第五章 少年期・学園生活編:条件反射で殴るのはただの危険人物
<Side:アルト>
学園の特待制度は入学試験時に、
上位の成績を収めた者が自動的に認定される。
(入学時に特待認定を受けられずとも、
入学後の成績によっては入学後に追加で特待認定を受けることもある。)
特待認定には学費免除を初めとした恩恵がいくつかあり…
かつて、ジルが言ったように認定を受けるのはそう容易ではない。
にもかかわらず…
「(二人とも特待ってマジか!?…)」
アルトとグレアはなんと二人そろって特待認定を受けていた。
「グレア!
グレアもおめで…」
アルトはかなり興奮した様子で祝いの言葉を口にしようとし…
「…ふん、私たちなら当然よ。」
「(あ、あれ?…そんなに嬉しくないのかな?…)」
グレアの思いの外、冷めた反応に困惑する。
しかし、よく見ると…グレアの口の端は少しニヤついていた。
「(って、なんだ…グレアも喜んでんじゃん。
最近、なんか変なとこで素直じゃないんだよな…
いや、よく考えりゃ…割と初めからそうだったか?…
まあ、グレアはわかりやすいから別に構わないんだけどさ…)」
グレアの感情はわかりやすく表情に出ており…
根っこの部分の素直さは全く隠しきれていない。
実際のところ、出会った当初のグレアの虚勢とは違い、
今のグレアの虚勢はアルトの前で余裕ぶって背伸びしているだけなのだが…
そんなことはアルトが知る由もなかった。
「(にしても、二人とも特待で合格とかそんなことあるんだな…さすがに驚いたわ。
まあ、特待だと学費が浮くし、
全然、悪いことじゃないから良いんだけどね。
生活費とかでなんやかんや結構貰っちゃってるし…
余ったお金はゲオルギスさんにまた会った時にでも返そうかな。)」
アルトがそんなふうに考えていると…
「入学式は十時から隣の第一大講堂で行われます。
臨時の更衣室も用意されていますので、
式が始まるまで制服に着替えておいてくださいね。」
制服を受け渡してくれた女子生徒は二人にそう案内する。
「(妙だとは思ってたけど…そういうことね。
制服の受け渡しが九時からなだけで…
十時までに制服を受け取って着替えとけばいいって感じなのか。)」
女子生徒の言葉で、
第二大講堂にいた新入生の数が妙に少なかった理由に…
アルトは納得する。
「(でも、今から着替えに行くとして…
着替えの時間も計算しても、
少なくとも三十分以上は時間余るな。)」
隙間時間にしては…少しばかり、時間は余り過ぎである。
いくらなんでもさすがに来るのが早すぎたじゃん…と、
早く着く原因となったグレアにアルトは苦笑いを浮かべるが…
「(まあ、ギリギリになるよりは時間が余るほうが全然マシか。
集合時刻は間違ってたけど…余裕を持つなら、九時で正解だったんだ。
うん、そういうことにしておこう。
というか…そもそも、入学式の日時とかを見てすらなかった
俺がどうこう言えることじゃないしね。)」
最終的には…早く着く分にはまあ、悪くないか。という結論に落ち着いた。
「そういうことらしいけど…グレア。
後になると更衣室が混むかもだし…
とりあえず、先に着替えとかない?」
「混むのは嫌ね…
そうするわ。」
グレアはアルトの提案に頷き…
二人は更衣室へと向かうことになった。
…
「(この学園の制服のこと…あんまわかってなかったけど、
これくらいなら…別に更衣室いらなくね?)」
早々に着替えを済ませたアルトは、
グレアが着替え終わって、
出てくるのを更衣室の外で待ちつつ…心の中でそう独り言ちる。
学園の制服は胸に各学科のエンブレムの刺繡の入ったローブであり…
中に何を着るかなどは生徒の自由になっている。
(さすがに中に何も着ないのはダメだが…)
そのため、外套を脱ぎ…ローブを上から羽織りさえすれば、すぐに更衣は終わる。
わざわざ更衣室で着替えるほどでもない。
「(でも、ちょっと失敗したな…
数年後のことも見越してちょっと大きめのサイズにしたら、
思ったよりブカブカだ…)」
制服あるあるである。
成長を見越して初めは少し大きめにしておきがちで…
それでも、何年か経つ頃には丈が足りなくなるまでがワンセットなのだ。
「(まあ、ステラ先生に貰ったローブほど大きすぎるわけでもないから、
全然着れはするけど…
やっぱりもっと小さいサイズにすれば良かったか?…
いや、でも…それはそれでなんかプライドが…)」
成長を見越していたのもあるが…
アルトが大きめのサイズにしたのには若干の見栄も混じっていた。
ここ数年間で背丈はそれなりには伸びたものの、
アルトの身長はグレアより少し低い程度で…
相変わらずの小柄具合。
少しでも大きく見せようとした…アルトの細やかな抵抗だったのだ。
そして、そんなことを考えていると…
「ったく…の野郎、
俺らの…来るっつって…結局…まま…
もう…じゃねえか…」
「あはは…入学…前だし、
…だって…多分、いろ…忙しい…よ。」
アルトは誰かの話し声を耳にした。
話し声はだんだんと大きく…
はっきりと聞こえるようになっており…
アルトの方に近づいて来ているのがわかった。
「(多分、制服を受け取って着替えに来た他の新入生かな?…
となると、この辺りこれから混みそうだな…
他のとこで待つ方がいいか?…)」
アルトは混み始めるのを察知し、
待つ場所を変えようとした…その時。
肩にいきなり手が置かれた。
「(…!?)」
アルトはバッ…と、慌てて振り返る。
「待たせたわね。」
アルトが話し声に気を取られている間に…
いつの間にかグレアはアルトの後ろに立っていた。
「なんだグレアか…
ビックリした…」
「なんだってなによ?…」
「いや、いきなり後ろに立たれると、
誰でも驚く…あ!…
俺の後ろに立つな…」
アルトは思い出したかのように決め顔で言う。
…まるで、どこかの殺し屋のように。
「それは悪かったわよ…
って…もう後ろには立ってないじゃない!」
グレアは至極当然のツッコミを入れる。
「…まあ、そうだね。
でも、急に後ろに立ったら条件反射で殴られたりするし、
危ないよ?」
「それ、危ないのは…殴る方でしょ!
とんだ危険人物じゃない!
急に変な顔もしだすし…わけがわからないわ…」
グレアは自分のことを棚に上げつつ…そう返す。
「(上手いこと言うなぁ…
あれ?…そしたら…
グレア自身も危険人物じゃない?…
でも、殴られるときは理由があるし…
ほな、危険人物とちゃうか…
でも、初対面の時は問答無用で殴られた気もする…
ほな、危険人物か…って、それはもうええわ。)」
アルトは某漫才師のようなセルフツッコミをしつつ…
「グレア、そこは…わけがわからないよ。だよ。」
今度は女子中学生と契約する某マスコットのようなことを言い出した。
「大して変わんないじゃない!
ホント、なんなのよ…」
アルトのおかしな言動は今に始まった話ではなかったが…グレアは呆れていた。
「(ん?…)」
アルトは振り返ったことで、
更衣室側を向いており…更衣室へ向かう者たちの姿は自ずと視界に入る。
「あ!?」
その姿が視界に入ったことで…
アルトは何かに気づいたように…素っ頓狂な声を上げる。
「「?…あ!?」」
アルトの声に…
その姿の主たちは振り返り、アルトと同じような反応をする。
「「アル!」」
「おお、フィリア!…ディエス!…
二人ももう来てたのか!」
そこにいたのは…
先日、久方ぶりの再会を果たした同郷の幼馴染。
フィリアとディエスだった。
二人も早々に制服を受け取り、
更衣を済ませようとしていたのだ。
「いや、もう来てたのかじゃねえよ!…
お前、結局…って、フィリア?…」
ディエスがアルトに何か文句を言おうと…近づくが、
それよりも早く…フィリアがアルトに無言で近づいていく。
時を同じくして、
見知らぬ人物たちの接近に人見知りを発揮したグレアが…
視線を逸らそうとし…その視線がアルトの胸元に留まる。
「え?」
いきなり、左右の腕をグレアとフィリア…
それぞれに掴まれたアルトは困惑する。
「「なんで…」」「武術科じゃないの!?」「魔術科じゃないの!?」
初対面のはずの…二人は揃って、そう叫んだ。




