳を額で受け止めると…

アルトは拳で主犯格の顎を打ち抜いた。


「ぐっ!…」


「(浅い!…まだだ!…)」


が、カウンターを放ったアルトの体勢もまた完全ではなく…

その拳にも力は乗り切っておらず、

ダメージこそありつつも…主犯格の意識を刈り取るまでには至らなかった。


アルトはすぐさま追撃に移ろうとするが…


「アル…ト…伏せて!…」


「(!)」


背後から聞こえたそんな声で…慌てて地面に伏せた。


「『(ウォーター)(キャノン)』!…」


アルトが地面に伏せた瞬間、放たれたのは…

砲撃を思わせるほどの…水流だった。


「…ぐああ!?…」


主犯格は放たれた水流に吞み込まれ…

部屋の入口の方へと吹き飛ばされた。


「(今のは…いや、それは後だ!)」


アルトは放たれた水流に気を取られつつも…


「フェイト!…ちょっとだけ待ってて!」


吹き飛ばされた主犯格の後を追った。



水流に呑み込まれた主犯格は…

部屋から押し出され、寮の塀に激突し気絶していた。


「(もう、さっきの二の轍は踏まない…)」


アルトは主犯格が意識を失っているのを確認すると、

今度はしっかりと土魔術で拘束した。


「(そういえば…さっき飛んできた木剣は何だったん…)」


主犯格に拘束を施し終え、

振り向いたアルトは…

ようやく、壁に背を預ける人物の存在に気づいた。


「グレア!?…なんでここに!?」


そこにいたのは…他でもないグレアであり、

その手には…学園の購買部で販売されている訓練用の木剣が握られていた。


「なんでって…

ここ数日、またアルトの様子が変だったから、

久しぶりに剣術の稽古でもしながら、

ちょっと話を聞こうと思ってアルトの部屋を尋ねようとしたのよ。」


「(あっ…しまった。

フェイトの件でバタバタしててそれどころじゃなかったけど…

またみんなに余計な心配かけちゃったか…)」


前回とは違い…

今回は仕方ない部分もあったが、

どちらにせよ、アルトが話さなければ…

事情をグレアたちが知る由はない。


アルトはグレアが訪れた理由を聞き、そう反省し…


「ごめん…また心配かけて…」


頭を下げた。


「別に私には謝らなくていいわよ…

何か厄介ごとに巻き込まれてたっぽいことは…見ててわかったし。

謝りたいならフィリアたちの方にしてあげなさい…あの二人も心配してたんだから…」


グレアはそう言って、アルトの謝罪を固辞した。


「うん…今度、会ったらそうするよ…

あれ?…でも、グレアは何でここに?…

僕の部屋を尋ねようとしたって言ってたけど…

尋ねてはない…よね?」


「そうよ。

尋ねようとはしたけど…

そしたら、アルトが出て来たのよ。

こんな朝早くから魔術科の寮に向かってくし、

この部屋の前についてからも…

何か喋ってると思ったら、

血相変えて部屋の中に飛び込んでいくしで…

訳も分からないから、とりあえず見てたのよ。」


「(え?…そんな前から見てたの?…

全然、気づかなかった…

考え事してたからかな?…)」


アルトは思考の海に潜っていると、視野狭窄に陥ることも少なくないが…

一人ということもあり、それほど警戒度合いが高くなかったのも…

気づかなかった一因ではあるのだろう。


「立て込んでるみたいだったし、

落ち着いたら話しかけようと思ってたら…

そこで気絶してるやつがアルトの後ろに迫ってて、

慌てて持ってた剣を投げた…って感じね。」


「(…なるほど。

そういうことだったのか…)」


アルトはグレアの話を聞いたことで…

ようやく、一連の流れの全容を理解した。


「にしても…グレア、投げるのかなり上手くなったね?

前はあんなにノーコンだったのに…」


「う、うっさいわね!

そ、そりゃ…外してたらもう一本も投げるつもりだったけど…

前までがちょっと調子悪かっただけで…

私も…(頑張れば…ごにょごにょ)…当てれるのよ!」


アルトの軽口に少し恥ずかしそうにしつつ…

グレアはそう言い張った。


「(あ、やっぱノーコンはノーコンなんだ。

よく考えれば…あのサイズならまあ、どこかしらには当たるか。

ていうか、わざわざ二本持ってきてくれてたってことは…

俺の分も持ってきてくれてたってことなのかな?…

まぁ、別に俺も木剣くらい持ってるんだけど…)」


アルトも剣術の授業を取ることがあるので…

木剣は持っている。


だが、グレアはわざわざ自分の分まで持ってきてくれていたのだということに気づき…

アルトは笑みを零した。


「ごめんごめん、冗談冗談。

でも…ありがとう。

ホント助かったよ。」


「ふ、ふん…

それほどでもないわよ。

第一、アルトなら…あれくらいどうにでもなったでしょ?」


アルトが口にした感謝の言葉に…グレアはそう返す。


「うーん…どうにかはなったかもしれないけど…

グレアの助けが無かったら、

もっとダメージは大きかったと思うし、

僕やフェイトがやられてた可能性も全然あった。

助かったのは本当だよ。

だから…ありがとう。」


「そ、そう…」


アルトのそのあまりにも真っ直ぐ過ぎる感謝に…

グレアは少し頬を赤くする。


「その…フェイトって?…」


「あ、そっか…

グレアはフェイトとはまだ面識なかったね。

フェイトの治療もまだ途中だから…続きは紹介がてら、中ででもいい?」


「え、ええ…

アルトの方の話も聞かせてもらいたいし…

それは構わないわ…でも、こいつはどうするの?」


グレアはそう口にしながら…意識を失い、拘束された主犯格を指さした。


「拘束もしたし、かなりのダメージがあるだろうから、

きっと動けないだろうけど…

一応、目の届く範囲に連れてくよ。

…さっきみたいなことになったら面倒だし。

とりあえず、中に入ろうか…」


「わかったわ。」


アルトは主犯格を肩に担ぐと…

グレアと共にフェイトの待つ部屋の中へと戻っていった。

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