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第一章 幼年期編:初めての出会い

<Side:アルト>


眩い日差しと小鳥たちの囀り。

そこに誰かの笑い声が木霊している。


「だからまだはやいっていったじゃん!…」

「あんたがやれっていったんじゃない!…」

「けんかはだめだよ~」

「やれやれー!もっとやれよー!」

「あんたはちゃかすな!」

「あらあら…」

「…」


どこからか騒々しい話し声がする。

しかし、何を言っているのかまではわからない。


「(ていうか、俺…何してたんだっけ?…)」


アルトは直前の記憶が抜け落ちていた。


「(前にも…こんなことがあったような…)」


なんとか思い出そうとするが…

頭の中に靄がかかったかのように上手く思い出せない。


そして、アルトは何故だかわからないものの…

奇妙な浮遊感を感じていた。


「(…そうだ!

魔法を使おうとしていてそれで…)」


そこまで思い出した時点で、

アルトの意識は急速に覚めていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん…んん…」


あまりの眩しさにアルトは身をよじる。


「(眩しい…

誰か明かりを点け…っていや…)」


そう考えて…おかしなことに気づいた。


「(どう考えても、ただの照明がここまで眩しいわけはない。

しかも、さっきまで部屋にいたはずなのに…)」


思考がはっきりしていくのと共に…

ぼんやりとしていた視界も徐々に定まっていく。


「…あ、気が付きましたね。

大丈夫ですか?…

身体はどこか痛んだりしませんか?…

念のため応急処置はしたんですが…」


眼鏡をかけた長い銀色の髪の女が…

のぞき込みながら、そう問いかけた。


「う、うひゃあっ!…」

「ふごっ!…」


アルトは見慣れない顔に…思わず飛びのく。


「(だ、だだ…誰だ!?

ていうか、ここはどこだ!?)」


アルトは気が動転しているのか…

目を白黒させる。


だが、無理もない。

目を覚ますと、

全く知らない人物がすぐ側にいる。


それだけで、たいていの人間はこういう反応になるだろう。

たとえ、その人物がどれだけ美人でもそこは関係はないのだ。


と、その時…


「「アルト様!!」」


ニナとギルバートが勢い良く飛び込んできた。


「お怪我はございませんか!?」


「え!?…なんのこと!?…」


ギルバートの言葉の意図がアルトにはイマイチわからない。


だが、二人の話を聞くうちに…

アルトは直前のことをだんだんと思い出してきていた。


「(どうやら俺は魔法を暴走させていたらしいな…)」


アルトは魔法を制御しきれなくなって、そのまま水に飲み込まれた。

そのまま水はどんどん広がって、天井や壁に穴を開けてしまったらしい。


「(道理でこの惨状か…)」


部屋の壁や天井には穴が開き、そこから日が差し込んでいる。

眩しかったのはきっとそれが原因だ。


そして、魔法が暴走していて、

どうしようもなかった時に…

現れたのが、あの銀髪の女性だという。


いつの間にか現れ…あっという間に魔法の暴走を鎮めたらしいのだ。


「(すごい魔法使いのなのか?…

そうは見えないけど…)」


鼻のあたりを抑えてうずくまっている姿を見ると、とてもそうは見えない。


「(てか、あの人どうしたんだ?…

ずっとうずくまって…って、あ。)」


アルトはふと気づく。


状況を思い出してみると…

あの女性はアルトのことを介抱してくれていたようだった。


だが、目覚めたアルトが慌てて飛びのいたことで…

覗き込んでいた彼女の顔と跳ね上がったアルトの頭が衝突したのだ。


「(あんな美人に膝枕なんて嬉し…じゃなくて、

恩人に何してるんだ!俺は!)」


どう考えても…

助けてくれた上に、介抱までしてくれていた相手に対する仕打ちではない。


「だ、大丈夫ですか?…」


アルトは慌てて駆け寄りながら、声をかける。


「だ、大丈夫です!

ちょっぴり痛みましたが、もう平気です!」


絶対嘘である。

ほんのり涙目で…声も微妙に震えている。

メガネをかけていたことも相まって、

本当はかなり痛かったのだろう。


「(いや…本当に申し訳ない…

てか、この世界にもメガネはあるんだなぁ…)」


そんなことを考えながら、アルトは女に手を貸す。


「あ、ありがとうございます…」


女がアルトの手を取り立ち上がったその時、

カシャン…と何かが落ちた音がした。


「あっ…メガネが…」


アルトがぶつかった強い衝撃で…

女のかけていた眼鏡はポッキリと折れてしまっていた。


「ごめんなさい!僕のせいで…」

「アルト様!その女から離れてください!!」


アルトが謝罪を口にしようとすると…

ものすごい剣幕でギルバートが叫んだ。


「その女は…魔族です!」


「え?」


その言葉を耳にしたアルトは女の顔をまじまじと見つめる。


「ええと…その…そんなにまじまじ見ないでください…」


女は恥ずかし気に顔を背ける。


「あ、すみません。」


一応、謝罪はしつつも、

アルトはその姿に目が奪われる。


顔を背けているのでわかりづらくはなったものの、

女の眼は先ほどまでは両目ともに髪色と同じ銀色であったが、

今は片眼が金色に妖しく輝いていた。


「にしても…お姉さん!メガネがあったときも綺麗でしたけど、

メガネを外しても綺麗ですね!

そういうのオッドアイっていうんでしたっけ?」


剣呑な周囲の空気をぶち壊すかのようなアルトの発言に

ギルバート達はズッコケる。


「…アルト様。

先ほども申しましたが、その女は…魔族です!」


「…はっ?…魔族って…何?…」


「魔大陸に暮らす種族。人類の宿敵です!!」


今まで見たこともない剣幕でギルバートは言う。


「へ?…」


言葉の意味がイマイチ分からず、

アルトの頭には疑問符ばかりが浮かぶ。


ギルバートは魔族と言ったが…

目の前にいる女は見た目はいたって普通の人(美貌は普通ではないが)に見えていた。


「あの眼は『魔眼』…高い魔力を持つという魔族の証です!」


「(あのオッドアイは『魔眼』ってやつなのか!?…)」


『魔眼』…中二病全盛期の頃なら大喜びしてたであろうワードだ。

中二病はとっくの昔に卒業していたが、

それでもアルトはちょっとテンションが上がっていた。

…だって、男の子だもん。無理もない。


アルトは魔族のことどころか…この世界のことについて、まだほとんど知らない。

魔族と言われても…へーそうなのかーぐらいの感覚であった。

しかし、他の者たちにとってはそうではない。


「おのれぇっ!!父上の仇ぃっ!」


そう叫びながら、いつの間にか短剣を取り出したニナが半狂乱で女に突っ込んでいく。


「…!

【我が求めるは…】」


さすがに怪我をするわけにはいかないと、

女も応戦しようとしたその時…


バシャア!…

ぽたぽたっ…


「はあ…はあ…落ち着いて。」


アルトは冷静さを欠いているニナたちに水をぶっかけた。

魔法の暴走の直後で、ほぼからっけつの魔力を振り絞って。


「(ヤバ…ふらつく…)」


魔力切れの症状だ。

無理をした代償でアルトはそのまま倒れこんでしまいそうになる。


「まったく…無茶をしますね…」


「ははっ…

一日に二回も助けられちゃいましたね…」


倒れこみかけたアルトの身体を

受け止めたのは銀髪の女。


先ほどの魔術の暴走の件も合わせると…

アルトが助けてもらったのはこれで二回目だった。


「アルト様から離れろっ…魔族っ!!…」


「やめっ…」


アルトが制止する間もなく…

ギルバートが女性へと剣を振り下ろした…その時。


「ストーップ。」


間に割って入った男が…

振り下ろされる剣を指で掴んだ。


「「!!」」


「ば、バルト様…」


その男の名は…バルト・パトライアス。

アルトの父親であり、この屋敷の主人でもある人物だった。


「あ、あなたは…」


「ん?…君、俺のことを知っているのか?」


どうやら、バルトのことを知っているのか、

女は驚いた顔をする。


「ふふ…この大陸にいてあなたのことを知らないのは相当な世間知らずですよ…」


「(遠回しに世間知らずとディスられている気がする…)」


女の言葉は知らず知らずのうちに、

アルトにちくりと刺さっていた。


だが、続く言葉で…それどころではなくなった。


「『格闘王』バルト・パトライアス。

この大陸最強の体術使いではありませんか…」


「(ファッ!?)」


父のとんでもない称号を聞き、アルトに衝撃が走る。


「(『格闘王』!?

そんなに強いのか!?我が親父殿は!?)」


そんな話一度も聞いたことはなかった。


「そんなに大したもんじゃないさ。

…ところで、君は何者かな?」


バルトは謙遜しつつ、鋭い目つきで女に問う。


「あ、すいません。申し遅れました。

ギルドから依頼を受け、魔術の講師としてこの屋敷に参りましたステラと申します。」


銀髪の女は…ステラと名乗った。


「ん?ああ…なるほど!!

そういえば、テレーゼが依頼しておくと言っていたな!」


テレーゼは魔法を学びたいといったアルトのために、

三歳の誕生日のお祝いとして、

魔法の講師を依頼してくれていたらしい。


しかし、アルトは知る由もないが、

教える対象が三歳の子供であるアルトであるということなどが理由で、

報酬の高さの割に手を上げる者は中々現れなかった。

ステラを除いて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<Side:ステラ>


内心、ステラは焦っていた。


「(ええええっ!!??…

ここ、あの『格闘王』の家なの!?…)」


ステラは報酬の高さに釣られて、あまり詳細を見ずに依頼を受けていた。


旅の途中で路銀が少なくなりお金が必要であったが、

この辺りは辺境の方で依頼の数はあまり多くないし、

報酬も全体的に安価なものばかりだった。

そこでこの依頼に飛びついたというわけだ。


「(うう…私のバカぁ…『格闘王』なんて、悪評しか聞かないわよ…)」


『格闘王』にあまりいい噂は聞かない。

噂が確かなのかはわからないが、

しかし、確かなのはその強さ。


三年前、突如として現れ…

圧倒的な強さで、闘技大会の優勝をかっさらった男。


それが『格闘王』バルト・パトライアス。


今、ステラの目の前にいる男である。


「ん?…どうかしたんだい?…

様子が変だけど…体調でも悪いのかな?」


バルトがステラの様子を訝しみつつ、声をかける。


「だ、大丈夫です…」


動揺しつつも…ステラはなんとか声を振り絞る。


「お姉…じゃなかった…ステラさん。

体調が悪いのであれば、どこかの部屋で横になりますか?」


そんなステラの様子を見て…

アルトは心配し、声をかける。


「いえ、本当に大丈夫です…

むしろ、休んだ方がいいのは君の方ですよ…」


使用人たちがステラの言葉ではっとして、

アルトを別室に連れて行き、休ませようとする。


「いーやーだー!まだ行かない!」


しかし、アルトは強情で…なんとかこの場に留まり続けようとする。


使用人たちがアルトに対して、未だにどこか引け目があるのか…

そこまで強く出れずにいたこともあり、

アルトの連行は難航していた。


が…


「…というか今気づいたが、この部屋…なにがあったんだ?…」


「…」


あたりの惨状にバルトがようやく気付いた。

それと同時にさっきまで騒がしかったアルトが急に静かになる。


そろりそろりとこの場を離れようとする

アルトであったが、すぐにバルトに捕まった。


近くにいた使用人が一連の流れをバルトに説明する。



バチコン!


ものすごい音がなり、アルトはおでこを抑えて転げまわる。


「ぐおおお…いってえええ!…」


「馬鹿野郎!これでも手加減してんだぞ!

こないだのことと言い、あぶねえことばっかしやがって…」


バルトがしたのはデコピン。

しかし、とんでもない威力であった。


「すまないね、ステラさん。

うちの息子が世話になったみたいで…ありがとう。」


「い、いえ…ええと、息子さん大丈夫なのですか?…」


アルトは芋虫のようにのたうち回っている。


「いや、アイツはほっといていいです。

それより、依頼の話をしましょうか。」


「(ほ、本当にほっといていいの?…)」


ステラが未だにのたうち回るアルトに気を取られていると…


「魔族を屋敷に置くおつもりですか!?」


ギルバートが険しい顔をしながら叫ぶ。


「魔族がどうしたんだ?…ギルバート。」


バルトがさきほどまでとは打って変わり、冷酷に言った。

そして、冷淡に続ける。


「人族と魔族…いや、魔人族か。

この二種族間の戦争は百年以上前に終結し、人魔協定は結ばれている。

それはお前もわかっているだろう?」


「わかっています!ですが…旦那様も…」


「くどいぞ。ギルバート。」


「…!っ…」


なおも食い下がり続けるギルバートを

バルトは一蹴した。


だが、ギルバートは未だ不服そうな顔をしている。


「ギルバートさん…ステラさんがなにかしたのですか?」


ついさきほどまで芋虫のようになっていたアルトが言った。


「魔族は…我らの…人類の…宿敵です!!」


「それは魔族という種族の話でしょう?

それとも…ステラさん個人がなにかしたのですか?」


「…!それは…いえ…」


ギルバートは押し黙る。


「たとえ魔族であろうが、なかろうが、

僕はステラさん…いや、ステラ先生に魔術を教わりたいのです。」


前世でも人種問題はたくさんあった。

それ故に、アルトにも人種問題の根深さはわかっていた。


魔族のことや人族との因縁。

どれもアルトは深くは知らない。

だが、命の恩人に少しくらい恩を返したい…とステラの側についた。


すると…


ひょい。

アルトは後ろからいきなりバルトに持ち上げられた。


「バカタレ。体調万全じゃないんだろ。

部屋に帰って…ってここが部屋だったか。

まあいい、誰か適当な空いてる部屋に連れて行ってやってくれ。」


バルトは使用人たちにアルトを引き渡す。


「いや、え?…ちょ、最後まで…」


「気にすんな…別に悪いようにはしねえよ。」


アルトは未だ何か言い募ろうとしていたが、

半強制的に使用人に連行されていった。


「さて、すまない。ステラさん。

あー、ここじゃなんだな。

別室で話の続きをしましょうか。」


正直、ステラは戸惑っていた。

噂に聞く人物像と違い過ぎて、別人か?と言いたくなっていた。


『格闘王』はとても粗野で、荒々しい人物のはずで…

とても他人を気遣うような人物でも、知的な人物でもなかったはずだった。


「え、ええ…」


想像していた人物像との違いに面を食らいつつも、

ステラはバルトと共に別室へ移動した。

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