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第五章 少年期・学園生活編:冗談はほどほどに

<Side:アルト>


「百歩譲って…武術科じゃなくて、魔術科ならまだわかるわ。

最近はあんまり使ってるとこみないけど、アルトは凄い魔術士だし…」


グレアは共に剣術に取り組んできたこともあり…

アルトが武術科を選択していると思い込んでいた。


「私も…まだ武術科ならわかるけど…

アルはバルトさんに体術を習ってたみたいだし…」


フィリアも魔術を教えてもらっていたことで…

アルトが魔術科を選択していると思い込んでいた。


そして、二人とも…

アルトと同じ学科を選ぶつもりで…

グレアは武術科を、フィリアは魔術科をそれぞれ選択していた。


「「でも、なんでよりによって…」」


だが、アルトが袖を通していた制服の胸に刻まれたエンブレムは…


「「学術科なの!?」」


得意とする魔術の魔術科のものでも…

ここ数年、磨いていた体術や剣術などの武術科のものでもなく…学術科のものだった。


「ちょ、え?…

が、学術科を選んだのそんなにダメだった?…」


詰め寄ってくる二人のあまりの剣幕に…アルトはたじろぐ。


「ダメじゃない…けど…」


グレアはアルトに何か言おうとしていたが…

隣にいたフィリアと目が合い、口を噤んだ。


「(ど、どうしたんだ?…グレアらしくもない…って、あ。)」


らしくもなく、煮えきらない様子のグレアに、

アルトは違和感を覚えたが…ふと、気づいた。


「(よく考えたら…グレアはフィリアたちとは初対面かだもんな。

グレアは人見知り…いや、フィリアもか。)」


グレアも、フィリアも…人見知りである。


どちらも置かれていた境遇故の人見知りではあるが…

その性質は大きく異なる。


グレアの場合は…内弁慶、外地蔵。

明るく、前向きな性格だが…

家族や友人など他人との関わりの薄かったが故に、

コミュニケーションが下手で…

特に初対面ともなれば、どう接すればいいかわからない。


フィリアの場合は…内地蔵、外地蔵。

優しく、穏やかな性格だが…

村の子供たちにイジメられていたこともあり、

家族と、友人であるアルトやディエスとその周囲の人間相手には、緩解しているものの…

未だに知らない相手には怯え、竦むこともある。


「(にしても…この二人を会わせたら、

グレアがフィリアを泣かせるんじゃないかとか思ってたけど…

まさか…こうなるとは。)」


出会った直後はアルトのおかげ…

もとい、アルトのせいで…二人とも興奮しており、

それどころではなかったが…人見知りが二人。


その間には…気まずい沈黙が流れていた。


「色々、言いたいことはあんだけど…まあ、今はいいか。

つうか…アルは学術科にしたのか?」


沈黙を破ったのは…ディエス。


ディエスはアルトに対し、

言いたいことはあったものの…

これ以上、気まずい空気にしてたまるか…と、

ひとまず呑み込み、アルトに話しかける。


「!…あ、ああ…そうだよ。

そういうディエスは?」


「俺は…これだな。」


そう言いながら、ディエスは制服の入った袋に手を突っ込み…

中身を取り出し、見せた。


「!…武術科か!…

まあ、ディエスならそうだよな…

芸術科とかは似合わねえし。」


「おいこら、どういう意味だこら。」


「そりゃそのままの…

って、ん?」


アルトは軽口を叩きつつ…

ふと、気づいた。


「そのエンブレム…グレアと同じじゃね?」


「何言ってんだ?…

同じ学科選んでんならそりゃそうだろ?…」


ディエスは何を当たり前のことを…と、ばかりに首を傾げる。


「いや、グレアは特待…」


特待生のエンブレムは…

一般生のものと違い、金色の縁取りがされており、

一目で見分けがつく。


にもかかわらず、

エンブレムが同じというのが、

意味するところは…


「俺も特待ってだけだろ?」


ディエスは事も無げにそう言った。


「はあぁっ!?…」


アルトは驚きのあまり…

目を見開き、ディエスの方を凝視する。


「勉強嫌いのお前が!?…

ていうか、お前…そもそも、読み書きも出来なかっただろ!?」


アルトは離れていた間…

二人がどんなふうに過ごしていたかを知らなかった。


フィリアたちがギルバートに勉強を教えてもらっていたことや、

ディエスが読み書きをできるようになっていることも…当然、知る由もなかった。


「いつの話だよ…

まあ、今も勉強は別に好きでもねえけどな。

フィリアにせっつかれてよ…」


「フィリアに?…

ああ、なるほど。」


その言葉を聞き、

アルトは納得した。


フィリアが…聡い彼女が教えていたのなら、

まあ、そういうこともあるか。と。


実際、学術都市に来てからディエスに勉強を教えていたのはフィリアなので、

あながち間違いでもないのだが…

二人の合格の裏にあのとんでも執事がいたことなど、

さすがのアルトにもわかるわけがなかった。


「そういや、そのフィリアは何科にしたの?…」


ふと、思い出したように…アルトは尋ねる。


「わ、私?…

ま、魔術科…私も…い、一応…特待。」


若干、恥ずかしそうにしつつも…

フィリアはそう答える。


「おお、さすがぁ…

まあ、ディエスが通って…フィリアが特待通らないわけないか。」


「たしかにその通りだとは思うけど、

なんつう言い草だよ!?」


「(ってことは…全員、特待ってこと…だよな?…

マジかよ!?…すげえな!?)」


騒ぐディエスは放置し、

四人とも特待で合格していたという事実に…

アルトは驚きつつも、喜ぶ。


「…なあ、ディエス。

今からでも芸術科にしねえ?」


「…いや、なんでだよ。

さっき、似合わねえとか言ってたくせに…」


「いや…ディエスが芸術科だったら、

綺麗に四人バラバラだったなぁ…って。」


アルトは軽い冗談のつもりだった。

…が、それが他の誰にとっても冗談に聞こえるかと言われればそうではない。


「アル、私たちと…

一緒は…嫌、なの?…」


アルトにそう問いかけたフィリアの頬には…

一筋の涙が零れていた。


「(あー…しまった。

今の、そういう風にも聞こえるか…

でも、泣くほどか?…

いやまあ…悪いのは俺だけど。

にしても、相変わらず…泣き虫なんだなぁ…)」


アルトは…離れていた間の二人のことは知らない。

フィリアの努力も…想いも。


知らないことは…いくら聡くともわからない。


アルトには…フィリアの涙の理由はわからなかった。


「ご、ごめん…言い方が悪かったよ。

別にそういうわけじゃなくて…」


だが、アルトとて…別にフィリアを泣かせたかったわけではない。


どうにもバツが悪そうにしながら…

アルトはディエスに視線で助けを求める。


「なあ、フィリア…落ち着けって。

アルのやつも冗談で言っただけだって。

学科だってたまたま分かれただけで…

わざと別の学科にしてるわけじゃないだろうし…なあ、アル?」


「そ、そうだよ…

別に学科は違っても他の科の授業は受けられるし…

一番、興味のあった学術科にしただけだからさ…」


アルトはディエスの言葉に…

慌てて頷く。


「そう…なの?…」


だが、フィリアは訝しげで…

アルトはさらに続ける。


「別に…皆と一緒にいたくないわけじゃないんだよ。

ていうか…だったらそもそも皆で学園に来てないでしょ?」


「!…そう…だね。

うん、言われてみれば…たしかにそうだ。

デ、ディエス!…もう式始まっちゃうし、そろそろ着替えに行こう!」


アルトの言葉に納得したのか、

フィリアはその少しだけ長い耳を赤くして…

更衣室へと駆けて行った。


「ちょ、おい…フィリア!

ったく…しょうがねえなぁ…

アル、俺も着替えてくるわ。」


ディエスもそう言うと…

フィリアの後を追うように更衣室へと向かった。


「(失言だったな…

ディエスが間に入ってくれたから、

どうにかなったけど…気を付けないと。)」


アルトがそう反省していると…

ローブの袖が引かれる。


「武術科を選ばなかったことへの文句とか、

色々言いたいけど…今はいいわ。

まあ、とりあえず…

あの二人は後でもいいから、紹介しなさいよ?

私、途中から蚊帳の外だったんだから…」


フィリアとディエスの二人が離れ…

グレアはようやく口を開いた。


「あ、ごめん…

でも、蚊帳の外って…

僕の言った皆にはグレアもちゃんと入ってるからね!?」


「そ、そう…

でも、知ってると思うけど…

私、あんまり人付き合い得意じゃないわよ?…」


アルトの言葉に少し照れたようにしつつも、

グレアはそんな懸念を口にする。


「二人とも…良い奴だから、大丈夫さ。

あ、でも…暴力はダメだよ。

特にディエス相手だと喧嘩になっちゃうかもだし…」


「言われなくても…そんなことしないわよ!」


「だと、助かるよ。

まあ、なんて言いつつ…僕とディエスは殴り合いになったこともあるんだけどね。」


「何やってんのよ…」


あんなこともあったなぁ…と、

懐かしげに…どこか楽しそうに話すアルトに、

グレアは呆れた視線を向け…苦笑いを浮かべていた。

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