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第一章 幼年期編:ステラ先生の魔術講座

<Side:アルト>


翌日。


あの後、話が進み、ステラが魔術の講師として、

しばらくの間、屋敷に逗留することとなった。


ステラの講義は週に五日。

残り二日は休みということになった。


この世界は前世と変わらず一週間は七日。

一日は二十四時間である。


しかし、前世と違うところもたくさんある。

一ヶ月は三十日だし、一年は三百六十日だ。

一週間は変わらず七日だが、月~日ではなく、

炎・水・雷・土・風・光・闇の七つの曜日である。


初めはこの違いがわからず、それが自分の誕生日を把握していなかった理由でもある。


「(にしても…面白いなこれ。)」


昨日は魔法を暴走させたことにより、

危うく命を落とす危機ではあったが、

なにも悪いことばかりではなかった。


なんと、アルトは魔法の『無詠唱』を習得できていた。


(無詠唱というのは魔力を操作し、本来なら自動で構築される魔法陣を

自力で構築することにより、詠唱を行わず魔法を発動すること。

なので正確に言えば、魔力操作の上達が顕著であるといった方が正しいのかもしれないが。)


昨日の水をぶっかけたやつも実はそれだ。


まったく意図していたことではなかったが、

怪我の功名とでもいったところか。


そして、その魔法陣の描き方で発動する魔法の属性や位階などは変わってくる。


魔法陣を描く場所は魔力を操作できる範囲であれば、

空中や地面などある程度離れた場所にも描くことができる。

というより…そうでなければ、

規模によっては自分で出した魔法に巻き込まれてしまうなんてことも起きてしまうのだ。


どうやら、自分で出した魔法だから自分には利きませーんなんてことはないらしい。


そんなことを考えていると、

コンコンと部屋がノックされ、

返事をすると、ステラが入ってきた。


「アルト君。おはようございます。」


「おはようございます。ステラ先生。

別に呼び捨てでもいいですし、

気軽にアルって呼んでください。

父様や母様もそう呼びますし。」


テレーゼやバルトなんかからは最近そんな愛称で呼ばれている。

なんせアルトとバルト。

似たような名前だし、どっちを呼んでいるのかわからなくなるのだ。


「あ、あと昨日は謝り損ねてしまったんですけど、

メガネ…壊しちゃってごめんなさい。」


ステラの顔を見て思い出したかのようにアルトは言う。


今日、ステラはメガネをしていない。


昨日、アルトが壊してしまったからだ。

使用人経由で修理に出したとは聞いていたものの、

修理が終わるまではメガネなし生活になる。


普段、メガネをかけている人間にとって、

たとえ短期間でもメガネがないのは生活にかなりの支障をきたす。


「その…メガネ…無くても大丈夫なんですか…?」


自分が壊したくせにどの口で…とは思いつつも、

アルトは尋ねる。


「ええと…アル君?

そんなに気にしなくて大丈夫ですよ?

昨日の件は私も悪いですし、

実はあれ、度が入っていないんですよ。」


微笑みながら、ステラは言った。


どうやらステラのメガネには度は入っていないらしく、

別になくても日常生活に支障はないらしい。

ただ、通常時のメガネとは違い、レンズの部分が特殊で認識阻害の魔法がかかっているらしい。


「(ああ…だから…瞳の色が変わって見えたのか…)」


メガネを掛けていた時には両眼とも銀色に見えていたが、

メガネが壊れてからは、片方の眼が金色でもう片方の眼が銀色のオッドアイになっていた。


どういう仕組みの魔法なのかはわからないが、

そういう魔法もあるらしい。


どうやら折れたのはフレームの部分だけで、

修理自体はすぐに出来るらしく、

それを聞いたアルトはほっとした。


直せないものだったらどうしよう…とか、

弁償できるか…(そもそもお金を持ってはいないのだが。)とか

色々と考えていたのだが、それが杞憂に終わり一安心だった。


「(修理費用は父さんが出してくれたらしいし…

会った時にでもお礼を言わなくちゃな…

まあ、なかなか捕まらないんだけど。)」


そんなことを考えていた時、アルトはふと思い出した。


「あれ?…

魔法の講師は明日からではなかったでしたっけ?…」


普通に世間話をしていたが、

予定では、今日は準備日で、

明日から実際の講義が始まると聞いていた。


今日からだと思って間違えて来たのか、

なにか用があるのかはわからないので、

一応確認してみる。


「…ええ、そうです!そうです!

あやうく…ここに来た目的を忘れるところでした…

実際にどういった講義をするか

指導内容を決めるためにもアル君がどの程度、

魔術を扱えるのかを確認しておこうと思いまして…。」


「(ああ、なるほど…)」


どうやら準備の一環として、アルトの実力を把握するために訪れたようだ。

間違えて来たわけではないらしい。

昨日の件からずっと絶妙に残念なドジっ子系お姉さんみたいなイメージがついてしまっていたが、

もしかしたらそんなこともないのかもしれない。


「(しっかし…俺まだ水属性の初級魔法しか使えないんだよな…)」


アルトは『詠唱省略』や『無詠唱』は扱えるようにはなったが、

魔法自体は未だにたった一属性、しかも初級魔法しか扱えない。


さすがにそれだけで魔法を扱えると言うには恥ずかしかった。


「…水属性の初級魔法だけです。」


恥を偲んで渋々、アルトは答える。


「ええと?…

初級魔術…ですか?…」


ステラが驚いたような困惑したような奇妙な表情を見せる。


「(てか、魔法じゃなくて魔術っていうのか?…

それはまあどっちでもいいんだが、

それだけしか使えないのはそんなに驚くことなのだろうか?)」


いくら一つの属性の初級魔術しか使えないと言ったって

そんな顔しなくたっていいじゃないかなどと思いながらも、

アルトは言い訳するように続ける。


「なにぶんまだ学び始めて一週間ほどでして…」


「一週間!?…」


アルトの言い訳じみた補足にステラの表情はさらに驚愕に染まる。


「(さっきから驚きすぎじゃね?)」


驚いている顔も綺麗だし、

無表情よりは全然いいけど、さすがに驚きすぎだろ…なんて、

アルトは暢気に考えていた。



「(…暴走はしていましたが…昨日、アルト君…いや、アル君が

扱っていた魔術は上級相当…いやそれ以上でした…。

たったの一週間であそこまでの域に至ったというのなら…)」


とんでもない逸材だ。


「…楽しみですね…」


思わずステラの口からこぼれた。


「ん?…ええ、楽しみですね。」


アルトはあまりわかっていない様子で首肯した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さらに次の日、ステラが屋敷に来てから三日目。

いよいよ、ステラによる魔術講座が始まった。


「改めまして、今日から魔術の講師を務めます…ステラです。

よろしくお願いします。」


「あ!そうですね!

よく考えると、ちゃんと自己紹介もしてなかったですね…

僕はアルト・パトライアスです。

こちらこそよろしくお願いします。」


挨拶から始まり、まずは基本的なことからおさらいすることになった。


「さて、私が教えるのは魔術…その中でも七大属性の魔術なのですが、

まず魔術と魔法の違いを知っていますか?」


「…え、同じじゃないんですか?」


少なくともアルトはそう思っていた。


「厳密には異なります。

かつて、この世界が生まれた神話の時代。

神が起こした奇跡の数々を

古代森人(エンシェントエルフ)が模倣し、生みだしたのが魔法だと言われています。

そして、長い時の中でその魔法が人族や他の種族の手で、

より扱いやすいように作り替えられたもの…

それが魔術と言われています。

私が教えるのも、こちらの方です。

いうなれば、魔法が古代のもの。魔術が現代のもの。

といったふうな感じですかね。

まあもっとも、現在ではごっちゃになり、同一視されていますが…」


魔法…もとい魔術の歴史の話だ。

長い歴史の中で、記録が消失したりで、

信憑性のある話なのかはわからないらしいが、

そんなふうにして誕生したっていうのが定説らしい。


ぶっちゃけ、どっちも同じものだとアルトは思っていた。


「(そういえば…母さんも魔法って…)」


テレーゼもアルトの魔法呼びを否定せず、そのまま受け入れていたので、

あまり一般的に知られていないことなのかもしれない。


「さて、魔術の話に戻りますね。

この間、アル君は魔術を暴走させていましたが…」


「その節はご迷惑をおかけしました…」


食い気味に言いつつ、

アルトは先日の失敗を思い出し、一気にしゅんとなる。


「ああ、いえいえ…別に責めるつもりはないんですよ…

まあでも、危ないのでこれからは気を付けてくださいね。」


気落ちしたアルトを見て、

ステラは諭すように優しく言った。


「はい。気を付けます…」


「さっきの話の続きです。

アル君は魔術を扱っていますが、

魔術って何をしているのかはわかりますか?」


「ええと…言葉にするのは難しいですが…

魔力で何かを作り出す…でしょうか?」


これが『魔導教典』を読んだ上でのアルトの認識だった。


「ええ、そうです。『基本的に』その認識で間違いはありません。」


そう言ったステラの言葉には何か含みがあった。


「先生、『基本的に』…ってことは何か例外があるのですか?」


「ええ。例えば、『神聖魔術』や『治癒魔術』、『召喚魔術』に…って

この話はまだちょっと早いので、置いておきましょう。

端的に言えば、魔力を代償にし何らかの現象を引き起こす。

それが魔術なのです。」


魔術は変化の過程で様々に枝分かれしたことで、

七大属性以外にもたくさんの属性や種類が存在するらしい。


さらに、ステラは続ける。


「さて、続けますね。

先ほど魔力を代償にし…と言いましたが、

魔力がなにかは知っていますか?…」


「体内にあるマナを変換したもの…でしたっけ?」


うろ覚えではあるが、アルトはそう記憶していた。


「惜しいですが、

正確には自身の持つマナと自然界に存在するマナを混ぜ合わせ…変換したものを魔力と言います。

魔術師は無意識的にその二つを混ぜ合わせ、魔力を生み出しています。

基本的にこの世界のものすべてにマナは宿っていて、

水辺では水魔術が少ない魔力でより大きな規模で使えたりするのですよ。」


「(ほえー、知らなかった。

魔力ってそういうもんなのか…)」


ステラが口にした情報は

『魔導教典』には書いていなかったが、

きっとあれは入門書のようなもので、

大雑把に書いてあったのだろう。


「(あ…マナで思い出した。)」


アルトはステラからもたらされた情報をきっかけに

浮かんでいた疑問を思い出す。


「先生、マナが体内に宿るのは知っているのですが、

そのマナって厳密には体内のどの部分にあるんですか?」


「いい質問ですね。

基本的には動力の中心となる心臓部に宿ることが多いです。

まあ、種族によって異なることもありますし、

同じ種族でも必ずしも同じとは限りませんが…

こんなふうに…明確に答えられないかもしれませんが、

わからないことがあれば、なんでも聞いてくださいね。」


ステラが言ったその言葉を皮切りに、

もう既にちょこちょこ質問はしていたが、

疑問を消化するいい機会だ。とばかりに、

ステラはアルトに質問攻めされることになるのだが…

この時のステラには知る由もないことだった。



そのまま講義は続き、日が暮れてきたことで、

いったん切り上げることになった。


「にしても…かなり理解が出来ていますね…。

鋭い質問も多かったですし…

正直、わからないだろうと思って聞いたこともあったのですが…

驚いちゃいました…」


どうやらアルトが答える前提の質問ではなかったものもあったらしく、

意外とステラも意地悪だった。


「うう…先生の意地悪だったんですね…およよ…」


アルトは仕返しとして、

ちょっとした小芝居を打つ。


「!?…ええ…な、泣かないで…」


ステラがオロオロしだしたので、

慌ててアルトはネタ晴らしをする。


「泣いてません。噓泣きです。」


「もうっ!本当にもうっ!ですよ!」


今度はさっきと違って、ぷりぷりと怒っており…

ころころと表情の変わる面白い人だ。なんて、アルトは思った。


「先生、怒った顔も綺麗ですね。」


「な!?…」


今度は照れているのか顔を赤くしている。


「か、からかわないでください!…」


別に本心なんだけどなあ…とアルトは思う。

前世を含めても、ステラはアルトの今まで出会った人の中でも

トップクラスに綺麗で特段、お世辞というわけでもない。


「先生は本当に綺麗ですよ。」


「あ、ありがとうございます…

でも、そういうことは将来、好きになった子に言ってあげてください。」


ステラは子供の戯言だと思っているのか

照れつつも、上手く流そうとする。


「僕、先生のこと好きですよ?」


あまりにも直球過ぎるアルトの言葉に

ステラの顔がみるみる真っ赤になる。


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいですけど…

まだちょーっと早いというか…そうですね…

十五年…それだけ経っても気持ちが変わらなければ、また言ってください。」


顔を真っ赤にしながらも、

ステラはたかが子供の戯言とは切り捨てず、そう返す。


「(やっぱり…ステラ先生は優しいな。)」


あれほどの美人だ。

言い寄られることくらい日常茶飯事だろうに、

たとえ社交辞令でもそんなふうに言ってもらえると嫌な気持ちはしない。


「(十五年後か…)」


十五年後…つまりは十八歳。


それは現代日本において成人として認められる年齢であり、

前世は日本で暮らしていた

アルトにとって大きな意味を持つものだ。


だが、アルトは自分が十八歳になったとき、

何をしているのか…

まったくと言っていいほど想像がつかないでいた。


「(夢…な…)」


転生してから…

いや…転生する前からもアルトは…

夢や目標を見失っていた。


自分がどうしたいのか。

何になりたいのか。


答えは未だに見つからない。



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