第五章 少年期・学園生活編:辞退
<Side:アルト>
時は、アルトが学長…エレアノールに呼び出されていた頃まで遡る。
「それで…どのようなご用件でしょうか?」
飛び出していったグレアを早く追いかけたかった
アルトはさっさと話を済ませようと…用件を尋ねる。
「君の入学試験の成績の話だ。」
「(あ、やっぱりそうだよな…
でも、入学試験の成績?…
俺、なにかやったっけ?)」
呼び出される理由の心当たりはそれぐらいしかなかったが…
かと言って、特段、試験で変わったことをした心当たりもアルトにはなかった。
そんなアルトの表情を見て、
エレアノールはアルトがあまりピンときていないことを察したのか…続ける。
「君の成績は…新入生トップ。
つまり、首席合格ということだ。」
「(首席?…俺が?…
まっさかぁ…無理矢理埋めたところもあったのに?)」
入学試験の成績や順位などの詳細な情報は
受験者サイドには開示されていない。
いきなり告げられた初耳すぎる情報にアルトは目を丸くする。
「そして、首席合格者には入学式での新入生代表挨拶をしてもらうんだが…」
驚くアルトを置いて、エレアノールはさらに続けようとするが…
「お断りします。」
アルトはエレアノールが言い終わるよりも早く、
食い気味にそう答えた。
「ある程度の定型文があって…
ん?…今、なんと言った?」
あまりにも食い気味なアルトの言葉に…
エレアノールは思わず聞き返す。
「だから…お断りします。」
「なぁっ!?…
なぜだ!?…」
そんな返答は予想もしていなかったのか、
エレアノールは素っ頓狂な声を上げる。
「…あんまり、目立つの好きじゃないんですよ。」
アルトは結果的に目立つことは多いが…
そもそも、別に目立つことを好んではいない。
だが、数百人いる新入生の代表なんてものを引き受けるとなれば、
否応なしに目立つことになるのはわかりきっている。
グレアの事情などもあり、
アルトは必要以上に目立つことは避けたい。
そのため、なんとか理由を付けて断ろうとすると…
「…そ、そうか。
なら、無理強いは出来んな…」
エレアノールは思いの外、あっさりと引き下がった。
「(あれ?…えらくすんなり引き下がるのな?)」
エレアノールがあっさり引き下がったのは…
エレアノール自身も、
学長という立場でさえなければあまり人前には立ちたくないタイプで…
あまり目立つことを好まないためである。
が…当然、そんなことをアルトは知る由もない。
さほど引き止めもせずにあっさりと引き下がったことにただただ困惑していた。
「しかし、困ったな。
新入生代表挨拶は毎期、首席合格者にやってもらうことになっているのだが…」
「(本当に困ってる?…
その割に、随分とあっさり引き下がったけど…まあ、それはいいか。
でも、俺が断ったせいだし…あ、そうだ。)」
さほど困っているようには感じられないエレアノールに首を傾げつつも…
アルトは若干の責任も感じ、
色々と考えた結果…とある案が思い付いた。
「なら、僕は首席を辞退するので、
次席の方を繰り上げで首席にしていただくというのでどうでしょうか?」
アルトはそう提案する。
「…構わないのか?
学長の私が言うのもなんだが…学園の首席入学というのはかなり名誉ある称号だぞ?」
学園は世界でも指折りの教育機関である。
その首席ともなれば、卒業後の進路は引く手数多。
入学時の首席が卒業時も首席とは限らないものの…
そうやすやすと捨てるのは勿体ない称号である。
「構いません。」
だが、アルトにはそんなことは関係ない。
そんな称号が欲しくて学園に来たわけではないのだ。
「そうか…わかった。
首席の辞退の件…了解した。」
エレアノールは一切揺るがないアルトに苦笑を浮かべつつも、
納得した。
「まあ、首席は辞退しても…
君の成績だと…十中八九、特待生認定されることになるだろうね。」
「(首席を辞退しても…特待生には認定されるのか?)」
首席辞退ということ自体、稀なことらしいが…
エレアノールが言うには、どうやら首席と特待生は別枠らしい。
「特待生…ですか?…
それもそれで目立つような…」
「おっと、特待生まで辞退するなんて言うんじゃないぞ?
特待生は首席とは違って、それなりの人数がいる。
そう目立ちはしないさ。」
アルトが辞退すると言い出す前にエレアノールは機先を制し、言う。
特待生は学園の全生徒のうち、たったの数パーセント。
そう聞くと…珍しいもののようだが、
入学時に特待認定を受けるのは入学試験で上位の成績を収めた四十人。
つまり、在学する全期生を合わせれば…少なくとも四百人。
入学後に認定される者も含めればもっと多くなる。
そのため、人数だけを見れば特待生自体はそう珍しくもない。
まあ、生徒の母数がかなり多いことで…相対的に珍しく見えはするのだが。
「(なら…まあ、いいのか?
特待生は確か…学費が浮くんだっけ?
…まあ、悪くはないか。)」
その辺の事情を詳しく知らないアルトはエレアノールの言葉に流された。
「(って、そうじゃない。
話が終わったなら、早くグレアの後を追いかけないと…)」
アルトは自身が急いでいたことを思い出す。
「ええと…お話はこれで終わりですかね?」
「?…ああ、すまない。
急いでいたんだったね。
もう構わないよ。」
「じゃあ、すみません。
失礼します!」
そう口にすると…アルトは慌てて学長室を飛び出して行った。
「…」
静かになった学長室で…
エレアノールは
引き出しを開け、
その中から一枚の紙を取り出す。
その紙は…記入済みの答案用紙。
誰のものかは…言うまでもない。
「変わった子だけど、極めて…優秀。か。」
試験問題の中には入学試験の段階で解けるはずもないような
回答を前提としていない問題もいくつかあった。
にもかかわらず、少しの間違いがあっただけで…
問題は全て解かれていた。
「…これからが楽しみだ。」
千年近く続く学園の歴史の中でも屈指の好成績に…
エレアノールは笑みを零す。
…が、その表情はいきなり曇る。
「そういえば…私も入学式で挨拶があるんだった。
出来れば…私もやりたくないなぁ…」
数日後に待つ憂鬱な出来事を思い浮かべ…
エレアノールは溜め息をついた。
…
「…てな感じで、新入生代表を辞退したってだけだよ。」
三人に問い詰められたアルトは一連の流れを説明した。
「ふうん…でも、勿体ないわね。
せっかくアルトの凄いところを見せつけるチャンスだったのに。」
「いや、見せつけないし…
だいたい挨拶くらいで何を見せつけるっていうのさ。」
グレアの呟きにアルトは思わずツッコむ。
「何って…裸くらいか?
いや、アルは見せつけれるほど大したもん持ってねえか。」
「おい、ディエス!?
昼間っからなんてこと口走ってんだ!?
しかも、ここはご飯屋だぞ!?」
白昼堂々、ディエスから発せられたとんでもない下ネタ発言に、
アルトは狼狽える。
「?…いや、アルはヒョロいし、
見せつけるほどいい身体はしてねえって言っただけだぞ?
…なにと勘違いしたんだ?」
「っすうー…うん、そうか。」
グレアたちの反応的に、下ネタと捉えていたのはアルトだけ…
いや…フィリアだけは若干、顔を赤くしているからわかっているのかもしれない。
「(にしても…俺ってそんなに細いのか?…
一応、鍛えてるから…それなりに筋肉は付いてるつもりなんだけどなぁ?)」
アルトの筋肉量は目に見えてわかるほどに増えてはいるのだが…
ディエス的にはまだまだ足りないらしい。
「(ま、今はいいや。
それより…うん。
これも中々、美味いな。)」
食道楽のアルトは思考を放棄し、
再び食事に舌鼓を打つ。
「(ここのお店、何て名前だったっけ?…
あとで忘れないようにメモッとこ。)」
そんなこんなでアルトたちの再会を祝した
宴(全員、未成年なので別に酒は飲んでない+真っ昼間だが。)は過ぎていった。
因みに入学試験におけるそれぞれの順位は…
アルトが一位。
新入生代表挨拶をした少女が二位。
フィリアが四位。
グレアは十一位。
ディエスは三十八位。
でした。
二位の少女は…今期以外なら全く問題なく首席を取れる成績ではありました。
(なんなら、四位のフィリアですら他の期なら首席を取れていたほどで…
今期の二位以下は超激戦だった。)
が、今期だけはアルトがぶっちぎり。
(解答欄の空白を嫌い、なんとか埋めた部分もあったので…本人はあまり自覚がない。)
少女は惜しくも首席を逃した…
かと思いきや、アルトは目立つことを嫌い、首席を辞退。
繰り上がりで少女は首席に収まりました。
少女にとっても、
アルトにとってもwin-winな結果でした。
…少女がこのことを知りさえしなければ。




