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第五章 少年期・学園生活編:フェイトの事情(三)

<Side:フェイト>


フェイトは何度か、

口を開きかけては閉じ…開きかけては閉じ…というのを繰り返した。


いざ、その言葉を口にしようと思うと…

中々、勇気が出なかったのだ。


その間もゼオンは静かに…フェイトの言葉を待っていた。


そんな状況がしばらく続いた後…


「どうして…僕を引き取ったんですか?」


フェイトはようやくその言葉を口にした。


どれほど考えても、

わからなかった答えを求め…

フェイトはゼオンに直接、問うたのである。


だが…


「…大した理由はない。

前にも言ったように…君のお母さんと俺が知り合いだった。

ただそれだけだ。」


ゼオンは一瞬、何かを思い悩むかのような素振りを見せた後…そう返した。


その言葉はゼオン自身も口にしたように…

フェイトがゼオンと出会った当初に聞かされた内容とほぼ同じで、

その言葉自体はきっと嘘ではない。


しかし、それは…フェイトの望んだ答えではない。


「(やっぱり…話してくれない…)」


ゼオンは嘘はついていない。

だが、本当のことを言っているわけでもない。


フェイトは…ゼオンが何かを隠していることには気づいていた。

おそらく…それがフェイトの知りたい答えであるということも。


「たしかにそう聞きましたけど…

でも、普通…それだけで引き取ったりはしないはずです。」


その答えをなんとか聞き出そうと…

フェイトは続ける。


「俺は…一応、皇帝だからな。

そりゃ…普通ではないだろう。」


しかし、相手は権謀術数の渦巻く帝位争いを勝ち抜き…その座に就いた傑物。

いくら頭が良くとも、まだ子供のフェイトが弁舌で敵うはずもなく…

ゼオンはフェイトの追及をのらりくらりと躱し続けた。


聞き出したいフェイトと話そうとしないゼオン。

二人の間ではそうした押し問答が何度か繰り返され…


「(っ!…)」


やがて、フェイトは痺れを切らした。


「どうして、何も話してくれないんですか!?

この際、はっきり言えばいいじゃないですか!?

ただの気まぐれだ。って!

本当は…僕のことなんかどうでもいいって!」


その言葉に…ゼオンは目を見開く。


「そんなことは…」


ゼオンは否定しようとするが…


「あるでしょう!?

だから、僕が何をしても…何をしようとしても…何も言わない!」


溜まりに溜まった不満が爆発したフェイトは止まらない。


「違うというのなら…

どうして引き取ったんですか!?

答えてください!」


だが、その問いにゼオンは…


「…」


何も言わず…ただ、苦い表情を浮かべるだけだった。


「…すまなかった。」


そう口にすると、

ゼオンはよろよろと…どこか覚束ない足取りで踵を返した。


本来なら、間違いなく引き留めるべき状況だった。


だが、頭に血が昇り…

感情的になっていたフェイトにはそんな選択肢はなかった。


ただ、去っていくその背を…見つめることしか出来なかった。



「(悪いこと…言っちゃった…)」


少し時間を置いたことで…

フェイトは落ち着きを取り戻した。


そして、同時に…

自身の発言を後悔もした。


「(今度、会った時…謝ろう。)」


どうせすぐにまた会うだろうし、

その時に謝ろう。と、

この時のフェイトはそう考えていた。


だが、この直後である。

フェイトの学術都市行きが決まったのは。



「が、学術都市へ留学!?…誰が!?」


「?…誰って…フェイト坊ちゃまがでしょう?」


「僕が!?」


世話役の使用人からいきなり告げられた言葉に…フェイトは目を剥く。


「ええ、ですから…

持っていくものはお早めにまとめておいてくださいね。

出発まではもう数日しかありませんから…」


驚いているフェイトを置き去りにして…

使用人はそう続ける。


「…!…もしかして、陛下から何もお聞きになっていないのですか?」


「…うん。」


様子が変であることに気づいた使用人の問いに…

フェイトは頷く。


「あの方はまったく…

ですが、陛下もお忙しい方です故…あまり、責めないで上げてください。」


「はは…それはわかっています。

でも、さすがに急で…」


そこまで口にし…フェイトはふと思った。


「(僕があんなこと言ったから…

厄介払い…なのかな?…)」


そう考えると…

少し、悲しくなった。


「まあ、あの方のことですし…

すぐにでも話をしに来られると思いますよ。」


だが、ゼオンはフェイトが出発する日になっても…

離宮を訪れることはなく、

ついぞ…顔を合わせることはなかった。



<Side:アルト>


「…と、まあそんな感じだね。」


「ちょ、ちょっと待って…

フェイトが学術都市に来た経緯はわかったけど、

今の話に…アイツらは出て来てないよね?

結局、アイツらとの関係って…」


一通り、フェイトの身の上話は聞いたものの…

そこにはフェイトに暴行を加えていた生徒たち…

もとい、暴行犯たちの話は一切なかった。


そのため、アルトは首を傾げていた。


「や、実はね…

僕も最近まであんまり理由はわかってなかったんだよ。

アイツらと会ったのは学術都市に来てからだし。」


「え?…そうなの?…」


アルトはフェイトと暴行犯たちはてっきり知り合いなのだと思っていたが、

学術都市に来るまでは面識もなかったらしく…

知り合いですらなかったらしい。


「帝国の外は初めてだったから、

初めのうちはここがそれだけ治安が悪いのかと思ってたんだけど…」


「ええ?…

さすがにそんなわけなくない?…」


アルトはフェイトのその言葉に困惑の色が隠せない。


だが、フェイトは学術都市に来るまで、

物心ついた頃からずっと帝城の離宮での箱入り生活で…

多少、世間知らずなのは無理もない。


そもそも…アルト自身も大概な世間知らずであるため、

他人のことはとやかく言えないのだ。


「話を聞いた限り、

アイツらは帝国のどこかの貴族筋らしくて…

僕の方は知らなかったけど、

あっちの方は僕のことを一方的に知ってたみたいなんだよね。

多分だけど…僕はある意味、皇帝が育ての親のようなものだから…

きっとそれが気に入らないんじゃないかな?

ただの孤児でしかない僕に…帝位の継承権なんてないのにね。」


「(話し方的に…あれ?とは思ってたけど、

もしかして…気づいてないのか?)」


アルトはフェイトのその口ぶりに…違和感を覚えた。


「(どう考えても、その皇帝って人は…

フェイトの…)」


フェイトの話を聞き、

アルトが行きついたのは…一つの事実。


「(いや、フェイトに何も話してないってことは…事情があるんだろう。

俺が余計なことを言うべきではないか。)」


だが、あえてそれは言葉にせず…己の胸の奥にしまうことにした。


そのことに関しては…

自分が首を突っ込むべき問題ではない…と、そう判断したのだ。


「でも、貴族か…」


「貴族がどうかした?」


「や、また貴族絡みか…

と思って…って、あ。

やっぱ今のなし。」


アルトは独り言のつもりで…

つい、ポロっと零してしまい…慌てて取り消す。


「?…よくわからないけど、まあわかったよ。

そりゃ、アルトにも事情くらいあるだろうしね。」


「(どっちかってーと…

俺じゃなくグレアの方だけど…

まあ、俺も侯爵家の意向に真っ向から歯向かってるし…一緒か。)」


アルトは件の一件もあり…

貴族に対して、あまり良い印象は抱いていない。


無論、ゲオルギスたちのような例外もいるが…

基本的にはアルトも母であるテレーゼと同じように貴族嫌いな傾向にあった。


「でも、そっか…

ごめん、アルト…

面倒なことに巻き込んじゃって…」


「あ、いや…そういうことじゃないよ。

別に乗りかかった船だし、気にしないで。」


だが、それはそれとして…

途中で投げ出す理由にはならない。


自身の好き嫌いなど、アルトにとっては二の次だった。


「船?…乗ってない…けど?…

アルトは船が好きなの?」


「え?…別に…そんなことはない…けど…」


アルトはそう言いつつも…ふと思う。


「(そういや、こっちの世界ではまだ普通の船には乗ってないな…

まあ、空を飛ぶやつはあるけど…

あれは飛行機みたいなもんだし、

乗ったというより、載せられたの方が正しいしな。)」


アルトは誘拐騒動の際に、

グレアと共に飛空艇に載せられたことで空路。

ゲルナンド領都や学術都市への移動の際に馬車に乗ったことで陸路。

この二つの移動手段を使った(?)ことはあったが、

未だ一般的な船舶を使用した海路での移動はしたことがなかった。


「(いや、でも…陸路・海路・空路のどれが好き?

って、聞かれたら…船だな…)」


なんて思いつつも…

アルトが選んだ理由は単なる消去法ではある。


陸路…馬車は激しく酔う。

治癒魔術でなんとか出来るようにはなったが、

結局、酔いはするので…あまり好まない。


空路…飛空艇はそもそも高所が別に得意ではない。

命綱なしでフリーフォールしたくせに今更、何を…という感じだが、

あれは緊急事態で仕方なくである。


そのため、アルトの中では海路…船が一番マシという結論に至ったのだ。


「海行きてえな…」


アルトはポツリと呟く。


船のことを考えたことで…

アルトは久しぶりに海へと行きたくなっていた。


「海?…

たしか、学術都市は海に面してなかったっけ?…」


アルトの呟きに…フェイトはそう返す。


「え!?…あったの!?

じゃあ、夏になったら行こうよ!」


「い、良いけど…」


「(楽しみが出来た…

なら、とっとと目の前の問題を解決しないとだな!)」


アルトはしばらく先に楽しみが出来たことで…

事態の解決へ俄然やる気になっていた。











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