第五章 少年期・学園生活編:授業開始
<Side:アルト>
アルトたちが寮に入って数日後、
学園の授業は始まった。
しかし…アルトは頭を悩ませる。
「(うーん、どうしよう?…)」
学園の授業には決まったカリキュラムなどはない。
前世における義務教育などとは違い、
任意で学校に通っているため、
必修の授業が特に定められていないからである。
学園の授業は一限あたり、五十分。
授業と授業の合間ごとに十分の休憩が設けられており、
午前九時から午後九時(最後は休憩がないため、正確には午後八時五十分。)までの全十二限。
その十二の時限の中から、
希望する時限の希望する授業を取って参加することが出来るという…
生徒にとってかなり自由度の高い選択制となっている。
なぜこういったシステムになっているかというと…
学園には子供から大人まで幅広い年齢層の生徒が在籍しており、
働きながら通う者なども一定数いるためである。
そういった者が授業を受けやすいように配慮がなされた結果、
このようなシステムになっているのだ。
だが、その自由度の高さが仇となり…
逆にアルトを困らせていた。
「(取りたい授業はいっぱいあるんだけどなぁ…
どれを取ろう…)」
基本的には取る授業に制限はない。
ただ、基礎を飛ばし、
いきなり応用から入ると…
さっぱり訳がわからないなんてことになりかねないので、
そのあたりは自然と選択肢からは外れる。
…が、それでも選択肢は膨大だった。
「(うーん…)」
アルトはその後もしばらく頭を悩ませ続け…
なんとか、選択する授業を決めた。
…
アルトが初めに選んだ授業は四つ。
授業その一。
学術科:歴史学。
その名の通り、世界の歴史についての授業。
大まかな歴史に関してはステラにも教えてもらってはいたが、
ステラは魔術の講師であって、歴史学の講師ではなかったため…
洩れているところや詳細が不明なところもそれなりにある。
そのあたりの深掘りや考証のために選択した。
授業その二。
魔術科:魔術基礎。
その名の通り、魔術を扱う前提となる基礎知識の修得及びその実践の授業。
正直なところ、既に魔術を扱えるアルトにとっては取る必要の薄い授業ではあるが、
基礎から見直すことでなにか新たに気づけることもあるかもしれない…
ということで、他の魔術科の授業を取る前に敢えて選択した。
授業その三。
武術科:体術。
その名の通り、己の身体を武器に戦う武術の授業。
学園の入学やらなにやらで、
アルトはしばらく身体を動かしていなかったこともあり、
一番身体を動かすであろう体術を運動がてら選択した。
授業その四。
芸術科:彫刻。
その名の通り、立体的造形芸術に関する授業。
アルトはゲオルギスの人形(というよりフィギュアだが。)を作った以降も、
手慰みに魔術による人形制作をしており…
そのブラッシュアップを目的に選択した。
もっとも、この授業に関してはそれほど優先度が高くなかったため、
アルトは元々は取るつもりはなかったのだが…
各学科の授業をバランスよく一つずつ取ることにしたため、
他の授業の息抜きがてら選択することにした。
追々、取る授業は変わったり…
その数も増えたり減ったりするかもしれない。
だがひとまず、この四つの選択した授業から…アルトの学園生活は本格的に始まる。
…
「(勉強自体はちょこちょこしてたけど…
こういう学校での本格的な勉強は久々で…
なんというか…楽しい。)」
アルトが学校に通うのは前世で通っていた時以来。
元々、勉強自体が嫌いではないこともあり…
それが学園の授業を何度か受けた上でのアルトの率直な感想だった。
「(でも、改めて思うのは…
ステラ先生の授業は滅茶苦茶わかりやすかったんだなって。
や、別に学園の先生の授業がわかりにくいというわけじゃないんだけど。)」
学園はこの世界では最高峰の学府であり、
その講師陣も相応の人材である。
それゆえ、授業が特別わかりにくいということはない。
無論、一対一の家庭教師と多対一の学校では比べるべくもないかもしれないのだが…
それを抜きにしても、
ステラの授業は学園の講師陣と比べても引けを取らないほどに質が高く…
アルトは改めてステラの教師としての才覚を思い知らされていた。
「(先生、元気かな?…
相変わらずちょっぴりドジなのかな?…
いつかまた会いたいなぁ…って、ちょっと待った。)」
久しく会っていない師に思いを馳せつつ…
ふと、ある想像がアルトの頭をよぎる。
「(もし、また会った時に先生に全然、成長してないとか思われたら…)」
もちろん、アルトはステラがそんなことを言うとは微塵も思っていないし、
アルトが成長していないなんてことも全くないのだが…
ステラに少しでもそう思われる可能性があるかもしれない。
と、そう考えただけで…
アルトはなかなか、心にくるものがあった。
「(が、頑張ろ!…)」
いつか師と再会できた時にがっかりさせず、
素直に再会を喜べるように…
かつて立てた誓いを違えぬために…
アルトは再び気合を入れ、自分の尻を叩いた。
…
<Side:グレア>
購買部の中に併設されている
食事スペースで昼食を摂りながら、
二人の少女と一人の少年は話す。
「にしても…アルのやつは何やってんだ?…
昼飯時だってのに今日もいねえし…」
「さぁ…わからないわ。」
「うーん…
私もわからないけど…
やっぱり、詳しいことはアル本人にしかわからないんじゃないかな?」
「やっぱそうだよなぁ…」
二人の少女と一人の少年…グレア、フィリア、ディエスの三人はそう結論付ける。
学園の授業が始まり、およそ一ヶ月。
グレアたちは休日以外、アルトと顔すら合わせないことも多くあり…
三人で過ごす時間が相対的に増えていた。
「でもよぉ…アルのやつ…
授業がある日は全然捕まんねえし…
授業の無い日でも聞いたところで適当にはぐらかすんだよな…」
「…たしかに。
一回聞いてみたけど、
私もはぐらかされたわ。」
「…私も。」
どうやら三人ともはぐらかされていたようで、
アルトは何をそんなに言いたくないのだろうか?…と、三人は首を傾げる。
「なにかあったとしか思えねえよな…
今度会った時、三人で問い詰めてみるか…」
「それしかないわね。」
「うーん…言いたくないことをそんな無理に聞き出すのも…
気にはなるけど、さすがにちょっと気が引けるけどなぁ…」
フィリアだけは若干しり込みしつつも、三人はそんな計画を練っていた。
…
そして、数日後。
三人の計画は実行に移された。
「ちょちょちょ!?
いきなりなに!?」
壁際に追い込まれたアルトに
三人はじりじりと無言で詰め寄っていく。
「アル…お前、最近変だぞ?」
「まぁ、僕は生まれた時から変だったらしいけど…って、
今、変なのはどう考えても、ディエスたちの方じゃない!?」
アルトの言うことももっともで…
状況的には三人の行動の方がよっぽど変ではある。
…が、今はそんなことはどうでもいい。
「俺たちのことは今はいいんだよ。
…それより、だ。
ここ最近、やけに付き合いが悪いけどよ…なにかあったのか?」
「え?…別になにもない…けど?…」
「なにもなくはねえだろ。
前まではほぼ毎日、最低でも昼飯くらいは一緒に食ってたのに…
最近はほとんど来ねえし。」
「…」
ディエスの鋭い指摘に…アルトは押し黙り、
四人の間には…しばらく、沈黙が流れた。
「…なにかあったなら、言いなさいよ。
なにも言わずに急に来なくなったら、
私たちも心配はするし…
それとも、私たちと一緒にいるのが嫌になった?」
沈黙を破り…グレアがそう問いかける。
「そ、そんなことはないよ…
ただ、こんなこと自分から話すことでもないか…って、
思ってただけで…言うのもちょっと恥ずかしいし。」
「「「恥ずかしい?」」」
アルトの返答に困惑する三人を尻目に、
アルトは続ける。
「…ただ、授業を受けるので忙しかっただけだよ。」
「「「じゅ、授業?」」」
グレアたちも授業は受けている。
そのため、普通に授業を受けていただけでは食事を摂る暇がないほど、
忙しくなるわけがないということも知っていた。
「ね、ねえ…アル、
今、何の授業を取ってるの?」
フィリアが何かに勘づいたのか、
驚愕の表情を浮かべつつ、
そう問いかける。
「何の授業を取ってるか?…
今週取ってたのだと…ええとまずは…」
アルトは指折り数えながら、選択している授業を羅列していく。
が…次第にそれを聞くグレアとディエスの表情は曇り、
勘づいていたフィリアは苦笑を浮かべる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい…
何を取ってるのかは一旦、いいわ。
それより…一体、いくつ授業取ってるのよ?」
アルトが羅列する授業の数のあまりの多さに…
グレアは聞き方を変える。
「もう取り終わった分も含める?」
「含…って、え?…
いや、私が聞きたいのはそうじゃないわ!
…アルト、アンタ一日に何時限取ってるのよ?」
グレアは…核心を突く問いをアルトに投げかけた。
グレアのその問いに…
アルトは無言で右手の人差し指を立て、
左手でピースサインを作った。
つまり、それが意味するのは…
「アンタ、馬鹿ぁ!?」
グレアから思わず某人造人間のパイロットのような言葉が飛び出るほど…
馬鹿げたフルスケジュールだった。




