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第五章 少年期・学園生活編:寮入り

<Side:アルト>


学園の入学式からさらに一週間後。

アルトの姿は学術科の生徒寮にあった。


「(今日からは…ここが俺の部屋か。)」


ここ半年ほどは宿暮らしだったが故にそれほど多くはない荷物を運び入れつつ、

アルトはそう心の中で独り言ちる。


「(この前までの宿に比べたら、

さすがにちょっと手狭だけど…

一人なら全然十分な広さだな…

グレアたちの方も似たような感じなのかな?)」


アルトたちは四人で話し合い、寮に入ることを決めた。

今頃は他の三人もアルトと同じように荷物の搬入や荷解きをしている頃だろう。


「(でも、まさか寮の家賃までタダとは…

特待生パワー、マジパネェ…)」


特待生は学費の免除に加え…

さらに寮の家賃(元々、格安ではあるが。)までもが免除になる。


無論、アルトとグレアはゲオルギスから、

フィリアとディエスはバルトから、

それぞれ生活費は十二分に渡されているため、

別にこれまで通りの宿暮らしでも資金的には全く問題はなかった。


だが、家賃免除の件を知ったアルトとフィリア…

これまでそれぞれ資金管理をしていた二人が熱烈に寮入りを推したことで、

四人の寮入りは決まったのだ。


「(せっかくもらったけど…これは…

うん、さすがに飾りたくないな。)」


荷解きをしていたアルトが手にしていたのは…

つい先日、グレアに誕生日祝いとして貰った奇異な仮面。


貰ったこと自体は嬉しかったものの…

アルトははっきり言って、扱いに困っていた。


仮面の用法としては…着けるか、飾るかくらい。

着ければまごうことなき不審者である。

だが、下手に飾って、

夜中にでも見てしまったら…

思わず悲鳴を上げてしまうかもしれない。


色々、考えた末に…

アルトは仮面を寮に備え付けの学習机の引き出しにそっとしまい込み…なかったことにした。


「(これで…荷解きはあらかた済んだかな?…

もう数日中には授業も始まるみたいだし、

ある程度、必要なものは先に買いそろえておくか。)」


仮面のことは意図的に意識から外し、

アルトはそんなことを考えていた。



学園の中央棟にある購買部。

そこでは食事や文房具を初め、様々なものが販売されており…

学園の生徒、もしくは職員なら誰でも購入することが出来るようになっていた。


「(意外といろんなものがあるな…)」


今は入学試験時に使った最低限の筆記用具しか持っていない

アルトはこれから授業を受ける時に必要になりそうなものを

一通り手に取っていく。


そして、あるものに目が留まる。


「(うん?…これは…羊皮紙が安いのか…

普通の紙が高いのか…)」


アルトの目に留まったのは材質の異なる二種類の紙束。


一つは羊皮紙。


もう一つはアルトにとっての普通の紙…

植物などの繊維で作られる白い紙である。


この二つは同じほどのサイズ・同じほどの量の紙束でも値段がかなり違っており…

白い紙は羊皮紙の何倍もの値段になっていた。


その理由は…

かつて、アルトが推測した通り、

この世界ではあまり製紙技術が発展していないことにある。


そのため、この世界では紙と言えば羊皮紙のことであり、

前世の記憶のあるアルトにとっては普通の紙でも…

あの白い紙はそこまで一般的なものではない。


むしろ、それほど製紙技術が発展していない中で…

価格は数倍でも販売している学園の購買部の品揃えが良いだけなのである。


「(まあ、別に普通の紙に拘りがあるわけじゃないし…)」


アルトはリオス村にいた時やゲルダの街にいた時にも

普通に羊皮紙は使っていた。

そのため、今はそれほど白い紙への拘りはない。

アルトは迷わず、価格の安い羊皮紙の方を手に取った。


その後も一通り商品を見て回り…

会計を済ませたアルトは購買部を後にした。


「(あれ?…グレア?…

何してんだ?…あんなとこで…)」


学術科の寮へと戻ってきたアルトが目にしたのは…

なぜか、寮の前で佇んでいるグレアの姿。


「…グレア、何してんの?」


「あ、やっと戻ってきたわね。

ていうか、アルトの方こそどこ行って…」


アルトから声をかけられ、

その存在に気づいたグレアはそう言いかけ…

アルトの持っている荷物を見て、固まった。


「も、もしかして…もう購買行っちゃったの!?」


「え?…あ、うん。

そうだけど…」


どこか慌てたようなグレアの問いに、アルトは頷く。


すると…グレアは明らかに落胆の表情を浮かべた。


「なんで、一人で先に行っちゃうのよ…

私も買いたいものあったから、せっかく誘いに来たのに…」


グレアはアルトと購買部に行くつもりで…

荷解きが終わってすぐにアルトの部屋を訪れた。


が、事前に聞いていた部屋にアルトはおらず…

困ったグレアは寮の前で待ちぼうけとなっていたのだ。


「(あー…寮の前にいたのはそういうことだったのか…

特にそういう約束とかもしてなかったし…

普通に一人で行っちゃった…)」


グレアたちも寮に移ったばかりで…

足りないものは当然、買いに行くことになる。

だとすれば、一緒に買いに行くということになるかもしれない。


よく考えれば、そういった可能性にも気づけただろうが…

アルトはそんなことは考えてすらいなかった。


「ご、ごめん…

ま、まあ…もう一回行ったっていいし…

あ、そうだ…もうすぐお昼だし、

ついでになんか食べようよ。」


グレアの落胆した様子に気づいたアルトは

困ったように頬を掻きつつ…そう提案する。


「…いいわよ。」


グレアは若干、不貞腐れつつも…アルトの提案に頷く。


「(ほっ…苦し紛れだったけど…

ちょっとは機嫌治ったみたいで良かった…

機嫌を損ねて殴られるのは嫌だし…)」


アルトはそんなふうに考えていたが…

最近はグレアに殴られることなどめっきり少なくなっていた。


グレアが成長したのか…

何か心境の変化があったのか…

そのあたりのことはアルトにはわからない。


だが、アルトの中では未だにグレアは暴力的というイメージが拭えておらず…

アルトは振るわれることのない拳の影を恐れていた。


「(…あ、そうだ。

どうせならディエスたちも誘うか。)」


もしかすると、ディエスたちもグレアと同じようなことを考えている可能性もある。

さすがに同じ轍は踏むまい…

そう考えたアルトは二人も誘いに行くことにした。


「?…アルト、どこ行くのよ?

購買はそっちじゃないでしょ?」


いきなり、明後日の方向へ向かおうとする

アルトにグレアは困惑する。


「?…武術科の寮と魔術科の寮、

どっちも行くならこっちから行った方が早いでしょ?」


アルトは振り返りつつ、そう答える。


各学科の棟は中央棟と繋がっているが…

必ずしも、中央棟を経由しないといけないわけではない。


ぐるりと迂回する形にはなるが…

アルトの示すルートで行けば、

一番、スムーズに行けるのだ。


だが、しかし…グレアはアルトになぜかしらっとした目を向けていた。


「はぁ…たしかにそうね。

でも…とりあえず、荷物置いてからにしなさいよ。」


頭を振ったグレアはやれやれ…と、

溜息をつきつつ、そう指摘する。


「…あ、そうだった。そうだった。

たしかに持って行っても邪魔になるもんね。

さっさと置いて来るよ!…ちょっとだけ待ってて!」


「ま、待つのはいいわよ…元々、待ってたし…

って、もういない…」


アルトはそう言葉を残すと…

グレアの返答を待たずして、

自室へと向かう寮の階段を慌てて駆け上がって行った。


「せっかく賢いのに、こういう時は馬鹿なんだから…」


グレアはそう呟く。

その呟きの意味を知るのは…グレア自身のみ。


グレアの呟きは誰にも聞かれることはなく…

風に乗って消えて行った。

補足:

学園の入学試験は六月・十二月に行われますが、

合格発表・入学式が行われるのは七月・一月です。


一般の生徒たちは六月後半~七月前半・十二月後半~一月前半は長期休暇となっており、

その間に行われる形です。

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